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10.決闘2

内心望美は驚いていた。

まさかここまで順調に事が進むとはさすがに思っていなかった。

敵愾心をあおる魔術をちょこっとクリストファーに掛けたがこうも効果を表すとは。

どんだけ私は嫌われていたんだか。

呆れを通り越して笑える。

むしろ小気味いいほどに清々しく、好感が持てた。


「本当に大丈夫なんですか?クリストファーはああ見えて、この国十指に入る実力者なんですよ?」

「大丈夫だよ」


ディーノさんの言葉に背負った風もなく気楽に望美は頷く。

クリストファーを見ればクリスティーナに何かを言われている二人の姿が映った。

その様子をじっと見つめ思っていた疑問をディーノに問いかける。


「ディーノさん。気になっていたんですけどあの二人、恋人か何かですか?」

「ええ、クリスティーナはクリストファーの婚約者なんですよ。よく気が付きましたね」

「なんとなく」


驚くディーノに望美は頷く。

望美がクリスティーナを罵倒したときの彼の様子を見れば嫌でも分かるというのもだ。

どちらかと言えば彼は私が魔王になるならない以前に、クリスティーナに暴言を吐いたことに怒っていたように見えたのだから。

そして今、クリスティーナに何かを言われている彼は素気ないながらもその眼には柔らかな色がある。


「青春ですね」

「年より臭いですよ。確かにクリスは彼女に弱いですが。見ていて微笑ましいものがあります」

「告白はクリスさんからですか?」

「正解です。幼いころから知っているオレから言わせればクリスが姫巫女に惚れるのは当然だったような気もしますけどね・・・あなたも感づいたようにアイツには半分神族の血が入ってるから」


暗くなった言葉に、望美は事情を察する。

望美が思う以上に幼いクリストファーを取り巻く環境は厳しいものだったのだろう。



「そう言えばディーノさんもクリスさんもバレンタインなんですね。親戚か何かですか?」

「兄弟ですよ」

「・・・え」

「似てないでしょう?」

「うん」


似てない。

思わずマジマジと望美はディーノを見てしまう。

そんな望美にディーノは肩を竦めた。


「あそこにいる鉄面皮のアガス・クイーン・バレンタインが長男で、オレが次男。クリスが三男。だけどみんな父親が違うんです。アガスは父が魔族。オレは父が人間で、クリスは父が神族」


色々な意味ですごい母親だ。

とりあえず失礼にならない返事を選ぶ。


「じゃあ、お母さんが一緒なんですね。元気ですか?」

「・・・母は、死にました。先々代の魔王がオレたちの母親なんですよ。だから代理戦争で」


まさかの衝撃的事実に言葉に迷う。


「えっと」

「謝らないでください。いずれ分かることですし、周知の事実です」


なんといっていいのか分からなくて、望美は頷くだけに留めた。

今はバレンタイン家の三兄弟は壮絶な人生に思いをはせている時間ではない。

憐れな天使を料理する時間だ。







「泣いて謝るなら今の内だぞ」


びしっと突き付けられる言葉に望美は苦笑する。


「君が私に勝ったら泣いて土下座でも、惨めったらしくその靴先を舐めて、お許しくださいクリストファー様と言ってあげてもいいよ」

「そんな!?」


望美の言葉に声を上げるクリスティーナの言葉は二人には黙殺された。

望美の言葉を受け、クリストファーは獰猛な笑みを浮かべる。


「言ったな」

「言いましたよ」


天使も真っ青な天使が凄むと貫禄あるなーとのんきに思っていた望美は、ただし、と言葉を付け加える。


「でも私が勝った場合、あなたは何をしてくれるのですか?」

「下僕でも何でもなってやろうじゃないか!まぁ、お前ごときに負けるオレじゃないけどな」


クリストファーの言葉に望美は心の中で笑う。

クリストファーは魔族としての誇りと、貴族としての誇りも持ち合わせている。

そしてその誇りが名も知らぬ山よりも高いのは見なくてもわかる。

悔しがって、悪態をつきながらもこの男は望美のいう事を守るのだろう。自分が下僕になると言ってしまった以上、その約束は守るしかない。

ちょうど証人もいる事だし。

この高飛車な男のプライドをへし折れる嗜虐心と、言ったことは守るだろうプライドの塊の男の今後を思って、いい下僕が出来たと笑みを深くした。


「その言葉、忘れないでくださいね」

「キサマこそ後悔しても知らんからな!」



二人は対峙する様に中庭に立つ。


「ルールは?」

「どちらかが負けを認めた時点で勝負は決着とします。今回は特例として相手を殺すことは禁止です」


審判役なのだろう中世的な美貌を持った、これまたいい声の男性がそう言った。


「もてる力の全てを使って戦ってください」


じっと向けられる深い色に私は頷く。

つまりはそうゆう事なのだ。

試されているのは私。そのためにクリスが挑発されたのも彼らは分かっている。クリス本人が分かっているかは別として。

そして彼らは私の意図の気が付き、その案に乗った。


これは今後私が動きやすくなるための前座だけじゃない。

彼らにとっても重要な意味を持っている。


そう、クリスは哀れな羊でしかないのだ。


(うーん。こう見るとこの人の今後が心配になってくるなぁ)


下僕にするとしても使えないと意味がないし・・・後で何とかしよう。世間知らずのボンボンにも見えるけど、財布と地図ぐらいにはなるだろうし。

望美は彼の今後を思い、そう決めた。



さて、どう料理しようかな。

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