表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/12

第八話

 


 ひいばぁは私の言葉を聞いて目を丸くして、


「八十八年前の赤いビー玉の話……?それはもしや、タッちゃん……辰巳さんの時の話かい?なんでそんなことを……まさかっ!あの時と同じなのかい!?」


 ひいばぁはやっぱり知っているようだった。私はひいばぁの記憶力の良さに関心し、助かる方法を知る事が出来そうな事に安堵した。……同時に勘の鋭さに恐れおののいたが。


「……そうなの。今、連続で起こってる事故は赤目のビー玉……八十八年前と同じなの。それで……」

「それで八十八年前の事を知りたいんだね?」


 私の言葉の後を継いでひいばぁが納得したというように頷く。


「……可愛い孫が知りたいと言うなら話してあげるよ。……長くなるからね、お茶注いでおいで。」

「っうん!」




 ***




 ……あれは今から八十八年も前の話。私の親友の話。



 当時十歳だった私には一人のとても仲の良かった友人が居た。

 その子の名前は倉元透子。真っ白の髪に真っ赤な目をした同い年の女の子。

 彼女は所謂アルビノというやつで太陽の紫外線にとても弱い体質だった。その為彼女は曇りや雨の日、そして夜にしか外出出来なかった。

 そして、近所の大人達はその容姿から気味悪がり、子供達からは゛幽霊゛と呼ばれて虐められて居た。……彼女の両親も自らの娘の事をよく思っておらず、特に父親は暴力まで振るった。


 私と彼女が出会ったのは綺麗な満月の夜だった。

 私は母親と喧嘩して家を飛び出し、家から少し離れた林に入った時だった。

 その林の一本の木の前で出会った。

 私が他の子と同じで虐めて来ると思ったのか彼女は、目を合わせた私に向かって「ごめんなさい。」と謝り出した。

 突然の事にビックリした私は「何を謝っているの?」と声をかけた。見ていると彼女は必死に髪と目を隠そうとしていた。それを見た私は「なんで隠すの?綺麗なのに。」って言ったんだ。彼女はその言葉に身を固まらせ「……気持ち悪くないの?」って聞いてきたから、私はもう一度彼女の姿を見た。

 ――満月に照らされた真っ白な髪は、月の光を貯めて輝き、真っ赤な目は夜なのにはっきりと色鮮やかに映る。……とても幻想的で儚く、綺麗だった。

 その事を彼女に言ったら彼女は驚いて次いでとても素敵な笑顔で「ありがとう」と言ったんだ。


 その日から私達は互いに親友と思えるまでに仲良くなった。

 彼女が同級生に虐められていれば駆けつけて、そいつらを返り討ちにしてやった。彼女が父親に暴力を振るわれ怪我をしたら私の家に呼んで手当てをしてあげた。両親は彼女と仲良くするのにいい顔をしなかったけど私は自分の想いをおもいっきりぶつけた。

 初めて出会った林にある一本の木に赤いリボンを巻いて彼女と二人で宝物を持ち寄って隠した。


 そんなある時、母親が風邪で倒れ看病の為に私は彼女と遊べなくなった。彼女は「大丈夫だよ。セッちゃんこそ風邪移らないようにね。」と言った。私はお礼を言ってから家に戻った。

 次の日母親が無事に元気になったから、彼女と遊ぼうとして彼女の家に行ったんだ。

 ……そしたら彼女は右目を失っていた。

 私はそっと右目を覆う眼帯に指を触れさせて何があったのか彼女に問いただした。彼女は残った左目に涙を溜めて語った。

 私と別れた後、彼女は彼女をよく虐める七人の同級生と鉢合わせてしまった。そして、彼らは彼女を虐め出した。「気持ち悪い」だの「幽霊」だの言って終いには「退治してやる」と言って石を投げ始めたという。……そして一人の投げた石が彼女の右目に当たり、運悪く失明した。

 話を聞いた私は頭がカッと熱くなり直ぐに駆け出し、その七人がよく遊ぶ公園へ行った。そこに居た七人に対して怒りで泣き叫びながら暴力を振るった。暫くすると騒ぎを聞きつけた大人達に止められたけど、反省も後悔もしなかった。……事情を聞かれて一応事の始まりから終わりまで話したけど、私は大人達が彼女の事をよく思ってないのを知ってたから大人達を信用してなかった。案の定、目に当たった彼女が悪い事になり「いい大人がふざけるな!」って叫んでから帰った。


