第五話
今日も無事に家までたどり着いた。
さてと、早速ひいばぁに聞きにいかないと……
「ただいまぁ。」
「!美咲!ちょっと!」
と、思ったら帰ってきた途端に母から呼ばれてしまった。何だろう?と思い、声のした居間へと向かう。
そこには、眉を八の字にした母がいた。
「っ?どうしの、そんな顔して。」
「あのね、お母さんの友達がね今日犬の散歩をしに川辺へ行ったんだって。そしたら……ね……」
……まさか。
「……男の子が川縁で倒れてたみたいなの。」
「っ!名前は分かる!?」
「友達が言うにはその子、友達の家の近所の子で……羽多野だったかしら。」
あ、やっぱり……。
「その子は、どうなったの?……もしかして」
「……。」
母は首を横に降った。どうやら嫌な予想が当たってしまったらしい。
「あの……その子の近くに何かあった?」
おそるおそる聞いた。私の顔は今物凄く情けなくなっているだろう。声が思ったより小さくなってしまった。母はうーん、と言って思い出していた。
「友達の連れていた犬が赤くて丸いものをくわえていたそだけど……気づいたら無くなってて、飲んじゃったんじゃないかって言ってたわ。」
赤くて丸いもの、それは恐らく赤いビー玉だとすぐに分かった。
「……そっか。分かった。」
「最近、美咲もよく出掛けてるみたいだから注意してね。変な人に会ったら、キャー変態!って言って逃げるのよ?」
母の冗談は置いといて、私は自分の部屋へ行った。
……ひいばぁに話を聞く気が失せてしまった。
ベッドに横になる。……これで二人目、赤目のビー玉が始まってから二日。残り四日。
「っ!」
まだ二日しか経っていない。確実に赤目のビー玉は私達の命を奪っていく。
「橋本なら詳しいこと分かるよね……?」
明日また、部室へ行こう。
***
三日目。残り三日。
朝の起きてから居間へ行くとひいばぁが居た。私は昨日聞きそびれた事を聞こうとすると、ひいばぁはスッと立って仏壇の方へ言ってしまった。……仏壇に行ったひいばぁは全然反応してくれなくなる。家族全員が知っている事。
「あっ……あぅ。」
強引にでも話し掛けるべきか。命かかってるし。そう決めた私が一歩踏み出したとき、突如携帯電話がなる。
「おぃ……。もしもし。」
「なんか機嫌が悪いの……?岡村さん。」
……タイミングが悪いんだよ、橋本。
心の中で愚痴りながら用件を聞く。たぶん羽多野の事だろう。
「……羽多野の事は何か聞いたかい?」
「昨日、川で見つかったんでしょ?そして……」
「……うん。詳しいことはまた部室で。来るんでしょ?」
「情報は必要だし。」
「それともう一つあるんだ、それも部室で。」
「……分かった。」
何だろう。また何か分かったのかな。
結局ひいばぁに話を聞けず私は家を出た。
***
「よかった。」
恒例となりつつある、安心したという挨拶を橋本から受けて部室に入る。
とそこに中島が居た。どうやら今日は都合がついたらしい。……唯の側に居るのが気にくわないが。
「うん。岡村さんに、東さん、登、渡辺さん、中島さん揃ったね。」
それぞれ思い思いの場所に居る。
「さて、昨日の報告だね。……連絡がつかなかった陽太が昨日の夕方に川辺で見つかったらしい。そして救急車で病院に運ばれたけど既に死んでいた……川橋のとこに陽太の持ち物が幾つか落ちてたみたいで、どうやら橋から川へ転落そして溺死したと聞いたよ。」
そして、早速情報の報告に入った。
やっぱり知ってる人が死んだと聞くのは……気分が悪くなる。
……そうだ、一つ昨日気づいたことがあった。
「ねえ、私昨日母親からその事聞いたんだけどね。母親もその情報源の友達も、知っている人とか未成年が死んだのに随分落ち着いてるなって思ったの。確かに自分の子供ではないし、他人なんだけどね。」
「……ミィちゃん、もしかして記憶に残りづらいって話?」
そう、一昨日橋本が推測したこと。
「……もしかしたらだけどね。」
「後は、強い印象が残らないって感じかな。」
私に続けて橋本も気づいたことを言う。
「んで、部長さんから今までの話は聞いたけどよ、今その肝心のビー玉は何処にあるのかって話だよな。」
「そう、中島さんの言う通り。今ここには……言い方は悪いけど、生き残っている人が皆集まっている。ビー玉は今回も事故現場で目撃されてるから、今誰かの側に在るのかもしれない。」
「……持ち物検査するの?」
「そう。バックとか衣服のポケットとかをね。無かったら無かったでいいから。」
そして各自持ち物検査をし始める。
私もバックの中やポケットを探りそこには無かったので、洋服のポケットの中に手を入れて探る。……よかった。無かった。
「私は無かった。」
「……私も無いよ。」
「俺も無いな。」
「俺も無かっ……」
「きゃあっっっ!!」
私、唯、中島が順に探し終え報告して遠山も報告しようとしていた時だった。真理が悲鳴をあげた。
まさかと思って真理以外の全員がそちらを見ると、真理はバックを床に落とし、バックの中を凝視していた。顔は青ざめている。
橋本がそのバックに近づいていき、
「失礼するよ。……」
真理にそう言って許可を取るとバックを手にとって中を探る。そして、手で掴んだものは――
「確かにあの時のと同じ様な赤いビー玉だね。」
――赤いビー玉だった。
「っ、こんなのさっきまでバックの中になんてなかった。話が始まる前に携帯を取り出したときにはなかったのよ!」
真理が叫ぶ。
「……つーことは、真理ちゃんが?」
中島が真理を見ながら言った。
……最悪だ、この状況でそれを口に出すとは、普通は禁句だって分かるだろう!
案の定、真理は泣き叫び出す。自分が次に高確率で死ぬと分かって冷静な人はいないだろう。逆にピンチ過ぎて焦りを通り越して冷静になることもあるだろうが、そんなことは滅多にない。
「大城さん流石にあの言い方は……」
「……わりぃ。」
遠山が中島に注意していた。
唯は真理の背中を撫でたりしながら落ち着かせようとしている。
「また消えるかもしれないけど物は試しだ。このビー玉をこれに入れて開け口の蓋をガムテープで塞いでみるか。」
手に取ったビー玉を見ながら棚の方へ歩いていって棚の一つから、某夢の国のチョコレート缶を出してきた。
そして、その提案に全員が賛成したのを確認した橋本は缶の蓋を開け、中にビー玉を入れて再び蓋を閉じる。さらに蓋と缶本体をガムテープでガッチリと固める。
最後に缶を揺すって……中にビー玉があること確認した。
「……これでどうなるか。」
橋本がチョコレート缶を机の上に置き、見詰めながらそう言った。