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追跡しちゃいます

「よぉ、坊主! 今月のはいい出来なんだが一本どうだ」


「え、あ、うっと……じゃあ一本……」


 おかしい、絶対おかしい……!! 私家出してきたとはいえ令嬢だよね、一応。なんで? なんで大根売りつけられてんの、そしてなんで買っちゃってんの私!! あとせめてお嬢さんって言ってほしかった、坊主って……坊主って……!!


 多大なショックを受けながらもわざわざ文句を付ける必要、というか勇気が無いので、ツッコミは心の中に留めてまたフラフラと歩きだします。……大根片手に。アレだよね、ちょっとフードを目深に被り過ぎてるだけだよね、だから男と間違えたんだよね、大根おじさん。そうだと言ってよ大根おじさん。


 名もなき大根おじさんに心で語りかけながら歩いていると、と目の前には絶賛井戸端会議中の奥さま方が! これはチャンス!! 女の情報網をなめちゃあいけません。近くの壁に寄り掛かって休むふりをしながら奥さま方の会話に耳を傾けます。盗み聞きじゃないよ、聞こえてくるだけだから。


『うちの旦那は昨日もまた酔っぱらって帰ってきてねー、うっとおしいったらありゃしないよ』 

『あら、そんなのまだマシよ~、うちのなんてろくに働きもしないんだから』

『そうよねぇ、もっと稼いでくれないと困るわ。うちの子まだ小さいし……』

『なんでもっといい男選ばなかったのかしら、ミルトニア王子みたいな色男なら』

『ちょっとそれは高望みしすぎでしょー』


 ……まぁ、ね、うん。主婦だし……色々、あるよね、うん。愚痴、とか……はぁ……。あれ? あの角に隠れてる人、え、もしかして旦那さん? あれ肩震えてる。え、泣いてる? ちょ、聞こえてたの、え、あ。……もの凄い早さで走り去ってったな……。やっぱ知らなくていい事ってのもあるんだなぁ、ちょっと反省。うん、やっぱり盗み聞きは良くないしね、もう行こう。


『王子といえば近々ここを訪れるらしいわよ、出来る男は違うわよね』

『こんな下町にわざわざねぇ……その誠意、うちの旦那も見習ってほしいわ』


 ……哀れ。ホントもういいや、行こ。テンション下がるや、井戸端会議。


 さて、それじゃ気を取り直して! どこに行こうかなーっと。改めて辺りを見回してみます。流石に賑わってますよ、人が一杯です。野菜、肉、衣類、日用雑貨、いろいろ売ってます、何でもござれです。この雑然とした空気は私のいた屋敷には無かったものだからなんだか新鮮。


 とりあえず買いたい物もないので人間観察に専念してみます。暮らしを見るっていうのが本来の目的だからね、忘れてたわけじゃないよ、決して。それじゃ観察開始ー。基本は服装だよね。まずは女の人。丈の長い動きやすそうな素材のスカートに歩きやすそうなブーツ。髪は邪魔にならないように結ってる人が多いかな。男の人は当然だけどズボン。これまた動きやすそうな服を着てる。まぁ男の人は力仕事が多いからね。全体的に皆質素な服装だけど私はこんな雰囲気の方が好きだったりしますよ。ドレスとかどうしてあんなに派手なの? 動きづらいだけなのに。


 ふりふりドレスについてぶつくさ文句を並べたてていると、ふと気が付きます。あれ、目立たないようにと思ってドレスから着替えてきたけどこの恰好も十分目立ってない? フードまで被っちゃって怪しさ満載盛りだくさんじゃない? あぁ、だからか。道行く人々がこっちをちらちら見てたのは。うわ、そう考えるとこんな奴に声かけた大根おじさんホント勇者!!


 なーんて頭の中は冷静沈着ーっとしてますが身体はそうもいきません。どうしようどうしよーとわたわた視線を泳がせます。すると目に止まった黒い布。もといマント? 漆黒の衣服に身を包んだ人間が細い路地の方へとスタスタ歩いて行く。私が言うのもなんだけど、怪しい。すっごく怪しい。奇人です、変人です。


 ただそういった危なげなモノに惹かれてしまうのもまた、人間の性というもの。気にならないわけがありません。気付かれないよう気配を殺して追跡します。


 傍から見ればすっごく不気味な光景、だと思うんだけど……。大根片手にっていうのが恰好付かないよなぁ……。買わなきゃ良かった、ちょっと後悔。

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