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09.決闘1

おはようございます朝です。

結局一睡もしないで朝を迎えることになったけど、大した問題はありません。

日が昇ると同時に勝ったにクローゼットをあさり、その衣服の量の多さに驚きつつもテキパキと身支度を整える。

パンツにシャツと言った実にラフな格好であるが生地はとても滑らかだ。

そう言えば昨日の小さな女の子も、怖い顔をしていた人たちも軍服に似た儀礼服のようなものを着ていたけど、随分仕立ての良い服だと見受けられた。

きっと相応の地位にある人たちなんだろう。でなきゃ城でお出迎えなんてできないし、ね。

だからと言って今日のこれからを思えば、煌びやかなドレスなんてもってのほか。

と言うか見事にドレスか、ドレス風のワンピースしかないんだけど。

どれもこれもひらひらふりふり。

とろりとした光沢に、肌を滑るような肌触り。

一体いくらするのかは分からないけど、やっぱり問答無用で却下です。

頑張って探して、動きやすさ重視のパンツを発見したときは本当にうれしかった。

やっぱり生地はいいみたいで、少し恐ろしいですが。

髪を緩く三つ編みにして肩から前に垂らせば終了。


待つことには慣れているので、大人しく迎えを待つ。

コンコンと扉をノックする音に私は答える。


「おはようございます」

「おはよう」


朝から無駄に爽やかである。


「ご飯?」

「ええ、そうですが・・・その恰好は?」

「何か問題でも?」


言いたいことはなんとなくわかるが、あえて私は答えをはぐらかす。

「いえ、」と予想通りの答えに満足し彼のわきを通り過ぎて廊下に出た。







「おはようございます」


晴れて天気がいいというのに、朝食のため集まったメンツは、これ以上ないほど険悪な空気を醸し出していた。

原因は私ですね。はい。

怒りに燃えるエメラルドグリーンの眼差しに苦笑する。

今日の犠牲者は間違いなく彼である。

来るべき未来を描き、私は静かに彼の怒りを受け止める。


「お、おはようございます望美様」


オズオズとそう挨拶してきたのはクリスティーナだった。

しおれた菜の花と打ちひしがれた子犬を二乗したような哀愁漂う雰囲気の彼女に、にっこりと笑顔で返す。


「おはようございます。クリスティーナ。今日もいい天気ですね」

「は、はい」


まさか私がそう返すとは思わなかったのは、素直に頷く彼女に苦笑が漏れた。

それもそうだろう。なんたって昨日私は彼女をさんざん罵ったのだから。

あれだけ非難罵倒されれば、彼女が今どれだけ勇気ふりしぼってこの場にいるか・・・


「それは評価してもいいかもしれないね」

「?」


首を傾げる私より小さな少女。

彼女を目線を合わせるように私も膝をつく。


「君は私に何を望む?私に、何を願う?」


灰色の瞳を覗き込む。

そこにある感情を、そこにある思いを、その覚悟を。


「私のこれからの人生を踏みにじり、享受するはずだった安寧と引き換えにしてまで願う、想いはなあに?」


問う。

震える唇がきゅっと引き結ばれ、姫巫女は答えた。


「私たちを、助けてください」


罪を告白する咎人の言葉。


「その価値があなたたちには有ると言える?」


生かす価値が、助ける価値が。

私の時間と人生と、真心を捧げこの身を血に染めてまでも、助ける価値が。


望美の言葉にクリスティーナは目を逸らすことなく震える体を叱咤する。

飲み込まれてしまいそうな漆黒の双眸を正面から映す。


「それを、望美様自身が見つけてください」

「!?」

「私たちの価値を。あなたの民となるべき相応しいのかどうか、守る価値があるのかどうか。私はそれを生涯かけて示して見せます。いつかきっと、あなたが、魔王になってよかったって、私たちに会えてよかったって、言わせてみせるほど、頑張りますから!」


クリスティーナの言葉に望美は驚き、微笑みを浮かべた。


「そう」


そしてその頬に手を伸ばした。


「ならあなたは今日から、私の姫巫女だね」

「え?」

「いいよ。救世主たる魔王に、なってあげる」


ただし、その救世が、アナタの望む形であるとは限らないけど。

こうも大見得を切ってくれたのだ、少しは楽しませてもらおう。

呆然とするクリスティーナの前で望美立ち上がり、不敵に微笑んだ。


「今日から私が、あなた達の魔王だ」


そう宣言した。



「なっ、何を言っている!!」


望美の突然の宣言に、いち早く我に返ったのはクリスだった。

ちなみにクリスティーナは頬をほんのりと染め上げ望美を見上げ、ディーノに至っては読めない笑みで沈黙を貫いている。

テーブルに着いていた三大貴族にしてこの国の政治を執り行うアガス・クイーン・バレンタイン。ネスティ・クイーン・ブラウン。サミュラ・クイーン・アーモンドもまた、と当然の出来事に驚いたものの、クリストファーの様に怒鳴ったりはしなかった。

