11 いざエルフ村②
襲撃者を椅子に縛りつけ様々な拷問を使った尋問、具体的には鞭打ち、水責め、ろうそく責め、石抱き、それでも白状しないようなら海老責め…と考えていたのだが、襲撃者が白髪エルフの妹というなら乱暴はやめておこう。
精々、手を後ろに縛った上で
「素直に話してくれるよね?」
とにっこり微笑みかける、という形にしておいた。
白髪エルフの方はものすごい勢いで首を縦に振り、学校で小耳に挟んだ程度に知っているヘッドバンギングのような状態になっていた。
髪の暴れっぷりが怖い。
手を縛られた金髪エルフの方は、ぬし様に相当痛めつけられたみたいで、
「ごめんなさい、ごめんなさい…」
と震えながら延々呟き続ける機械と化していた。
誰が修理するんだコレ。
仕方がないので、白髪エルフの方を見る。
「連絡、私に連絡がある時、いつもこの子が矢文で教えてくれるんです!
だから、別にあなたを狙ったワケではないのです。
偶然の事故、運が悪かっただけなんです!」
必死になって主張してくる。
運の良い、悪いで言えば常に悪い側を引いていそうな白髪エルフの目をじっと見ながら話を聞く。
もう少し話を聞いてみるべきと判断する。
「昨日の夜はどう過ごしてたの?」
「え、昨日の夜は…」
言い淀むエルフ。
まあ、気持ちは分からないでもない。多分恥ずかしくて言い難いんだと思う。
しかし、ここで甘い顔をしていては事実確認ができない。
ぬし様をちらっと見る。
「さっさと白状せい!」
エルフの方からしたら「ぐぎゃああぁ」と吼えられた感じなのだろうが、まあいい。
ぬし様からの威圧は伝わるはず。
「昨日は、涙が止まるまで走ってたら、森の深くで迷ってしまったので、そのまま木の上で寝ました。
星がきれいでした。
陽が昇り始めた辺りで周囲の探索を始めて、食料がいっぱい取れたので、蔦を使って簡単な籠を作って、それから帰ってきました」
観念して白状するエルフ。
この世界のエルフの事は知らないけど、森で迷うとかどうなの?ものすごく不名誉な気がする。
金髪エルフが、自分の事は棚に上げて、哀れなものを見る目をしているし。
まあいい、白髪エルフの方は特に疑う余地はなさそうだし、正座させておこう。
石で作った座布団と膝掛けは勘弁してあげる。
さて、落ち着いた様子の金髪エルフに質問だ。
「何故あなたのお姉さんを呼びに来たの?」
「はい、昨日人間族の襲撃があったので、それに関する話と聞いています」
自主的に正座してきびきびと話し出す金髪エルフ。
そうか、姉が残念だと、妹はしっかりするのか。
「何故人間の襲撃があると、話を聞く事になるの?」
「毎回襲撃に前後して、異世界からの召還がありました。
召還者の撃退有無を確かめるためだと思います」
なるほど、私の召還に関連して、女神教から救出チームが派遣されたという事なのか。
まあ、結果的には失敗してくれて良かったんだけどね。
多分善意の救出チームには申し訳ないけど、私は女神教の世話になる気はありませんので。
「何故召還者の撃退有無を確かめるの?」
「召還者は危険すぎるので、力を持つ前に始末するためです」
おっと、物騒な事を言う。
その召還者を前に殺害宣言。ちょっとあなた、結局私の命を狙っていたという事なのかな?
私の態度の変化から、ひょっとして…と何かに気づいたような表情になった金髪エルフ。
白髪エルフの方に視線を飛ばし、こくりと頷いた白髪エルフを見て、ガクリと項垂れる。
再び震えだす金髪エルフ。
「くっ、殺せ!敵に辱められるぐらいなら、死んだほうがマシだ!」
何だろう、突然の変化についていけない。
まだ敵になった覚えはないし、勝手に敵に認定されていた事が分かった途端にこの態度とは。
この世界のエルフと人間の関係、冷え切っているんだろうなぁ。
一瞬、金髪エルフが覚悟を決めた顔をし、口を大きく開いた。
舌を噛む気だ!
