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頼んでみます

「――ティス様、起きてください。朝です」


 誰かが私を呼んでいます。この声は――キースですね。もう十年近い付き合いだからね、声だけで分かりますよ。


「ミラメティス様」


 思わず目を閉じたまま得意げにほくそ笑んでると、もう一度肩を揺すりながら声を掛けてきます。ですが残念でしたね、キース。私はまだ眠いんです。二度寝という至福のときを布団と共に過ごすのです。邪魔なんてさせません。おやすみなさ――


「……ミラ。起きないとどうなるか――」


「起きます、起きてます!!」


 思わず布団を投げ飛ばす勢いで起き上がります。目が笑ってないですよ、キースさん! 


「おはようございます」


 おぉ、やっとちゃんと笑ってくれました。いつもの爽やかスマイルです。いつもこうならいいのに、怒ると怖いからなぁ……


「ミラ?」


「ごめんなさい!!」


 何なのこの人。何で心読めてるの、怖い。笑顔が黒いです。


「朝食の準備ができてます。行きましょう」


 ブラックキースには従うのが吉。差し出された手を握ると、食堂まで手を引いて連行されます。ここで手を繋ぐ意味はあるのかなと毎朝疑問に思うんですが、そういえば尋ねたことはないですね。なにしろ眠いですから、頭が働きません。うぅん、それにしても眠い……。




 午前のマナー講座が終わり、昼食まで庭園でキースとしばらくくつろぐのが私の日課です。本日も例に洩れず二人で日向ぼっこ中。ただし、今日の私にはちょっとした予定というか決意があるのです。


「ねぇ、いいでしょ? ちょっとだけ!」


「駄目です。もう少し御自分の立場を自覚なさって下さい」


 相も変わらず手厳しいです、キースは。なにも即答しなくたっていいのに。でも私にだって譲れないモノがあります。かくなる上は……


「駄目と言ったら駄目です」


 ……あぁ、そう。やっぱりキースには通用しませんか、嘘泣き。使用人には効くのに。流石私の従者と言うべきか、なかなか図太い神経してるから厄介です。


「ねぇ、キースの神経はどうしてそんなに図太いの?」


「あなたに言われたくはありません」


また即答!? 微笑みを湛えたままさり気に毒舌……うぅむ侮れません。私はそこまで図太くないもんねー、とっても繊細な心の持ち主です。頬を膨らませているとキースが躊躇なく突っ突いてきました。


 暫くその状態のまま沈黙が続きます。暖かい日差し、咲き誇る花々、小鳥のさえずり。自然の神秘に思わずうとうとしていた私は、キースの洩らした溜息ではっとしました。呆れたような、諦めたようなそんな溜息。

 

「そんなに行きたいなら御当主に直接頼めばいいじゃないですか」


 とりあえずキースの顔を窺って見ます。私より頭一つ分も背が高いからどうしても見上げる形になってしまうのは仕方がないです。くそぅ、男だからってにょきにょき縦にばっかり伸びちゃって。まぁ私より2つも年上だもんね。私が低い訳ではないです、断じて。


「お父様に直談判?」


 それは無駄でしょう。お父様が許してくれるハズがない。『平民の暮らしを見に行きたい』なんて言ったら暫くこの庭にさえ出させてくれないような気がしますよ。お父様は平民が嫌いだから。まぁ貴族の間じゃ珍しいことじゃないんですけど――。キースのサラサラとした金髪を眺めながらぼんやりと思考の波にもまれてみます。


 諦めてしまおうか。でも知りたいんだよなぁ、平民の暮らし。5歳のときに一回見たっきりだもん。きっと町の様子だって変わってる。一体どんな噂話が飛び交っているんだろうか。人々は何をどう感じて何を思っているんだろうか。うぅん、知りたい知りたい。どうしよう……やっぱりお父様の平民嫌いを考えると仕方ないのかな。


「うーん。じゃとりあえず駄目元で頼んでくるね」


 行ってきまーす、と大きく手を振りながらキースに別れを告げると私は歩きだします。向かう先は本邸――ではなく高くそびえる大きな門。



「うん、やっぱりお父様の性格を考慮すると仕方がないよね。抜け出すしか道はない!」

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