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16.話し合い3

「現在魔族領は世界の六分の一しかない」


広げられた地図に記載された魔族領土は確かに、他の国と比べて小さかった。とっても。

時計を思い浮かべてほしい。

十二時から六時までが神族の国。六時から十時までが精霊族。残りの十時から十二時までがここ、魔族の国土面積。その差は歴然である。


「これでも最初は均等に三等分だったんだぜ。バランスが崩れたのはオレたち魔族が負け始める以前から負けが多くなってきてな、一万年前からここ十回連続で負けが決まってからは負い目だ」


ちなみにサミュラを抜かしたメンバーがここにはちゃんと同席しているが場はネスティが仕切っているので誰も何も言わない。


「いくら俺たちの寿命が長いって言っても、こればかりは堪える」


魔族の寿命は長い。

魔族は確かに長命で平均寿命八千から一万年。頑張れば一万五千年生きた者もいる。

だからと言って千年と言う年月が魔族にとって短いと聞かれればそうじゃないのだ。

魔族にとっても十分に長い年月であり、そして千年毎ごとの代理戦争はどの種族にとっても負けられないモノだ。

一回二回負けた所で、次に勝てば何とかなった。ここまで国土を奪われマナが枯渇したのは連続で負けたから。

一度負けた後のマナを失った状態と、連続で負けた状態は劇的な変化を見せる。

それは十連続で負け始めたころからより顕著になった。


「長いって、どれくらいですか?」


確かネスティは五千を超えていると言っていたけど・・・

聞きたくないような聞きたいような微妙な気分で望美は問う。


「個体差はあるが大体一万年って所だな」

「一万!?」


望美の元の感覚で言えばそれは長いで済む言葉ではない。

今はもう時間なんてあってないようなものだが、元が人間だったために基本感覚は人間基準だ。


「魔族は千年かけてゆっくりと成長する。千年目に魔神に誓言し、魔族として生きると誓いを捧げこれを魔神が受け入れたら、一人前の大人として認められるんだ。魔神に大人として認められればたとえ人間だろうがキメラでだって魔族は魔族だ。人間は魔力を持たないせいか寿命は短い。五百年ってとこか。そこがキメラとの違いだな。キメラは一応魔力があるから魔族並みに生きるな。そういや陛下はいくつだ?」


望美はその言葉に一瞬悩むも、間違ってはいないはずの答えを出す。


「じゅう、はち」

「十八!?」

「赤ん坊じゃねぇーか!」


驚愕に向けられる視線と視線。

赤ん坊、とはあまりの言い様で望美はムッとする。

だけど突き刺さる視線に何も悪いことはしていないはずなのに、なぜか責められているような気がして居心地が悪い。


「私の世界では十八でも結婚は出来きる年齢です!法的に大人と認められるのは二十歳だし。そもそも寿命の長さが違いますよ。私の国では平均八十前後。貧しく医療の発達していない国ではもっと寿命は短いけど」