ただ、真意を探るような目を望美に向ける。


「なにって、なにがですか?」


指でさされた望美は当然のように首を傾げ、それがさらにクリスの怒りを燃え上がらせた。


「昨日は散々クリスティーナを罵倒して魔王などやらんと言っただろう!!一体何のつもりだ!」

「事情と気が変わりました」

「だったらそれを説明しろ!」

「魔神と会って魔王を引き受けた。だから魔王をやるし、代理戦争にも勝ち魔族に勝利をもたらす。以上」

「納得できるか!お前!魔神の言葉を交わす事が出来るのは姫巫女だけだ!どうしてお前のような下賤な奴が姫巫女を差し置いて魔神と話せるんだ!おかしいだろう!」

「なにもおかしくないでしょう。そもそも私は、わざわざ別の世界から魔神が魔王に相応しいって誘拐してきたわけだし。魔王やりませんって駄々をこねたら説得ぐらいしに来るものでしょう?・・・誰かさんたちが頼りないから」

「なんだと!?」


うんざりと言った様子で答え、最後に小さくつぶやいた望美の言葉はばっちりとクリストファーの耳には届いていた。

いきり立つリスを呆れたように望美は見る。


「何が問題なんですか?魔王やってあげるんだから喜んだらどうです?」

「喜べるものか!」

「じゃあ、喜ばなくてもいいです」


疲れたと言わんばかりに望美の腕をクリスは掴む。


「何が目的だ!オレたちを騙して神族に売るのか?それとも精霊族に取引でも持ちかけられたか?」


クリスの言葉に心底バカにした冷ややかな視線が向けられた。


「呆れた」

「なに!?」

「バカかもとは思っていたけど、正真正銘救いようのない底抜けのおバカさんなんですね」


望美の言葉にクリスは真っ赤になり、手袋を投げつけた。


「決闘しろ!」


身体に当たり、床に落ちた白い手袋を望美は見る。


「魔神がわざわざ呼んだというくらいだ。お前はさぞ強いんだろ?ならその力を証明してみせろ!それとも逃げるか?やっぱりそんな力はありませんと泣いて懺悔するなら今の内だぞ」

「クリス!」

「クリスティーナは黙っていろ」

「陛下、拾ってはいけません。こんなことをしなくても望美様が私たちの待ち望んだ魔王様であることに違いありません!どうかクリスの挑発に乗らないでください」


クリストファ―を咎めるクリスティーナの言葉にクリスは吠え、挑発的な笑みを望美に向ける。

おろおろと困ったクリスティーナは望美に手袋を拾う必要はないというが、望美は投げつけられた手袋を拾いあげた。


「拾ったな」


それを見てクリストファーはニヤリを笑い、


「陛下」


クリスティーナは声を上げる。


「陛下って呼ばないで名前で呼んでくれるかな?クリスティーナ。彼らは君と違って魔神の言葉を受け取れない。だからぽっと出の小娘が魔神に選ばれた魔王だと言われても納得なんて出来るわけがない。それが魔族の今後を左右する存在であればなおの事。だから、彼等にも選ぶ権利はある。そしてそれは、多くの民の命を預かる為政者として、は正しい判断だよ」


いくら魔神の言葉の代弁者である姫巫女の言葉でも納得できる事と出来ない事がある。

それが自分たちの運命を左右する存在なら、なおの事。

国と魔族を思うなら、それは正しい判断だ。

と上辺だけの言葉を並び立てる。


「どうせあなたたちも本心では納得していないんでしょう?ならちょうどいい。私が君たちの魔王に相応しいか、その目で確かめるればいい。お望みとあらば、ここにいる全員を相手にしても私は一向に構わないんだけど、どうしますか?」


望美は手を広げ、彼らを見渡すと、くすり、と妖艶に笑う。

まるでこの状況を楽しんでいるかのように。

不思議な魅力と威厳が彼女を包んでいた。

それに目を見張る者たちと、ただ一人、認められない者。


「キサマなんぞオレ一人で十分だ!兄上たちの出るまでもない!」


クリストファーは望美に指を突き付け、噛みつくようにそう宣言した。




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