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07.目覚め2


久しぶりに入浴をたっぷり満喫した私は、ふと鏡に映った自分を見る。

腰まである漆黒の髪、黒曜石の瞳。

それ以外取り留めて特徴のない、生まれ育った世界ではありふれた平凡顔。

ただ、この体に残った傷跡が、全てを物語っていた。


鏡に映る自分を見つめる。

私を見つめ返す、鏡に映った私。


「   」


何かを言いかけ、止める。

そして私は背を向けて、用意されているワンピースを手に取った。











「どうしてまだいるんですか?」


お風呂から上がった私の部屋にいるディーノさん。

ご丁寧にお茶まで用意して、私を見れば返る、その爽やかな笑みが憎たらしい。

私の付けた後はきれいに残っていて、それを見れば少しだけ安堵した。


「オレはあなたの護衛ですから」

「ここはそんなに危険なの?」


ディーノさんが居なければならないほど?と揶揄を込めて言えば肩を竦めるのだが、その様も嫌みくらいに無駄に爽やかである。

どうでもいいけどなんでこの人無駄に爽やかなんだろう?


「そうゆう訳ではありませんが、オレが心配だったからですよ。それが理由ではおかしいですか」


・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・



思わず一歩後ずさり、あえて別の言葉を口にした。


「・・・その反応はさすがに、傷つきますよ」

「わかりました。ディーノさんは女の敵なんですね。きっとそうに違いありません。そうやって恋する乙女の心を篭絡して、理性を奪って骨抜きにして食べちゃうんですね。だからそんなに女の扱いが上手いんだ、納得」


なるほど。

それなら今までの行動に納得できる。



「誤解ですよ。とゆうか偏見です。どうしてそうなるんですか!?」

「焦って見せても、人畜無害を装ってもダメです!誠実そうなふりして実は遊び人に違いないんです。きっとそうに決まってます」

「だから誤解ですって」

「女の敵、決定、です」


びしっと指を突き付け、私は言い切りました。


「大体そんな風に優しくしなくても私はちゃんと魔王をやりますし、逃げたりしませんよ?だからそんなに気をつかわなくてもいいのに」

「?だからどうしてそうなるんですか?」


呆れたように聞くディーノに私も呆れ返る。


「それ以外に私に優しく、気に掛ける理由がないでしょう?」


眼を開いて驚く彼に私は続ける。


「あなたにとって私は代理戦争を勝つための大事な魔王だってこと以外に価値なんかないでしょう?私だってそれ理解しているし、ディーノさんにそれ以上を求めている訳でもない。あなたの忠誠も必要ないし私を命を懸けて守ってもらう必要もない、メンタルを気にしてこんな夜遅くまでご機嫌伺いしなくても私は大丈夫です。あなたは良くしてくれています。でも、もういいんです。だからもう帰って寝てください。ディーノさんだって疲れているんでしょう?」

「・・・本気で言っているんですか?」

「本気も何も事実です」


固い声に私は返す。

魔王であること以外に私に価値はない。

魔王だから彼は私に優しくし、こうやって心を砕いてくれる。

でも、私はそんなものは欲しくない。

そんなものは要らない。




「あなたにとって私は、あなたと同じ魔族でもない同胞でもない、何処とも知れない馬の骨。魔神が魔王だと言わなければかかわりを持つことすらない赤の他人。魔神が魔王と認めたからあなたは私を守ると言ってくれたんでしょう?でもいいんです。私はあなたより強いし、守ってもらうほど弱くないから。安心して。ちやほやされないからと言って拗ねて代理戦争を放り出したりしないから」

「アナタが魔王だから優しくするとそう言いたいのですね?」

「だって、それ以外の理由がないでしょう?」


彼と会って一週間も経っていないのだ。

その間彼に好かれるようなことをした覚えはない。

ましてや全部思い出してしまった今となっては、好意を無条件で受け入れるなんてことは私には出来ない。

その裏に作為を、企みを、私を利用する意図を疑わずにはいられない。


無条件の信頼。無償の愛。

そんなもの、あるはずない。

信頼も友情も、仲間だと思っていた者達すら、私を裏切った。

いや違う。裏切るというのは前提に信頼があってこそだ。私が彼らを信頼していなければ裏切られたという想いを抱くことはない。

私は彼らを信頼していた。心を、許していた。仲間だと思っていたし大切だった。

でも今となっては、彼らが私に心を許していたかなんて疑わしいものでしかない。


最初から私が、一人の人として見ていてくれたのかすら、疑問だ。

心を持った、ひとつの命だと・・・


いや、分かっている。

本当はちゃんと、分かっていた。

分かって、目を逸らした。見えないことにした。


だから望美絶望した。

現実に打ちのめされた。


だから私は―――――




「望美」


怒りを含んだ声音にハッとなる。

いまだ未練に囚われる過去に舌打ちをしたくなった。

意識を戻す。


「どうして怒ってるんですか?」

「怒りますよ。普通」

「・・・事実を言ったから怒ったの?私は気にしていないのに?」

「だから、なんでそうゆう事」

「?」


押し殺し、怒りを飲み込むディーノを見て目を丸くする。


「何がおかしいんですか?」

「ディーノさんも怒るんだと思って」


どうやら私は笑っていたらしい。

苦く吐かれた言葉に私は返す。


「いつもニコニコ無駄に爽やかだから怒らない人だと思った。ディーノさんでも怒るんですね」

「・・・」


怒りを押し殺す彼に構わず、すっかり冷めてしまったお茶を私は手に取る。


もはや全てがどうでもいい。

目の前に居るこの人が何を思ってここに居るかも、これから待つ思惑がどうであろうとも。

それが望美の心を揺らす事にはなりえない。

望美は契約を叶えるだけだ。

代理戦争に勝ち、魔族を勝たせ、それで終わり。

全ては茶番に過ぎない。

望美の手に掛れば代理戦争なんて簡単に勝利で幕を閉じる。

求めてやまないモノが手に入るとは、みじんも期待していない。

そんなことはありえない。そんな人は、現れない。

だからせめて、つかの間の遊戯に身を浸すだけだ。

気分転換の旅行だとおもえば、まだ慰められる。


どうせ望美は未練なく、こんなどうでもいい世界から立ち去るのだから。

例え一度きりの勝利で魔族が勝とうとも、次に勝てなければ、いや、勝ち続けなければ意味はない。

なによりもこの悪夢の様なむごい連鎖を断ち切るには、世界の創造主である残りの“かみ”二匹を殺すしかない。

“かみ”がいる限りこの世界の三種族は解放されない。真の自由は得られない。

だけど創造主たる“かみ”が死ねば世界は滅び、彼らもまた滅ぶ。

今はまだ、魔神が死んだことを他の“かみ”に悟られないようにしているけれど、一柱の“かみ”を失っただけで世界はこんなにも軋みを上げているのだ。


そこまで望美がしてやる義理はないのだけれども。


「おいしい」


冷めてしまっているが、それでもおいしいお茶だった。

ティーポットの用意されていたお代わりを注ぎ、飲む。


「今日は帰ります」

「うん。ご苦労様でした」

「・・・明日またお迎えに上がりますから」


沈黙ののち彼はそう言って、部屋を出て行った。



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