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新編 そして第三章へ

 コントロールルームで無数のディスプレイの一つが、『第61箱庭のデリートが終了しました』と無機質なテキストウィンドウを表示させたのを見て白衣を着た科学者はちいさくため息をついた。

 また、失敗した。

 科学者は舌打ちをして、今までの研究レポートを見ていた。


『「パラドックスの恋文」実験

 第77実験箱庭を用いた。実験の失敗と同時に箱庭を消去。

 その際、一名の人間データが脱走。以後、彼を捜索することとした』


『「ヒッグス粒子除去理論」実験

 第33実験箱庭を用いた。被験者が「彼」に接触。デリートを実行。

 結果として、実験は失敗に終わる』


『「電脳世界秩序安定化」実験

 第81及び第29実験箱庭を用いた。「彼」が市街地大型ディスプレイにて実験の内容を吐露、結果として≪管理都市≫に批判・批難が殺到。

 結果として、両実験箱庭のデリートを実行。実験は失敗に終わる』


「そして、今回の『心理仮想化』実験も、失敗……か」


 心理仮想化実験。

 名前のとおり、人間の心理を仮想化することは可能か? という実験だ。

 人間の心理はどの動物よりも複雑だ。例えば、そのひとつに『嘘』がある。

 嘘はほかの動物にはあまり考えられないことだ――というわけでもない。実際『擬態』というのは言い方を変えれば『嘘』だ。

 今回の実験は、それの中でも『嘘つきのパラドックス』を電脳世界でも実装は可能か? ということを実験する予定だった。



 嘘つきのパラドックス。



 例えばの話をしよう。クレタ人が「クレタ人は嘘つきだ」ということを、信用できるだろうか。

 仮に彼の話を信用すれば、彼は嘘つきということになる。だが、そうだとなると、彼は正直者になる。しかし、そうだとすると――という堂々巡りのものだ。

 電脳世界は0と1でしかない世界だ。擬態は可能だが、パラドックスについて考えるとエラーを起こしかねない。そのエラーを何とかしてうまくできないか――それが今回の実験の内容だった。しかし、『彼』によって失敗に終わった。


「ねえ、父さん……」


 科学者はそこまで考えて、ため息をついた。


「私は……まだまだこの世界を自分のものに出来ていない。だけど、直ぐに……父さんが成し遂げられなかった……『完璧な電脳世界』を作ってみせるから……!」


 そう、科学者は空に向かって言った。

 彼女の名前は、イヴ・エドワード。





 『パラドックスの恋文』理論の提示者であるジョン・エドワード氏の娘で、この電脳世界を作り上げた張本人である。















[???]


「……イヴ・エドワードの実験は順調に行っているようだね」


「冗談じゃない。あれがほんとうに順調と言えるのか」


「ああ、順調だとも。これならば問題ない。いいか? 普通に考えて、こんな面倒な実験をうまいペースで私たちの予測した方向へと進むこと。それが一番私たちにとって有難いということだよ」


「そうなのかねえ……」


「そうだよ。さて、それでは『第三章』の観測を開始しよう。長かった。本当に長かった。次はどれくらいの時間がかかるかな? そして、最終的に彼女はいつ『真実』にたどり着くのかな? 楽しみで仕方ないよ」



「パラドックスよ、こんにちは。」に続く。

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