猫の手も借りたい
えー、こりゃまた、今宵もようこそお運びいただきまして、ありがとにゃんございます。今夜は魚の匂いが強うございますな。え?気のせい?いやいや、猫の鼻は嘘をつきませんにゃ。
さてさて、今夜の噺は「猫の手も借りたい」ときたもんだ。
舞台は、町内の魚屋「魚政」。この魚屋、朝から晩まで大繁盛。鯖に鰯に鰹に鮭、魚の名前を言うだけで口が動くってもんです。けれども、店主の政吉さん、ひとりで切り盛りしてるもんだから、てんてこ舞い。
「猫の手でも借りたいよ…」と、ぽつりと呟いたのが運の尽き。
その言葉を聞きつけたのが、長屋のクロ之助。すぐさま店先に現れて、こう言いました。
「猫の手、ありますにゃ。しかも、爪付きでございますにゃ」
政吉さん、最初は冗談だと思ったんですが、クロ之助の目が真剣だったもんで、試しに“雇って”みることにした。
さて、クロ之助の仕事ぶりが見事だった。
まず、魚の並べ方が芸術的。鯖を斜めに、鰯を扇状に、鮭は“富士山型”に配置。客が「おおっ」と声を上げるほど。
次に、接客。猫なのに、ちゃんと挨拶する。
「いらっしゃいませにゃ。鰹、今が旬ですにゃ」
子どもたちは大喜び。猫目当てに魚屋に通うようになった。
そして何より、クロ之助の“目利き”がすごかった。
「この鯖、脂が乗ってるにゃ。こっちは昨日の残りにゃ」
政吉さん、驚いて言いました。「お前、魚屋の息子か?」
「いえ、魚屋の屋根の住人ですにゃ」
そんなある日、政吉さんが体調を崩して寝込んでしまった。店は閉めるしかないかと思ったそのとき、クロ之助が仲間の猫たちを集めて、こう言った。
「今こそ“猫の手”総動員にゃ!」
チビ右衛門はレジ係、タマ婆は帳簿係、三毛のミケ子は呼び込み担当。
「鰯が跳ねてるにゃ〜!鮭が笑ってるにゃ〜!」
町内は騒然。猫たちが魚屋を切り盛りしてるってんで、見物客まで押し寄せた。
政吉さんが回復して店に戻ると、売上は過去最高。しかも、猫たちはちゃんと帳簿をつけていた。
「猫ってのは、手だけじゃなく、心も貸してくれるもんだにゃ」
──てなわけで、今夜の噺はここまで。お後がよろしいようで。




