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噺家 猫家ミケ右衛門  作者: 双鶴


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2/8

猫又の恋

えー、こりゃまた、今宵もようこそお運びいただきまして、ありがとにゃんございます。縁側の月も、今夜はちょいと赤く染まっております。恋の予感ですかねぇ。


さてさて、今夜の噺は「猫又の恋」ときたもんだ。猫又といえば、尻尾が二股に分かれて、妖力を持つと言われる、いわば猫界の“ご長寿妖怪”。人間の世界じゃ怖がられてますが、実際は意外と乙女なところもあるんですな。


舞台は、江戸の外れの古寺。そこに住んでおりましたのが、猫又のタマ婆。齢三百年、尻尾は見事に二股、目つきは鋭く、声は低く、でも心はふわふわ。昼間は仏間で座禅、夜は屋根の上で星を眺める、そんな風流な暮らしをしておりました。


ある晩のこと。寺の裏手に、若い野良猫が迷い込んできた。名をトラ吉。まだ二歳、毛並みは虎柄、目はくりくり、鳴き声は「にゃーん」と甘い。


タマ婆、最初は見向きもしなかったんですが、トラ吉が毎晩、寺の軒下で「こんばんはにゃ」と挨拶するもんだから、だんだん気になってきた。


「若いってのは、ええもんじゃのう…」と、タマ婆、ある夜、思い切って声をかけた。


「お前さん、星は好きかえ?」


「はい!星も好きですが、タマ婆さんの声も好きです!」


──これがいけなかった。


タマ婆、胸がきゅんと鳴りましてな。三百年生きて初めての“ときめき”ってやつです。


それからというもの、タマ婆は毎晩、星の話を語るようになった。


「この星は“猫座”といって、昔々、恋に破れた猫が昇った星じゃ…」


トラ吉は目を輝かせて聞いておりましたが、ある晩、ぽつりとこう言いました。


「僕、来週から魚屋の飼い猫になるんです。ここにはもう来られないかも…」


タマ婆、しばし沈黙。そして、こう言いました。


「恋ってのは、来るもんじゃなくて、去るもんじゃ。去っても、心に残るもんじゃ」


翌朝、トラ吉は寺を去り、タマ婆は屋根の上で、ひとり星を見上げておりました。


その夜の星は、ひときわ輝いていたそうな。


──てなわけで、今夜の噺はここまで。お後がよろしいようで。


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