 次の日、私は彼女にビー玉をあげた。彼女と同じ綺麗な赤いビー玉を。彼女は「ありがとう、大切にする」と、あの素敵な笑顔で言った。

 彼女はその日から「このビー玉が私の目の代わり。大好きな親友に貰った宝物。」と言い始め毎日持ち歩いていた。私も元気になった彼女を見て嬉しくなった。



 それから数日後、最悪の日となった日が来た。

 


 あの七人の同級生がまた一人になった彼女を虐め、あの赤いビー玉を盗ったのだ。私は直ぐに虐められているのに気付いて駆けつけたけど少し遅かった。「泣かないでまたビー玉あげるから。」そう泣いている彼女に言ったけど、彼女は「あのビー玉がいいのっ、セッちゃんにあの時貰ったのがっ」と言って泣き続けた。私は「待ってて、直ぐに取り返してきてあげる!」と言って七人を追いかけた。

 七人をこてんぱんにして、ビー玉を取り返した私は彼女の()に行った。


 そこで、私は茫然と立ち尽くした。彼女の家が燃えていた。火事だった。

 原因は彼女の父親が吸っていた煙草。犠牲者は寝ていた父親……そして、彼女だった。


 葬儀の後、作られた彼女の墓の所に取り返した赤いビー玉を置いてから私は大声で泣いた。


 彼女が死んでしまってから数日たったある日から事故が起こった。被害に遭ったのは彼女を虐めた七人の同級生の一人。落ちてきた瓦が頭に当たったらしい。即死だったそうだ。

 けれど、事故はそれで終わらなかった。その次の日も、また次の日も七人の誰かが事故死した。

 私は彼女が七人に仕返ししていると感じた。優しかった彼女がそうしていると考えただけで恐ろしくなり彼女の墓へ行った。

 そこには置いておいた筈の赤いビー玉が無かった。あいつらも彼女が死んでから流石に反省していて彼女の墓には一切手出しはしていなかったのを知っていたし、烏とかにも取られないように墓のしたの方の窪みに隠していた。


 その時、ふと気配を感じて振り返ると彼女が居た。彼女は泣いていた。私は声をかけたけど彼女は消えてしまった。


 それから六日が経った日。七人の同級生のうち六人が事故死した時に、残った一人が私の元に赤いビー玉を持って泣きながら訪ねて来た。それがタッちゃん、辰巳さんだった。

 私は彼らのした事を赦してはいなかったけどそれでも親友であった彼女がこれ以上人を殺さないようにしたかったから、彼に協力した。


 私は考えた。どうやったら彼女にビー玉を返せるのか。墓の所には持っていったけど、あの時消えてしまったからあそこではない。


 そして、思い出した。

「大好きな親友に貰った゛宝物゛」と笑顔で言った彼女の言葉。

 私は彼と二人でビー玉を持ってあの林へ行った。そして、赤いリボンを結んだ木の根本のうろの中に隠してある私と彼女の宝物を仕舞った箱に赤いビー玉を入れた。

 その時、『返して』と後ろから聴こえた彼女の声に振り返った私達は少し離れた所に居た彼女を見た。

 私は彼女に箱の中の宝物に混じった赤いビー玉を見えるようにして彼女に言ってあげたの。「透子ちゃんの私があげた大切な宝物(赤いビー玉)はちゃんとここに、宝物の中に入れて置くね。」って。

 そしたら彼女は泣くのをやめて、あの素敵な笑顔で言ったの『私の宝物。私のビー玉()。大好きな親友に貰った赤いビー玉……ありがとう。』と。




 ***




「それから、彼女は消えてしまい私は箱を木のうろに戻したの。辰巳さんは死なずにそこで連続して起こった事故は止まったのよ。」


 ひいばぁはお茶を飲んでから、


「あの時に透子ちゃんは成仏してくれたのだと思ったけど。あれから数年毎に似たような連続事故が起こっていたから……。」


 悲しそうな顔をしてひいばぁは言った。……それほどまでに透子さんは恨みを募らせていたのだろうか。私も悲しくなった。


「……ひいばぁ、そのリボンを結んだ木がある林って?」

「確か今は丘公園の所の林になっていたかねぇ。」

「……ありがとう、ひいばぁ。私、透子さんを止めてこの連続事故も終らせてみせる!」


 知りたかった赤目のビー玉の解決法が分かった私はそう決意した事を言ってから自室へ向かった。


「……やはりかい。どうか死なないでおくれよ美咲……。」


 だから、ひいばぁのその呟きは聴こえなかった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