16 いざエルフ村⑦
予想よりちょっと遅くなってしまいました。
「それにしても、人間ってそんなに強いのですか?」
気になったので、この機会に訪ねてみる。
「正直なところ、肉体的にはそこまで強くありません。
筋力は多くの種族に劣り、弓の腕も我らに劣ります。ドラゴンなどとは比べるべくもありません。
奴らの恐ろしい点は、狡猾なところなのです」
村長が答える。
「魔法については、ご存知ですか?」
魔法なんて見た事ないから知らない。と答えようとして、頭に何かひっかかるものがあった。
あれ?私どこかでそれっぽいものを見たような。
そう思いつつ、今までにこの世界で出会った面々を見回す。
ぬし様、葵、紫蘭…あっ。
そうそう、紫蘭と一緒にいた精霊が髪を乾かしてくれたんだった。
あれの事かな?
「精霊が風を操る所を見ましたが、その事でしょうか?」
「ふむ、近いですが違いますな。
よろしい、一から説明致しましょう。
魔法とは、我々エルフや人間が体内に持つ魔力を対価として、力を持つ者から力を借りる事を指すのです。
ひとつ実演してみせましょう」
そう言って右手を上げる村長。
『親愛なる風の精霊よ。我が求めに答え、そよ風を吹かせたまえ』
と空に向かって語りかける。
これ、自動翻訳のせいなのだろうか?普通に精霊に話しかけているように聞こえる。
村長の右手が光ったかと思うと、確かに風が吹いてきた。
「如何ですかな?これが精霊魔法です。
名前の通り、精霊の力を借りて、力を発現致しました。
この他にも魔物や魔獣の力を借りる、黒魔法と呼ばれるもの。
神やその眷属の力を借りる、白魔法と呼ばれるものがあります。
我々エルフは精霊魔法しか使う事ができませぬが、人間は全てを使う事ができます」
なるほど、それならぬし様から力を借りれば黒魔法なんだ。
私にも使えるのかな?
「力を借りるわけですから、相手の不利益になるような力の貸し方はしてもらえません。
ですから、人間は魔法を貸す側に益がある状況を作り出してから、戦いを挑んでいったのです」
うん?何やら普通の事に聞こえるけど?
私が眉を寄せた事に気付いて、村長が補足を入れてくれた。
「昔、こんな事がありました。
ある日、ハーピー族の王女が拐かされたのです。
ハーピー族が手を尽くして行方を追った結果、王女は見つかりました。
リザードマン領で、串刺しになった姿で。
ここで人族はハーピー族に言ったのです。犯人はリザードマン族の者だ。復讐すべしと。
ハーピー族は怒り狂い、リザードマン族との全面戦争状態になりました。
この時、人間族がハーピー族の防衛戦力として領地に入り、そのお陰でハーピー族はほとんどの兵力を攻撃に回したのです。
奮闘し、大損害を出したものの、ハーピー族はリザードマン族を見事討果し、自らの国に凱旋しました。
そこで彼らが見たものは、リザードマンの力を借りた魔法により、蹂躙された祖国でした。
国内に残る者は皆殺しにされ、凱旋した者のほとんども、人間により討たれました。
その後、リザードマン族の領土に侵攻した人族は、生き残ったリザードマン族達も皆殺しにしたと聞きます。
こうして人間はリザードマン族、ハーピー族を皆殺しにし、それぞれの国を奪い取ったのです」
う、う〜む。
正直反応に困る話だ。
さっきの話、味方が実行した作戦であれば良くやったと褒める話だし、敵が実行した作戦であれば卑怯だと憤慨する話だ。
こういう所が、エルフ達にとって人間が狡猾だと思われる要因なのかな。
あ〜、でも正直に言うと、村長に睨まれそうだし、とりあえず共感を示しておこうかな。
「そうですね。罪を人に擦り付けるのはヒドイ話ですよね。
最初のハーピー族の王女、実際に誘拐して殺害したのは人族なんですよね?」
「ご名答、その通りです。
奴らめ、事が終わった後、自慢げに吹聴しておったのです!」
勝てば官軍の思考、こっちの人族も持ってそうだな〜。
「そもそも、人族が暴れ出す前は、この世界は平和だったのです。
ハーピー族も、エルフ族も、ドラゴン族だって、それぞれの領土内で平和に暮らし、ささやかに多種族間で交流する日々だったのです。
人族はその中で最弱の種族だったから、皆が哀れに思って力を貸していた、だというのに奴らは裏切り、世界に争いを生み出した。
皆、人間に力を貸すのはやめようと思ったのですが、先のハーピー、リザードマン間の争いのように、種族間の諍いを利用し、力を強引に借りていったのです。
そして、長い戦いの日々の果てに世界は再び平和になりました。
人族以外の全ての種族を根絶やしにして、ですがね」
と力なく笑う村長。
確かに、民族浄化の如く、多種族を根絶やしにする事に躊躇いがない行動は共感できない。
この世界の人族の考え方が気になる。
利己的なのか、あるいは政策的、宗教的な理由なのか…。
「この世界大戦の引き金となったのが、最初にこの世界に召還された人間だったと言われています。
本人はとうの昔に寿命でこの世を去ったようですがね。
その後に召還された者も、驚くべき戦闘力を発揮し、騙し討ちと合わせて多種族に大打撃を与えたのです。
私達が召還者を恐れたのも過去の実績からなのです」
誰だ、最初の召還者。
地球から行った人でない事を祈る。
何かそういう事をしそうな過去の偉人が何人か思い浮かぶが、偶然偶然。
多分違うよね?
