図書館潜入事件
えー、こりゃまた、今宵もようこそお運びいただきまして、ありがとにゃんございます。今夜はちょいと静かすぎますな。笑い声もなく、ページをめくる音だけが響くような…そう、図書館の夜ですにゃ。
さてさて、今夜の噺は「図書館潜入事件」ときたもんだ。
舞台は、町の中央にある「世田谷猫友記念図書館」。いや、正式には「世田谷区立中央図書館」ですが、猫たちの間ではそう呼ばれております。
ある晩、ミケ右衛門がぽつりと呟いた。
「人間の知識ってのは、紙に閉じ込められてるらしいにゃ。ならば、読んでみたいにゃ」
クロ之助が言いました。「猫に読めるのかにゃ?」
「読めなくても、感じることはできるにゃ。紙の匂い、インクの重み、そして…静けさの中のざわめきにゃ」
──というわけで、猫たちは図書館への潜入を決意した。
作戦はこうだ。
• チビ右衛門が昼間に下見。人間の出入り口、警備員の動き、開架と閉架の違いを観察。
• タマ婆が夜の結界を解除。図書館の裏口にある“猫専用通路”を開く呪文を唱える。
• ミケ右衛門が潜入班のリーダーとして、文学書コーナーを目指す。
夜の図書館は、静寂の海。猫たちは忍び足で棚の間を歩き、時折、ページの間から漂う“物語の匂い”に鼻をくすぐられる。
「この本、泣いてるにゃ…」
「この本、笑ってるにゃ…」
「この本、魚の話しかしてないにゃ!」
──と、チビ右衛門が叫んだのは、料理本コーナーでのこと。
ところが、文学書コーナーでミケ右衛門が見つけたのは、落語の台本集。
「これは…人間の噺家の秘密にゃ!」
ページをめくると、「まんじゅうこわい」「時そば」「芝浜」など、名作がずらり。
ミケ右衛門、目を輝かせて言いました。
「これで、猫噺も進化するにゃ。人間の笑いを、猫の言葉に変えてみせるにゃ」
そのとき、警備員の懐中電灯が猫たちを照らした。
「こら!猫が本を読んでるぞ!」
猫たちは一斉に逃げ出した。けれども、ミケ右衛門だけは一冊の台本をくわえて、屋根の上に飛び乗った。
翌朝、長屋の縁側で、ミケ右衛門は新作を披露した。
「さてさて、今宵の噺は“まんじゅうこわい”…ならぬ、“鰹こわい”ときたもんだ!」
猫たちは腹を抱えて笑った。
「知識ってのは、盗むもんじゃなく、笑いに変えるもんだにゃ」
──てなわけで、今夜の噺はここまで。お後がよろしいようで。




