長屋の怪談
えー、こりゃまた、今宵もようこそお運びいただきまして、ありがとにゃんございます。今夜はちょいと風が冷たい。縁側の隅に座ると、背中がぞくりとするような、そんな夜です。
さてさて、今夜の噺は「長屋の怪談」ときたもんだ。
舞台は、いつもの長屋。夏の終わり、虫の声もどこか物悲しく、猫たちは縁側に集まって、怪談話を始めたんですな。
「この長屋には、夜な夜な“白い猫”が現れるそうですにゃ」
そう言ったのは、三毛のチビ右衛門。まだ若いくせに、妙に怖がりでして。
「白い猫?それは幽霊かにゃ?」
「いや、尻尾がないんですにゃ。しかも、鳴かない。ただ、じっと人間の寝床を見つめてるらしいですにゃ」
クロ之助が鼻で笑いました。「そんなもん、ただの野良猫だにゃ。尻尾がないのは事故かもしれんし、鳴かないのは無口なだけだにゃ」
ところが、タマ婆がぽつりと口を開いた。
「昔、この長屋に“シロ”という猫がいた。真っ白な毛並みで、尻尾が短く、声も出なかった。人間の婆さんに飼われていたが、ある日、婆さんが突然姿を消した。それ以来、シロも見かけなくなった」
「それって…まさか…」
「婆さんの部屋は、今も誰も住んでおらん。夜になると、障子の隙間から白い影が覗くそうじゃ」
猫たちはしんと黙り込みました。虫の声も止んだような気がした。
その夜、チビ右衛門がひとりで長屋を歩いていたところ、ふと、空き部屋の前で足が止まりました。障子の隙間から、確かに白い影が見えた。
「ひぃっ…!」
逃げようとしたそのとき、影が動いた。ゆっくりと、障子が開いた。
──中から出てきたのは、年老いた人間の婆さん。手には小さな白猫を抱えていた。
「ごめんねえ、うちの子、夜になると外に出たがるのよ。声が出ないから、驚かせちゃったかしら」
チビ右衛門、腰を抜かしながら言いました。
「……幽霊じゃなかったにゃ……でも、心臓には悪いにゃ……」
翌朝、猫たちは縁側に集まり、チビ右衛門の話を聞いて大笑い。
「怪談ってのは、怖がるためじゃなくて、笑うためにあるんだにゃ」
──てなわけで、今夜の噺はここまで。お後がよろしいようで。




