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14.話し合い1

バカと言われムッとしたけれど、なぜか空気が生ぬるいものへと変化していたことに首を傾げる。

おかしい。さっきまでギスギス、どころでなくザクザクと突き刺さっていた敵意も消えている。


「・・・?」


どんな心境の変化があったのかは知らないけど、まぁ良いかと納得する。

別に彼らが私をどう思おうと、関係ない。

どう思われたって構わない。

邪魔さえしなければ、それでいい。


「これからの予定はどうなっていますか?」


とりあえず、今後のことから片づけよう。


「ああ、閣下には魔王の戴冠式に出てもらう」

「戴冠式・・・」


また御大層な言葉が出てきたものだ。

ネスティさんの言葉に私は顔をしかめる。


「そう嫌な顔をされてもな。戴冠式を行い国民に王と宣言することは、代理戦争に名乗りを上げる事と同じだ」

「王様の義務って事ですか?」

「そうなるな」


めんどくさい、が、しかたない。


「今から告知し、準備期間を設けても・・・一か月後ですかね。早くても」

「・・・一か月」

「今の今日という訳にもいきませんから。これでも早くて、ですからね。貴族への通達もありますし、戴冠式が貧相では民の期待も裏切ることになりますからね。待ちに待った魔王様なのですからここは大げさなまでに盛大にやりたいですねぇ」


私はやりたくない。などとは言えず、サミュラさんの言葉に唸る。


「これも魔王の仕事だ」


そう冷ややかにアガスさんに言われてしまえばぐうの音も出ない。


「その間、戴冠式後の晩餐会に向けてダンスの練習をしていただきますよ。陛下には晩餐会でダンスをしていただけねばなりませんから」

「ぐみゅ!?」

「魔王陛下には毎日決まった刻限にてバルコニーで国民の前で手を振っていただき、ありがたいお言葉を賜りたく」

「逃げるなよ」

「感動的なスピーチを期待しているからな、陛下!」


全力でご遠慮願いたい。

ネスティさん。指を立てた笑顔なアナタがひどく憎らしいです。

冷ややかに釘を刺したアガスさんより、なぜか・・・


「戴冠式が無事に終わりましたら代理戦争まであと一年と半年しかありませんので、勉学よりも、実践の訓練をいたしましょう」

「私に訓練・・・必要?」


今さらだが、必要だろうか?

私は全然、全く、必要性を感じない。

それに答えたのは頬を赤く染めたサミュラだった。


「ええ、必要ですとも。この私と、魔族の為。私の、魔法の為。ええ、じっくりとっくりぜひ魔王様とは魔法について論議し、刃を交えたいものです。とっくりと、それこそ私が時間を忘れるぐらい、手を取り足を取り肌をぶつけ合いぶつかり合う・・・ふふふ。その魔力を直に感じられるのかと思うと、もう・・・!」

