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第二話

 


 コロリ、とビー玉が足元に転がっていた。


 何の前触れもなく。そこに在った。



「やだぁ……何で赤いビー玉があるの?さっきまでなかったのに……。」


 最初に見つけた真理が震えながら言った。


 ……いくら夜の暗闇だったといっても足元は常にライトで照らされていた。いつの間にか足元に転がっていました、なんて流石にあり得ない出来事だった。


 隣に居る唯は目に涙を溜めて私の手を握る。私も唯の手を強く握り返す。

 オカ研の二人はビー玉を見つめていて、見つける事が出来て嬉しいのか、それともやはり怖いのか顔が強張っている気がする。

 中島は目を見開き、口をあんぐりと開けている。


 そして、自分の足元にビー玉が転がっていた笹木は口をひきつらせながら、はははっ、と乾いた笑い声をあげ、


「……おいおいおい、マジもんの話だったのかよ。でも、たまたま今まで気づかなかっただけだろ?お前らビビり過ぎだって。」


 そう言って、笹木は赤いビー玉を……拾った。


「っ!翔!!なんで拾うのよ!?」


 真理が信じられないといった顔で笹木に詰め寄った。

 ……本当にどうしてくれるんだよ。強がりで拾わないで欲しい。唯なんて泣き出したよ。


「ううっ、皆、しっ、死んじゃう……の?」


 大粒の涙を流して弱々しく言う唯の言葉は、静かになったこの場によく通った。

 そんな空気を壊そうとしたのは中島だった。


「お前ら、落ち着けよ。大人達も言っているだろう?ただの事故が重なっただけだって!」


 年上らしく私達(年下)を慰めようとしてくれた。少し見直した。


「……明日、オカ研の部室に集まりますか?もう少し詳しい資料があるかも知れませんし。」

部長(橋本)にも悪いけど、一番資料の場所とか詳しいから呼ぶわ。」


 羽多野と遠山も中島に続いて言う。


「じゃあ、拾った俺が明日まで持っててやるよ。」


 ポケットにビー玉を仕舞いながら、笹木が言う。

 でも……、


「……持ち去るのが一番危ないんじゃない?話の通りなら。」


 つい気になってしまった事を口にしてしまった。話がまとまっていたのに、やってしまった。


「もし仮にそうだとしてもだ、少女に返せばいいんだろ?」


 笹木はなんてことない、といった風に答えた。

 私は小さく、……そうだけど。と言った。が、どうしても不安になる。モヤモヤする。


「ビー玉は翔が持ったし、ほら帰るぞ!」


 なんて中島が言って、今度こそ解散となった。


 帰り道、途中まで一緒の唯と手を繋いだまま歩く。

 一応泣き止んだ様子の唯に少し安堵する。


「……大丈夫だよね?お話みたいな事にならないよね?」


 唯が訊ねてきた。私は、大丈夫だよ!と言って唯を安心させてあげたかったけど、そうは言えず、


「……わからない。」


 その曖昧な一言しか言えなかった。


 


 ***




 その翌日。昨日のメンバーでオカルト研究同好会の部室に集まった。但し、中島だけはバイトが入ってて来れないと笹木が言っていたが。


 オカルト研究同好会の部室は部屋の真ん中に長机が二つ向かい合わせで置いてあり、壁際には本棚が隙間なく置いてある。その本棚にはこれまた本や紙束がビッシリと入れてあり、入りきらない物がそこら中の床に置いてある始末。

 ……ドアを開け部屋の有り様を見た瞬間、私は引いた。というよりオカ研の二人と笹木以外が引いた。


「おー、相変わらず散らかってんなあ。」


 笹木がオカ研の二人に向かって笑いかける。どうやら何度か来たことがあるようだ。


「まあ、片付けたいんだけど、本棚足りないし、本棚置く場所もないし……」


 羽多野が苦笑する。


「……翔、その……ビー玉持ってきたの?」


 真理が笹木におずおずと訊ねる。少し顔色が悪い。


「おう。ほら。」


 笹木はポケットから赤いビー玉を出して、長机の上に置く。

 明るい昼間で見るとビー玉は鮮やかな、それでいて濃い赤色だ。昨日は暗くてライトに照らせれていただけだから赤いとしか分からなかった。


 ちょうどビー玉を皆で見ていた時だ。


「夏休みなのに呼び出すなよ。」


 と、ドアの入口にクラス委員長&オカ研部長(……同好会だけど。)の橋本がいた。……レンズが細いタイプの眼鏡が似合っている。

 そして、橋本は机の上のビー玉に気付いたようで、机の近くに寄ってくる。触らないように観察し、


「これが例の……。陽太、登、止めろと言ったのに探したのか!」


 橋本がキッと羽多野と遠山を睨み付ける。そして、


「お前ら、資料全部見つけてなかっただろ。……僕が注意したその後すぐに帰ってしまうし!」


 冷たい声で言うと本棚の一角を漁り始め、暫くしてから紙が沢山貼られていて膨らんでいるノートを取ってくると、少々乱暴に机の上に置く。私達に見せるようにノートを捲って新聞記事等の貼ってあるページを開くと、