「・・・まさか陛下、結婚しているってオチはねぇよな?」


ネスティは固い声で望美に問う。

クリスティーナは胸の前で手を握りしめ、真剣な表情で望美を見ている。

クリストファーは望美の年齢に驚き、「オレは赤ん坊に・・・」と目を遠くし、アガスは冷めたままの眼差しで、ディーノは笑みをたたえたまま望美を見ていた。


・・・居心地が悪い。



「してないけど」

「将来を誓い合ったやつは?」


過去からちらついたそれに、望美の心は一瞬だけ飛ぶ。

望美を殺した、あの男の顔と、望美が殺した彼の顔。


「いませんよ?」


それをおくびにも出さず、平素を装って望美は応える。

それよりもこの流れは何か危ないと、望美は努めて明るく、わざとらしく会話を変えることにした。





「それよりも、代理戦争に勝てばもらえるのは一千年分のマナだけなんですか?」


それに、大人は触れてほしい話題ではないと理解し、大人の対応を取った。

そう、今はそんな事はどうでもいいのだ。

ネスティたちにとっても、重要な確認が取れたし、それは戦争に勝ってからでいいだろうと納得する。


「いや、それ以外にもある」

「それは?」

「敵対種族を滅ぼせという以外の願いを叶えるというものだ」


そしてそれが厄介だったのだ。

ネスティの言葉を聞き望美もまた潜む悪意に眉を顰める。


「いい趣味してますね。さすが“かみさま”と言ったところでしょうか」

「だが、勝てばこれ以上の褒美はない」

「確かに。勝てばいいだけの話ですからね。そもそもこれは一つの種族だけが生き残るための戦争なので、それを考えればご褒美なんでしょうが」


嗤うやつらの顔を思い浮かべて望美は渋面を作った。


「陛下は神が嫌いなのか?」

「言うまでもないと思いますけど?」


ネスティの言葉に望美は冷ややかに答える。

眼は言葉ほどはっきりと告げていた。


「どうして戦争がこうもあからさまに負け始めたんですか?」

「決まってる。精霊族と神族が手を結んだからだ。少なくともオレはそう見ているがな」



三つ巴の状態から脱するために手を組むというのは間違っていない。

勝つための戦略としてはアリだ。

共通の敵を潰し、あとはじっくりと戦うなり妥協案を出すなりすればいい。

そうやって騙し騙しやっていけば、少なくとも滅ぶことは免れる。

現実に不自然なほど過去十回の戦争は精霊族神族交互に勝っているのだ。


「でも相手が共闘を結んだとはいえ魔王が強ければ問題なかったのでしょう?そんなに魔王は弱かったんですか?」

「負けた魔王とて強いに決まっている。ただいくら強くても自分と同じ技量の相手を同時に二人かかりで襲われちゃな」

「一回でもそんな風に負ければバカでも共闘をはっているって分かるんだから対処の仕方もあったでしょう?」


望美の言葉に、ネスティは苦虫を噛み潰したような顔をした。


「代を追うごとに魔王陛下の力が衰えて来たんだよ」


魔神の力はその時から陰りを見せていたのだ。

その返答に望美は返す言葉を飲み込む。


今ここで何を言ってもむなしいだけだ。

望美は必ず勝つが、それを簡単に信じられるほど能天気なものはここにはいない。

望美がいくら信じろと言ったところで、虚しく映ってしまうかもしれない。

望美は信じられないことに慣れているが、こうも重い空気は正直居心地が悪い。


(やっぱり旅に出よう)


魔王を引き受けた以上この国の王なのだから、現状を知るのも必要だろう。

代理戦争までの間はまだ一年以上もあるのだから期間としては十分だ。

その後は別として王である間は王として頑張らねばならない。それが契約だ。望美はこれでも仕事はちゃんとするのだ。

国を巡るついでに精霊族や神族の国を見るのもいい。

ぶっちゃければ、城に居たくないというのが本音だけど。


「精霊族や神族の特徴ってありますか?魔法以外の、外見特徴とか」

「神族は全員が金髪に碧眼だ。逆に魔族は黒に準じた色あいや茶色系統が多いな。目と髪の色が同じだと言うのも特徴だ。人間やキメラ意外だがな。精霊族はそれ以外の色で目と髪も色が違う」

「髪が赤なのに目が青いんだ。中には水色の神に紫の眼ってやつもいる。気味が悪いと思わないか、目と髪の色がああも違うなんで、不気味だ」


それをクリスが言うの?と疑問に思うけど、心底嫌そうに言っているので賢明な望美は黙る。


「神族は傲慢。精霊族は横暴で鼻持ちならん性格だ」


だからそれをクリスが言うの?

君も十分傲慢だし、横暴だよ。

だけどやっぱり望美は空気を読む子なので曖昧に頷く。


「私たち魔族にとっては望美様の色、つまり黒い色が高貴な色とされているんです。歴代の強い魔王様の多くは黒い色を持っていたのとその方々は必ず戦争に勝利をもたらしてくれたので、別名勝利の色ともよばれているんです。ですから必然的に黒は魔王様の色と。黒は魔王様のみが許された色なんですよ」


うっとりと語るクリスティーナ。

なるほど、この色は魔族の中でも目立つという事か。

道理であのクローゼットの中の服が、くらい色ばかりだったはずだ。

いい事を聞いたと心の中でメモをする。

街に出る前に聞いていて良かった情報だ。


「魔王は魔神が選ぶ。それは奴らとて同じだ。奴らの王もまた、奴らの神が選ぶ。違うのは、この国が基本実力主義ってとこか。力のある者はいくらでも上に行けるようになっている」


力がある者にとってチャンスはあるんだろうけど、力のないモノにとってはチャンスなどない。

それが人間やキメラと言った差別用語の繋がるのかもしれないと望美は思った。


「じゃあ、あなた達もそうなの?」

「いや、宰相だけは女王位を与えられた三大貴族が行うことになっている」

「女王位?三大貴族?」


望美は首を傾げる。


「魔王を頂点とし、女王位を与えられた三家をそう呼ぶ。初代魔王と国を支え貢献した貴族の中でも権力の大きい家の者だ。名に、クイーンが付くだろう?」

「ついてましたね。確かに」

「下がって神官位のビショップ家。オレたちの次に偉い大貴族だな。騎士位のナイト家。普通の貴族。塔位のルーク家。ルークは個人に与えられる名誉称号って扱いだがちゃんと領地も与えられる。死んだら没収だけどな。こいつらがこの国の貴族連中だ。ほかは平民だな。貧富の差はあるが、その名がなければいかに大金持ちであろうと貴族ではない」

「名に、ビショップ、ナイト、ルークと付くので直ぐに分かりますよ」


それなら、まだ分かりやすいかな。

クリスティーナの言葉に頷く。


「ほかに知りたいことはあるか?」

「ほかは、大丈夫です。これ以上教えられても頭がパンクして覚えられえる自信がありませんから」

「それもそうだな」


望美の言葉にネスティは顎を撫でながら頷く。


「なんにせよ、だ。これからよろしくな、陛下」

「こちらこそよろしくお願いします」


魔族=目と髪の色は一緒。黒か茶系統の暗い色。

神族=金髪にエメラルドグリーンの瞳。

精霊族=それ以外の色。カラフルで目と髪の色が違う。

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