察した私は、横っ面を思いっきり蹴り飛ばした。
突然の私の暴行に唖然とするぬし様と白髪エルフ。
まあ待ちなさい。私はこの世界で敵を増やす気はないのです。
敵は召還者である女神教のみで手一杯。
だからこういう手に出る。
「ぬし様、どうやらこのエルフは死にたいらしいです」
「何じゃ、じゃあ朝飯にするかの」
何でもない事の様に言い、むんずと銀髪エルフの服の襟を掴み引きずっていくぬし様。
ドラゴン形態になるにはここは狭いので、お外で変身して丸かじりにするつもりなのだろう。
ぬし様には悪いが、その前に止めさせてもらうつもりだ。
外。
ドラゴンの姿に変身したぬし様を前に、目から光をなくして正座する金髪エルフ。
「ねえ、私ってあなた達の敵なのかな?」
「あ、当たり前だ。召還者は最悪の虐殺者だ。私達の国を焼き、王族を皆殺しにした。
貴族、平民、多くのものを奴隷にするか、殺すかされた。
私達だけじゃない、他の多くの種族が同じ目にあったんだ。
召還者は、人間にとっては勇者だ英雄だと持て囃されているのだろうが、人間以外にとっては恐怖の代名詞でしかない!」
なるほどなるほど、次に聞こうと思っていた、何故召還者は危険なのかを聞く事ができた。
何故を繰り返して掘り下げて行く事で、真相に辿り付けると聞いた事があったが、うまくいって良かった。
「私、ぬし様と友達になったんだけど、それでもあなた達の敵なのかな?」
と言いつつ、ぬし様(龍型)の下顎をなでる。
目を細めて嬉しそうな表情になるぬし様。
「ぬし様は、私の敵を全て蹴散らしてくれるって約束してくれたんだ。
だから、最後にもう一度聞くけど、私はあなた達の敵?もう友達になる事はできないのかな?」
その言葉を聞いて青ざめる金髪エルフ。
まあね、下っ端としては答え難い質問をしたとは思っているよ。
でもここで敵だと答えると、自動的にぬし様とエルフとの戦いになってしまうワケで。そんな愚かな選択をするとは思わないのだけど。
さて、どうする?と、金髪エルフを見つめていると、屋敷から飛び出してきた白髪エルフが金髪エルフに抱きつく。
「お願いです、どうかこの子の事は許してあげて下さい!
罰なら私が受けます。
村の者なら私が説得して、貴方を襲わないようにさせます。
だから、どうかお願いします!」
やれやれ、遅いよ。
ずっと待ってたのにさ。と、思いつつ、残念エルフの評価をやや上方に修正しておく。
「ぬし様、食べるのはやめです。人型に変身して下さい」
と言うと、ぬし様は心底残念そうな顔をした。
「何でじゃ?妾はもうお腹が減ってつらいんじゃぞ!」
しまった!おあずけ状態の犬にそのままご飯をあげないという、外道行為と同じ事をぬし様にしてしまった!?
「ぬし様、ぬし様の気に入ったというお肉を炒めたもの、いっぱい作りますから。
あの肉付きの悪い、ひょろっとしたエルフなんて、食べてもおいしくないでしょうから、ね?」
別の食べ物で釣る事にする。最早、これ以外に収拾をつける道が思い浮かばないのだ。
「分かった、早く作るのじゃぞ」
と言い、納得してくれたぬし様。早速人型に変身してくれた。
金髪エルフの方を見ると、私とぬし様の様子を見て、さっきの私の言葉がウソではないと理解したのだろう。
ま〜た目から光を無くしている。
やれやれ仕方ない。
むにっと。右手で金髪エルフの顔を左右から挟みこみ、変な顔にしてやる。
その上で白髪エルフの方を見て、話し出す。
「じゃあ、約束守ってもらうわよ。
村の人達と、私が敵対しないで済むように、間を取り持ってね」
「はい、絶対に説得してみせます」
力強くうなずく白髪エルフ。
「じゃあ、早速練習しよう。
この子の事説得してみせて。私は、この子と友達になりたいな」
そう言って、金髪エルフの腕を縛っていた縄を解く。
「あ、あのね、大丈夫。危険じゃないよ。
この人、昨日ぬし様が拾ってきたのだけど、私やぬし様に敵対的な行動なんて取ってないし、ぬし様の背中に乗って空を飛んでたりしたから絶対ぬし様と仲良いし、そうだ、昨日一緒に歌を歌ったんだ。風の精霊も一緒で、私と、あの人と、ぬし様と4人で歌ったの。
だから、その、他の召還者と同じ危険な相手なんかじゃないよ。
この人個人で見たら、敵対なんかするより仲良くした方が絶対良いよ!」
たどたどしく説得してくれる白髪エルフ。
急に無茶振りして申し訳御座いませんでした。村に着くまでに、もう少し要点をまとめておいて下さい。30点。
そして、話を聞いてて気づいた事が2点あった。
昨日、妖精だと思ってたあの娘、風の精霊だったのか。某国産RPGをプレイした程度でファンタジー世界を理解したつもりになっていた自分が恥ずかしい。
学校で、オタク系男子達の会話を馬鹿にしていた自分が恥ずかしい。
今、私が召還能力を使えるとしたら、彼らをアドバイザーとして呼んでいるよ。
岡田君、竹田君、熊田君、女子の間でオタク田トリオだなんて呼んでいて正直申し訳なかった。
あなた達は誇りを持って、自分達の趣味を突き詰めて下さい。無事に学校に帰れる日がきたら、ネイティブファンタジアンの凄さを教えてあげるからね。
それからもう1点気づいた事。それは…。
「私の名前は龍宮 実音。よろしくね」
私、エルフ達に、まだ自分の名前を名乗ってなかったよ。
そういえば、11ってドイツ語でエルフでしたね。
特に狙ったワケでは御座いませんが。