「これは二十年前の地域新聞の内容だ。当時のオカ研の部員が調べたもの。……そして、ここだ。」


 橋本は指を差し、黙る。私達で見ろって事かな。皆で覗きこむ。そこには、



「……男女合わせて七人(・・)六日間(・・・)続けて事故死(・・・)。って、え?」



 読んでみたそれは、゛赤目のビー玉゛の話の同級生達の被害と似ていた。

 違うのは助かった人が居ないところだろうか。


「二十年前?二十年前にもあったの?」

「いや、それだけじゃないぞ!二十九年前、四十一年前……六十五年前、七十年前……おいおい、マジかよ。」


 遠山が記録を読み上げる。数十年ごとに同じ様な事が起こっているみたいだった。

 そして、それら全ての共通点が゛六日間で七人亡くなっていた゛という事だった。


「……備考、赤いビー玉が現場で目撃されていた。……か。」


 羽多野が手書きで書いてある項目を読む。

 ……と、言うことは、



「今回も六日間の間に七人全員死ぬ……?それも私達(・・)が?」



 私は、血の気が引いた。

 それでも一つだけ疑問があったそれは、


「ねえ、数十年ごとに起きていて何でこの話が広まってないの?六日間続けて七人も死んでるんだよ?もっと知られててもいいと……思うんだけど。」


 ということだ。


「……おそらく、当時事故が起きた時は騒がれていたと思う。新聞で取り上げられているからね。それでも広まってないのは……僕が思うに時間が経つ毎に極端に記憶に残りづらいんじゃないかな?この赤目のビー玉の事故は。」


 右手を顎の下に添えながら橋本が答えた。


「……記憶に残りづらいって、そんな……」


 真理が後退りながら呟く。


「……っ!どうしようっ、ビー玉……どうやって返すの?」


 唯が今にも泣きそうで、部室内の空気が暗くなる。皆、自分が死んでしまうと考えてしまったのだろう。私もそうだった。怖い。怖くないわけがない。


「ああっ、昨日!肝試しなんて!調査なんてしなければっ!……こんな事にはならなかったのよ!!」


 泣き叫びながら真理が言う。そして、自然と皆の視線が恐る恐るビー玉を拾った人物へと向く。


「……っ!このっ!ビー玉が無ければ!いいんだろ!!?」


 視線が責められて要るように感じたのだろう、笹木は眉を吊り上げ怒鳴り、予想もしなかった行動をした。



 机の上のビー玉を掴むと、それを窓から外へ力一杯投げた。



「っ!?」


 笹木以外のその場に居た全員が息を呑んだ。

 ビー玉は遠くへと消えて見当たらない。


「翔!?お前っ、自分がなにをしたかっ……」

「分かってるさ!!!」


 羽多野が笹木へと問い詰めたが、笹木はそれを遮った。


「ああ、分かってる!十分にな!……お前らは本当に資料(それ)を信じるのか!?俺はそんなのは信じない、信じられるかよ!」


 ……もう笹木も限界だったのだろう。なげやり気味になっていた。追い詰めてしまったのは私達だ。でもこれでどうなるのかが分からなくなった。……嫌な予感がする。


「……とりあえず何かしら起こるとしたら今日からだ。今日から六日間の間に赤いビー玉を見つけたメンバーが事故に遭っていく確率は高い。……呼び出されただけの第三者の僕が言うと他人行儀に聴こえてしまうかも知れないけど。でも僕も出来る限りの協力をする!……同級生が危ないと分かっていて無視は出来ないからね。」


 橋本が手を二回鳴らし皆の視線を集めて、そう声高良かに言った。

 協力者が出来たというのは心強かった。……きっと私達は事故に遭わないように気を張り続けなければならなくなり、生き残る為の方法――八十八年前に生き残ったという人物の゛赤いビー玉を少女に返す゛という事を調べるまでの余裕が無いかもしれなかったのだから。


「じゃあ、軽くまとめるよ。」



 一、六日間の間に七人が事故死する。

 二、それには赤目のビー玉の話が関わっている。

 三、生き残る方法は、少女にビー玉を返す事である。

 四、返す方法は、八十八年前に隠されている。



「じゃあ、俺らはその方法とやらが見つかるまで事故に遭わないように気をつける、って事でいいんだな?」


 いくらか時間をおいたお陰かだいぶ正気に戻った笹木が確認する。全員が頷く。


「では今日から死なないように!皆で生き残って新学期を迎えるぞ!」


 遠山が最後に締めてこの場は解散となった。



 ――生き残るための戦い(作戦)が始まった。




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