15 いざエルフ村⑥
本日、もう1回投稿する予定です。多分、日が変わる直前ぐらいに。
「実音さん、これをどうぞ」
と、葵が料理の乗ったお皿を差し出してくれた。
このお皿も木製。
エルフは木の加工が得意なようだ。
どれどれ、エルフはどんなものを食べているのかしら?
む、見た目は茄子っぽいものを縦長に切って焼き、生姜を摩り下ろしたものを乗せ、何らかのソースがかけてある。
え、茄子の生姜焼き?
世界違うらしいけど、良いのこれ?
記憶にある味を期待して、ごくりと喉が鳴る。
我が家は和食派。茄子もよく食べたさ。
さて、どうやって食べたものか、と思って実音を見ると、手に箸を握っていた。
「実音さん、これ、使えますか?箸というのですが」
なるほど、木を加工して食器を作っているから、フォークとかよりもこっちの方がシンプルで作りやすいよね。
こだわって作れば手間隙かかるけどね。4角形どころか、5角、8角、お箸も色んな種類があるんだよ。
「ありがとう、お箸の扱いは得意なんだ。私の家でも、これで食事してたんだよ」
そう言ってお箸を受け取る。
それでは、いざ、実食!
茄子らしきものを箸で適度な大きさに切り、生姜らしきものと一緒に口に運ぶ。
ひとくち噛むと、中から旨味を持った汁が出てきて、生姜の風味と共に口の中に広がる。
これは、間違いない。
「茄子だぁ…」
異世界にやってきて3日目にして食べた、和食。
たかが3日、されど3日。
何度も死ぬ思いをした。その度に、諦めずに生きようと頑張った。
いや、本当に諦めずに良かった。
「生きてて良かったぁ…」
と、口から零れ出てしまうぐらい、心に響く一皿だった。
「私達の料理、口に合ったようで何よりです。
今度はこちらの皿などいかがですか?」
そう言って私に話しかけてきたのはエルフ村の村長。
ぬし様(人型)が陸ハーピーの丸焼きに夢中になってかぶりついているので、こちらに来たのだな。
む、味噌田楽っぽい見た目。
あれ、豆腐あるの?
味噌もあるの?
どうなってるんだエルフ村。
てっきり雑な洋食が出てくるものだと思っていたのに、思わぬ奇襲だ。
何か和風的な文化が育まれている!?
感動しながら味噌田楽を食べる。
おいしい。
ここでひとつ、お茶が怖くなってくる。もとい、お茶が飲みたくなってくる。
と思ったら紫蘭がお茶を持ってきてくれたようだ。
うん、緑茶っぽい方のお茶。
認識を改めよう。エルフ村、超和風。
今後とも末永く仲良くしたい。
なんなら、ここに居住権が欲しいくらいだ。
村長にお願いしてみると
「いや、貴方にはぬし様と一緒にいてもらわないと困ります!
かといって、ぬし様にここに移住されても困ります!
