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第四話

 


 ――笹木翔が死んだ。



「えっ……?し、んだ?」


 頭の中が真っ白になった。血の気がサァっと引いていき、冷や汗が止まらない。体は小刻みに震える。


 もしかして、昨日の救急車のサイレンの音は……


『岡村さん!!大丈夫かい!?』

「っ!だ、大丈夫……」


 橋本の言葉で我に返る。深呼吸を何度かして落ち着こうとする。


「この事、他の五人には?」

『遠山、中島さん、渡辺さん、東さんには連絡がついたから話した。既に渡辺さんは知ってたけど。』


 ……真理は笹木の彼女だったから恐らく昨日のうちに知っていたのだろう。ショックでどうなっているかが心配だ。

 そして残りの一人、羽多野は?先ほど言ったなかには入ってなかった。


「……羽多野は?」

『……羽多野は連絡がつかないんだ。一旦家には帰ったみたいなんだけど。朝方には居なくなっていたそうなんだ……。』


 それは、もしかして既に、


『まだ、死んだと決まったわけではないよ。……このタイミングだと嫌な考えしか思い浮かばないだろうけど。』


 考えていることは一緒だったのだろう。橋本が注意する。

 ……っ、馬鹿みたいだ。死んだって決めつけるなんて。自分のその思考が本当に嫌になる。まだ昨日の事が残っているらしい。


『……それで、また部室に集まろうかと思うんだけど……』


 言いづらそうに橋本は言った。確かに橋本はビー玉の話に巻き込まれていないから事故には遭わないだろうけど、私達は違う。

 でも、


「私は行くよ。情報足りないし、今ある情報も纏めないとだし。」


 やらなきゃ始まらない。今は恐怖に勝つために強がって言ってみたけど……。

 それに今、思い出した。昔、曾祖母(ひいばぁ)が言ってた事。


 ――人間何時死ぬか分からない。だからその時が来るまで精一杯生きるんだよ。


 事故に遭って死ぬのだってこんな事(赤目のビー玉)がなくてもあり得る話だ。


「……それでも怖いことには代わりないけどね。」


 小声で呟く。


『……?じゃあ部室で会おう。気を付けて。』

「うん。」


 そう言って電話を切る。


「……笹木、死んじゃったんだ。」


 同じクラスでも話した事は少ないけど、それでも知り合いが死んでしまうのはとても悲しかった。




 ***




 家を出るときに母親が、


「美咲、外歩く時は気を付けなさい。昨日事故が在ったみたいだから。」


 と言ったので、はい、と返事をし家を出た。母はまだ誰が死んだのか知らないみたいだった。


「お、美咲!」


 家を出て少し経った時、後ろから突然声をかけられた。よく知ってる声だったので止まって後ろを振り返る。

 そこに居たのは予想通りの人物。


「ん、久し振りだね雅人。」


 藤林雅人ふじばやしまさと。家が近く、親同士も友人関係なので良く遊んだ幼馴染みだ。ちなみに高校も一緒だ。彼は部活帰りだったのか少し汗で濡れたバスケのユニフォームを着ていた。着替えて帰って来いよ……。


「……?大丈夫か?少し顔色が悪いぞ。」

「!大丈夫だよ。」

「そうか……ならいいんだけど。」


 ……流石雅人。雅人は昔から勘が鋭いというか、察しが良い。

 雅人と話すのもいいけど今はオカ研の部室に行かなければいけないからここら辺で終わりにしないと。


「ちょっとこれから学校に行かなきゃだから。行くね。……雅人もさっさと汗流しなさいよ。」

「おう。じゃあな!」


 片手をひょいと挙げて雅人は家に帰ってった。

 …………。今起こってることを雅人に伝えたかったけど、話せなかった。協力者は多いに越したことはないけど、雅人は巻き込みたくなかった。……橋本は巻き込んでるけど。




 ***




 オカ研の部室に着くと既に、橋本、遠山、唯、真理の四人が居た。羽多野は結局連絡つかなかったみたいだけど、中島も来ていない。……無事だといいけど。


「岡村さんも無事に着いたみたいでよかった。……中島さんはバイトがどうしても外せないらしくて……あ、バイト先には無事に着いたみたいだよ。」

「……そう」


 無事ならいいけど。


「……真理ちゃん」


 唯の気遣う声が聴こえそちらを見てみると、壁際に椅子を置いてそこに唯と真理が座っていた。真理は顔色が悪少しく憔悴している。


「……翔。」


 私は何て声をかけたらいいのか分からず暫く二人を見ていたけど、橋本が話しづらそうにしつつも軽く咳払いして、


「……じゃあ取り敢えず集まったみたいだから話すよ?分かった事が二つ。まずは昨日の事から……昨日の雨が降っていた時間帯、大体五時過ぎに外に出歩いていた翔は自宅近くの住宅街で突然切れた電線に触れ感電死したそうだよ。」