「素敵・・・さっそくお針子を呼ばなくちゃ!」


ふふふ、とこの私の為と堂々と公言し恍惚と怪しげに笑うサミュラもサミュラだが、それよりどさくさに紛れて聞き捨てならない言葉を言ったクリスティーナにゾッとした。

むしろそっちの方が重要だった。


「お針子・・・」


冗談じゃない。ひくっと頬が引きつるのが分かる。

これは早々に旅に出たほうがよさそうだ。

戴冠式と、晩餐会が終わったらとっとと出よう。

うん。そうしよう。


「貴族の名も覚えてもらう」

「陛下が戦争に勝つと豪語している以上、その先の養育にも力を入れるからな、頑張れよ」


切り捨てるような言葉と、ちょい悪おやじのウィンク。

実力だけはどうやら認めているようだ。

そこではたり、と気が付く。


「・・・あ、そうだ」


そう言えばと望美は、ぽんと手を叩く。

と、そのまま手をだし、何かを受け止めるような恰好をした。

皆が望美に注目する。

淡い光が煌めいた、と思った次の瞬間には望美の手には正四角形キューブが収められていた。


「それは!?」


それにクリスティーナが驚きの声を上げる。


「うん。そう。神殿にある魔石、です」

「・・・ですがどうしてそれが?」


望美はそれに頷き、クリスティーナは疑問を浮かべた。

立体のキューブはスイカほどの大きさでその中心では青い光が緩やかに明滅していた。

それは今にも消えてしまいそうなほど弱く、うっすらとした淡いもの。


「クリスティーナはこれが、どんなものか知っていますか?」

「いいえ。ただ、この国にとってとても大切なモノだと。神殿から決して出してはいけない、この国を守る要であると伝え聞いています」


普段ならそれは神殿の奥に安置されているモノ。

それを見ることが出来るのは魔神の言葉を受け取る姫巫女だけ。

姫巫女はこのキューブを通して魔神に祈りをささげ、言葉を受け取るのだ。


「まぁ、それは間違ってはいないけど」


クリスティーナの固い声に望美は苦笑した。


「正確に言えばこれは魔神の肉の一片。血の一滴。力の一部。今はもう魔神が死んでただの石コロだけど、これを通して魔神はこの国に色々と加護を与えていたんですよ。昔はもっと、光は強いものだったんじゃないかな?こんな、今にも消えそうな光じゃなくて」

「ええ」


キューブの正体を知らなかったクリスティーナをはじめ彼らは驚き、今にも消えてしまいそうなそれに視線を映す。

これ、実はマナの塊なんです~って教えてあげないけど。


(へぇ~なるほどね)