全力で知らん振りする事にした。
何か、場の空気がもの凄く重くなってしまったので、話題を変える事にする。
「あの、魔法って、私にも使えますか!?」
声をはっていく。はい、もう暗い話はおしまい、おしまい。
「召還者ですからな、使えるでしょう。
黒魔法であれば、力を貸せるものがどれほど残っているかは分かりませんがな。
どれ、ひとつ風の精霊の力でも借りてみますかな?」
と、風の精霊を紹介してくれようとする村長。
あれ?でも黒魔法のために力を貸せる存在って、今近くにいるよね?
『ぬし様、私に少し力を貸してください』
と言ってみる。
あれ、また頭から声を出したような感覚だ。
『何じゃ、今食事中だから後にしてくれんか?」
陸ハーピーにかぶりつきながら、こっちを見ているぬし様。
あれ、どこから声を出してるんだろう?口塞がってるじゃないですか。
『まあいい、何が欲しいのじゃ?』
『あ、ちょっと魔法が使えるか試してみたいだけなので、魔法っぽいものを、ほんの少しもらえれば良いです』
『う〜む、なら火でよいかの』
と言葉を交わした後、私の中から何かが抜け、ぬし様から何かが流れ込んでくる感覚があった。
右手の人差し指の少し上から、ライターのような火が出ていた。
ちょろちょろっと、かわいい火だった。
「おぉ〜、これが魔法…」
初めての感覚に何か感動した。
火を熾す時とかに便利だろうな、これ。
あ、人差し指も熱くないし、火傷の心配はなさそうだ。
もっと強い火を作ってもらった時は危ないかもしれないなぁ。皆どうしてるんだろう。
と思いつつ、周りを見回してみると、
「あわわわわわ、何でいきなり魔術語を流暢に操れるのですか!?
これが、召還者…」
と腰を抜かしている村長と、
「わ〜、すごいです実音さん」
と暢気にしている紫蘭と、
「そんな、もう魔法が使えるの?私だってまだなのに…」
と目に闘志を燃やす葵がいた。あれ、ライバル認定ですか?そうですか。
そういえば、今朝も不思議現象があった事を思い出した。
この機会に聞いてみる事にする。
「今朝、さっきみたいな感じでぬし様と話した事があって、その後目の前の空間からぬし様が飛び出してきたのですが、これも魔法ですか?」
村長は
「それ召還魔法!伝説に聞いた召還魔法です!過去に片手の指で数える程しか術者がいなかった魔法です」
と大げさに驚いてくれた。へぇ。
「ぬし様〜、今朝のアレ、使えるの珍しいんですって〜」
「実音に呼ばれたら、どこだろうが妾は駆けつけるぞ〜。
珍しいとか、そんな事は知らんのじゃ〜」
肉声で会話する私達。
ぬし様がお肉を飲み込んだタイミングを狙わなければ、まだ食事中じゃと怒られたんだろうな〜。
さてと、ぬし様との会話はこの辺にして、村長にお願いしようっと。
「村長、私に魔法を教えて下さい!」
結論を言うと、特に教わる事はなかった。
風の精霊と自由に会話できる私は自在に風を操る事ができ、村長が寂しそうな顔をして遠くを見つめる結果となってしまった。
前回に引き続いての、村長の説明会でした。
ちなみにストックが尽きてしまったので、明日からの投稿が綱渡り状態です。
何とか、連日投稿できるよう頑張りますが、駄目そうな時は活動報告でお知らせします。