「なっ!?電線が切れただって!そんなことが起こるのか!」

「滅多に起こらないよそんな事。あったら苦情が殺到する。」


 遠山が信じられないといった顔をする。私も驚く。電線が切れてそれが偶然笹木に当たるなんて。……偶然?そんな事まで引き起こすの?この赤目のビー玉は。


「……橋本君、何でそこまで知ってるの……?」


 やけに詳しく知っている橋本に唯が聞いていた。


「この地域で一番大きい病院あるでしょ?ここら辺は皆そこに行くと思うけど。で、その病院の医師の一人に知り合いが居るんだ。……父のだけどね。」


 ……コネか。でも普通は知り合いって程度で一般人にそんな事教えないと思うんだけど。橋本の父親って一体……。


「……なあ、本当に翔は赤目のビー玉で死んだのか?」


 遠山が訊ねる。ただの偶然が重なっただけかもしれないとい言いたそうな表情をしている。だか、橋本は告げた。


「……最初の第一発見者が見たそうだよ。彼の近くに赤いビー玉が転がっていたとね。」

「っ!!?」


 全員が驚愕した。


「……えっ、なんで?あのビー玉は翔がそこの窓から投げたじゃない!」

「そうだよ!この窓から翔の家の近くまで投げるなんて遠すぎて無理だ!第一、翔の家はこの窓の反対だぜ?!」


 真理と遠山が叫ぶ。


「ビー玉……戻ってくるって事?……しかも私達の所に」


 私は思った事を言った。


「じゃあなんだ、ビー玉を持ってたやつが死ぬって事だよな?」


 遠山が声を震わせながら言う。

 部室内は静まり返る。

 暫くしてまた橋本が話始める。


「次の話……例の少女の関係する情報を調べてみた。ただ結構な時間が経っているからあまり情報が残って無かったけど。」

「あの白髪赤目の?」

「そうだ。彼女は八十八年前に火事で亡くなっていて……」


 ここまでは赤目のビー玉の話で出てきたので知っている。


「当時の年齢は十歳、生きていれば九十八歳だね。彼女の名前は倉元透子(くらもととおこ)。」


 九十八歳か……曾祖母(ひいばぁ)と同い年?ひいばぁなら知ってるかな?


「……彼女の事はこれくらいしか分からなかった。で、生き延びた彼女の同級生の名前は吉田辰巳(よしだたつみ)。この人から情報を貰おうかと思ったんだけどね……去年亡くなったみたいで。」


 どうやって助かったのか知っている人だったのに、亡くなっていた。しかも去年。皆が落胆した。


「じゃあ結局分かったのは少女の名前とその同級生の名前だけかよ……。」


 ――意味がない。そう遠山は小さく呟いた。


「……ごめんね。……辰巳さんの御家族の方に話を聞いてみたけどこれといった情報もなかった。ただ――」


 ?何だろう?


「亡くなる何日か前に゛透子ちゃんごめんなさい。そしてセッちゃんありがとう゛って仏壇に向かって言ってたって。」

「……゛透子ちゃんごめんなさい゛はあの少女の事……かな?゛セッちゃんありがとう゛って誰だろう……?」


 唯がそう言う。


「最初は何となく分かるね。死期が近づいているのが分かり、自身にとっての大きな事件であったこと……少女を虐めて、ビー玉盗って不運だったとはいえそのまま死んでしまったから……謝った。」


 私はできるだけ辰巳さん立場になって考えてみた。ちょっと無理やりな感じもするけど……。分からないのは、


「……゛セッちゃん゛か……誰だろ本当に。゛ありがとう゛だから助けたんだよね辰巳さんを。ビー玉の時にかな?」


 なんか引っ掛かるんだけど……ピンと来ない。

 橋本が癖なのか昨日と同じ様に右手を顎の下に添えながら推測したことを話す。


「……僕の様な感じだったのかもね。」

「……は?」

「協力者さ。赤目のビー玉に巻き込まれていない人間。そして恐らく辰巳さんに返し方(・・・)を教えたであろう人物、それが゛セッちゃん゛。」

「じゃあもしその人がまだ生きているとしたら……」

「確実に知っているよ。赤目のビー玉からの助かり方を。」


 誰かが息を飲んだ音がした。


「取り敢えずこんなものかな今の段階で調べられたのは。」


 新しく分かったことがあった。そして、私でも調べられそうな事も見つかった。


「……さて、それじゃあ夕方になる前に帰ろうか。」

「くれぐれも事故に遭うなよ。」


 橋本と遠山は一緒に帰るようで、二人でそう言って先に部室から出ていった。私の後ろでは唯と真理が話していて、


「じゃあ真理ちゃんは牧原(まきはら)さんと?」

「うん。七海(なつみ)、心配してくれてて。今日も一緒に来たの。」

「そっか、二人は仲が良いね。気を付けてね?」

「そっちもね。」


 どうやら真理は牧原さんと帰るようだ。


「唯、行こっか。」


 唯を呼んで私は家に帰った。



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