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私が望んだもの

作者: 琉迅鳴門

私は貴方にさらわれて、今までとは違った暮らしをしていました。それでも、充実してて。だけどある日少しずつ溜まっていった不満が、爆発してしまいました。私は貴方に見つめてもらいたかったのに。気にしません、もう。ここから出て、私一人で生きていきます。探さないで。

世界が変わる時には必ず犠牲が出る。

今までのプライドとか。

何かを守る時にも必ず犠牲が出る。

自分の希望とか。


天から授かった命はリサイクルボックスに入れられるペットボトルのような。死ぬ直前、そんな気がした。存在証明を求めて今までがむしゃらに駆け回って居たけど、結局行き着く先は天国なのだ。

ダメだなぁってポロポロ涙が出てきた。家族を捨てて、身分をすてて。もう、奪われるものなどないと思ったのに。堅苦しい作法も、鎧みたいなドレスも。もう捨てたと思ったのにね。


貴方に元の世界へと帰れと言われた、あの時。私の心はまるで、試験管。いろんな化学変化を起こしてはよく割られるのよ。女(試験管)の扱い方が分かってないバカな奴が手を滑らせるの。でも、貴方は違った。貴方は割っても元に戻してくれたから。

いつだって夢見てた。誰かが私を連れ去ってくれる。予定では王子様だったけど、貴方は怪盗だったわね。『俺と生きろ』と。



でも、もう仕方ないの。思い返したって、私はもう死ぬのよ。見て、こんなにやつれた顔。貴方に元の世界へと帰れと言われたあの日から、貴方が宝物に夢中になっているあの日から。私なんだか、病気みたい。

勝手に飛び出してごめんなさい。でも、証明したかったの。一人でも生きていけるって。

涙も枯れて。まわりも見えなくなって。


あぁ、遂に天国へ強制送還

いつかまた、違う命になって巡り合えたなら…私は貴方の妻になりたい。自由を求める貴方には何人も私みたいな人がいるのでしょう。その女性の中で一番になりたい。


愛してると言えなくて、なんだかつまらない。でも、大丈夫。遺書は書いたし、きっと誰かが私の死体を見つけるわ。


貴方宛ての遺書もちゃんと書いたから。


でも、私。

もう死ぬのだと覚悟した私は心の奥で、期待してた。

きっと『誰か』が私を連れ去ってくれる。


頬に暖かい手が触れた。

「こんなに痩せて……大丈夫か?」

あぁ、貴方の声だわ。内心は宝石や名画の方が心配で仕方ないのに、声は苛立っていないのね。

「なぜ、国に帰らなかった?そんなに死にたいのか?」

「何も言えません。私、死にたいのかも知れません」

「嘘だな。笑えない、嘘。お前はいつだってガキみたいな手を使う」


「そうかもしれません。でも、貴方は私が生きたいと言えば殺したでしょう?」

「よく、わかってらっしゃる」


「どうせ、殺されるなら私は望みます。

貴方と生きたい。貴方の妻になりたい。貴方の子を生みたい。貴方と寝たい。貴方と笑いあいたい。貴方と泣きたい。貴方と見つめあいたい。貴方と手をつなぎたい。貴方を………」


喧嘩をした日が蘇った。私たちはすれ違っていたのですか?


「弱い貴方に愛してると耳元で囁いて、優しく抱き締めてあげたい」



「上等」



貴方が私の唇を奪った。夢を見ているのと言い聞かせた。


「俺と生きろ」


貴方がそっと私を持ち上げる。


今宵の月は私のように青白かった。


「一緒に生きろと?」


「あぁ。楽ではないが」


フフッと笑みがこぼれた。きっと、私はまた逃げ出す。その時はまた私を抱き上げてください。


『俺と生きろ』と言ってください。

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