こうなっていたのか。

色々な仕掛けにほくそ笑む。


「光が消えたらどうなる?」

「加護が消えますね」


アガスの問いに、望美はけろりと答えた。

その言葉に色を失う彼らを見て、ああ、と望美は続ける。


「だから作り変えます」

「作りかえる?」


望美の言葉にサミュラの眼が怪しく光った。

それを受け、望美は苦笑し、そしてそっとそれに口づけた。


「!?」


光が、消え、そして、爆ぜた。

光光と煌煌とそれは星が爆発させたかのような閃光を発し、だがその光が彼らの眼を焼くことはなかった。

きらきら、キラキラ、綺羅綺羅と光は七色に分かれ、ひとつの白となり、また七色に分かれる。

ゆらりと七色の光を内包したまま光は集束し、煌と、灯った。

その瞬間彼らは自分たちを通過する力の波動を感じた。


「これでもう大丈夫。結界をはったので、ここを故郷と思わない者は入ってこられない。魔族狩りはもう起こらないでしょう」

「・・・どうやったのですか?」

「そっちなんだ」


呆然とする彼らの中でいち早く我に返ったのはサミュラだった。

現実に目の前で起きた出来事に彼は興奮を隠せない。

きらりと目を向ければ望美はサミュラを見て困ったように笑っていた。


「まず先に私言葉の真偽を確認するほうが先じゃないの?」

「アナタが張ったのならそうなのでしょう。疑うなら別の者がしてくれます。それよりもどうやったのです?そちらの方が重要です」

「そのキューブは魔神に属するモノだから、それを素に私に属するモノに作り替えました。言うでしょう?乙女の唇には魔力が宿る。乙女のキスには奇跡を起こす力があると」

「・・・教える気はないのですね?」

「教える気がないんじゃなくて、教えられないの方が正解かな。たとえ出来てもこの方法で維持するのは、あなた達じゃ絶対に無理だと思うよ?」

「それは魔王様が決める事ではないでしょう?何もやらずに無理だと決めつけるのは早計です」

「うーん。困ったなぁ」


サミュラの言葉に望美は困った顔をする。

望美は説明が苦手なのだ。


「それね、私の力で動いているの」

「・・・?」


ちょんと、望美はキューブを指した。


「発動に必要な魔力をね、今現在進行形で私から吸い取っているの」

「バカな!?そんな事をして生きられるわけがない」


望美の言葉を理解して、サミュラはギョッとした。

いや、サミュラだけではなく全員が驚愕した。


それは今現在も魔力が吸い取られていることと同義だ。

魔法は魔力を消費する。

魔力とは個々のエネルギーであり、個体差がある。

どんなに保有魔力量が多くても、使いつづれば疲れるし、反動も来る。限度を弁えず酷使すれば死に至る。

無限ではないのだ。


この国を守る結界の要であるキューブが今現在も望美の魔力を吸い取り続けるのなら、それはずっとマラソンをさせられるようなものである。

一生、休まずに走らせているようなものだ。

それではいつか、疲れて死んでしまう。

休まねば、魔族と言えど死ぬ。


「そんなっ、望美様今すぐにおやめください!そんな事をし続ければ御身が」

「ん?私はこれくらいじゃ死なないよ。たかが魔力を喰い続けられるぐらいで枯渇するような薄味な魔力は持っていないし、魔力を喰われるのは慣れているから。だから大丈夫」

「そ、そうゆう問題では!?」

「そうゆう問題だよ。だって、コレは今まで魔神の魔力を喰らい続けていたから。要は魔神と同じことをしているに過ぎないんだよ。だから大丈夫。あの魔神に出来て私に出来ない事はない」

「ま、魔神さまと魔王様では存在が違います!魔神さまは今世界を作った神なのですよ!?その神と魔王様の魔力量では、」


あたふたと慌てるクリスティーナを見て望美は困る。

困ってクリスティーナを見る。

まさか言えない。望美は魔神と同じような存在だと。

望美自身“かみ”だと認めはしないけど、それに比肩する存在だと、告げるわけにもいかない。

ので、便利な言葉を使うことにした。


「でもあなたの大好きな魔神が私なら平気ってお墨付きをくれたんだから、大丈夫だよ。心配してくれるのは嬉しいけど」

「でも・・・」

「それともクリスティーナは魔神も私も信じられない?」


卑怯だと思うが望美がそう言えばクリスティーナは黙るしかない。


「望美様のお体に負担はかからないのですか?」

「うん。平気だよ」

「本当に、大丈夫なんですね」

「うん。大丈夫、大丈夫」

「信じて、いいんですね」

「これぐらいじゃ死なないから安心して」


確認するようなクリスティーナの言葉に望美は頷き、こくんと、クリスティーナは頷いた。

それを見てから望美はサミュラを見る。



「ね、だから無理なんですよ」

「・・・」


そう、無理だ。

これから休むことも眠ることもなく一生走っていろと言われて、サミュラ達に出来るはずがない。

そんなことは出来ない。


「結界が魔王様の魔力で維持されるということは、魔王様が仮に亡くなったらどうなります?」


だから、これからの最悪をサミュラは問う。


「仮に・・・うーん。そうだなぁ。大丈夫だと思うけど?」

「大丈夫とは具体的にお願いします」

「神の血肉にはそれ単体が膨大な魔力を内包しているの。まぁ、いつかは枯渇してしまうんだけど、その前にそうならないようにするつもりだし」

「簡素に、お願いします」


要領を得ない望美の言葉に聞き方を変える。


「いつか結界は要らなくなる。だからその先の心配は不要」


面倒が増えたなぁと内心ため息をつく。

望美は約束を守る主義である。

魔族の未来を考えたとき、それは浮かんだ案の一つであった。

ただ、現時点で望美が彼らにそこまでしてやる義理も理由もなかっただけで。言うつもりなどなかったのに。

うっかりぽろっと話してしまった。


もう一度言う。

望美はこれでも約束は守る人なのである。

なのでそれがうっかりポロリとこぼしてしまったからと言って、守らない理由にはならないのだ。


「私、出来ない約束はしない主義なんだけど・・・言ったからにはしないとだね。これ契約にはないんだけど。まぁいいや。アレ目障りだし、私も気分悪いもの」


そう言って自分を納得させる。

そう、あの結界は見ているだけで気分が悪い。

望美にとって不快極まるものでしかない。

置き土産にいじくってやろうと思っていたぐらいだ。

それが多少プラン変更したところで問題はないだろう。


うんと望美は頷いた。

そんな望美を見て、後半は独り言なのだろう。

小さく紡がれた言葉はだがしっかりと彼らの耳に届いていた。


「この話はもう終わり。それでいいですか?」

「・・・分かりました。今はいいです」


しぶしぶと、望美の言葉にサミュラは頷く。


「それよりも魔王様のおられた世界ではあのように魔法が発展しているのですか?」



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