ドラゴンの姿になられた時、村が壊滅してしまいます」
と断られてしまった。
反論も思いつかないので諦める。
食事方面について、気になる事があったので尋ねてみる。
「お米ってないんですか?」
「御座います。ただ、今はまだ収穫ができてないので種もみしかないのです。
これを食べてしまうと、私達は米を永遠に失う事になってしまいます。
だから申し訳御座いませんが、今はまだお出しできません」
村長が申し訳なさそうに答える。
いや、そういう事情なら我慢します。
無理矢理種もみを奪って食べるような鬼畜外道な食欲魔人ではないので。
「ここに村を作って、どれくらいになるんですか?」
「そうですね、もうすぐ季節が2順する程度の時間が経ちますね。
ようやく環境も整い、収穫までまもなくといったところです」
今までの苦労を思い出したのだろう。疲れた顔で答える村長。
「私、異世界からこちらに連れてこられたばかりで、事情を知らないのですが、何故移住を?」
村長の目が、一瞬点になるが、流石は年の功。即座に真面目な顔に復帰する。
「それはもちろん、生きるためです。
今、世界を支配しているのは人間。それ以外の種族は人間に攻め滅ぼされ、生き残っているものはわずか。
いくつか、全滅してしまった種族もいます。
我らエルフ族も、今や全滅の危機にあります。
この村以外に、あとどの程度のエルフが生き残っているのかは、私にも分かりません」
村長の目が遠い目になる。
「どうしてこうなってしまったのか、それを考えない日はありません。
我々エルフは長命の種族で、私も随分長く生きてきました。
私が若い頃は、エルフも豊かな暮らしをしていました。
賢き王、精鋭揃いの軍隊、豊かな森、畑、あらゆるものが満たされていました。
それがじわじわと、外側から人族やそれに手を貸した愚かな種族に削られ、内側からは人族と内通した裏切り者による内乱が起き、王を始め、高貴な血が失われてしまった。
崩壊はあっという間でした。
我々は小さい集団に別れ、方々の森に散らばり、隠れて暮らしてきました。
しかし、人間の支配の手は世界中の森にも広がり、いよいよ逃げる事が難しくなったのです」
そうしてひとくち、お茶を口に含む村長。
私もひとくち飲む。
しばしの静寂。
そしてまた、村長の話が続く。
「そんな時、世界中に驚くべき吉報が届いたのです。
人間が聖地と定めた土地が奪われた。
やったのはゴールデンドラゴンだ、という報告です。
いや、驚きましたし、あの時は報告内容を疑いもしました。
何故ならドラゴンというのは、人間の手で滅ぼされた種族のひとつだったのですから。
そのドラゴンの中でも、最も数が少ないと言われたゴールデンドラゴンが降臨したと言うのです。
いきなり信じろという方が、無理というものですよ。
しかし、続いての報告で、どうやら間違いないようだと確信が持てた時、私は決断をしました。
即ち、ゴールデンドラゴンが人間共から奪い取った森に移住しようと考えたのです」
再びお茶に口をつける村長。
そんな村長に、私は尋ねてみた。
「そのドラゴンに襲われるとは、考えなかったのですか?」
村長は穏やかに微笑みながら答える。
「もちろん、考えましたとも。
ですが、このままでは人間共に攻め滅ぼされるのは時間の問題。
もしドラゴンに食べられる事になったとしても、我らの命を持ってドラゴンが力を持ち、人間共に一泡吹かせられるのなら、それも良いかと考えました。
そして我々は賭けに勝ち、こうして村を築いています。
貴方のお陰で、こうしてドラゴン、ぬし様と話す機会を得る事ができました。
出来ればこのまま、お互い協力して生きていければ、と考えています」
年寄りの長話に付き合せてすいません、と頭を下げる村長。
いえ、聞いたのはこちらですから。と私も頭を下げる。
ふ〜ん、随分追い詰められてたんですね。
「紫蘭をぬし様のそばに付けたのは何故です?」
気になったので、この機会に訪ねてみる。
「それはですね、あの娘は独特の雰囲気を持っており、精霊や動物と相性が良いのです。
ぬし様と仲良くなれる可能性が最も高い、と見て送り出しました」
村長が答える。
へ〜、そうなんだ〜。
その割にはぬし様に冷たく扱われていたけど。
ドジばっかりするから、厄介払いとして、生贄同然に送り込まれたのではないかと疑いの視線を向けてみる。
じ〜。
じぃぃぃ〜〜〜〜。
あ、村長目を逸らした。
貴様!やはりか!?と問い詰めたくなったものの、理性で抑える。
まあね、全滅の危機だものね。
内側から厄介事を量産するやつは追い払いたくなるのも、まあ分からなくはないです。
見逃そう。
実際、運良くぬし様に食べられなかったので結果オーライという事にする。
が、気になったのでぬし様に理由を尋ねてみた。
「まずそう」
とてもシンプルな理由だった。
まあね、エルフって皆細いし、食べ応えないんだろうな〜。
陸ハーピーとつい比較してしまう。
そうか、まずそうな方向に進化すると、ドラゴンと共存できるのか。
エルフの遺伝子的生存戦略に恐れ入りました。