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7.公開訓練日(Y)

「……どうして訓練を見せなくちゃいけないんですかね」

「ユリ、諦めろ。犯罪者を出さない為だ」

「おかげでお前狙いのストーカーが減っただろう?」


近衛騎士団は毎月第一日曜日を公開訓練日として、観覧席にて見学することが許されている。

家族や恋人に日々の成果を見せられるし、恋人がいない騎士は、この日をチャンスとして張り切っているのだから悪い事ではない。

見学者は受付で注意事項の説明を受け、ルールを守ることを誓いサインをする。破れば家への注意連絡と、やらかしが酷い場合は罰金が発生する。

公開訓練をする前は、忍び込んで来る令嬢があとを絶たなかった。訓練の邪魔にもなるし、怪我をされても困ってしまう。

それならばと、月1で見学自由にしたのだ。


「あの娘が今日、来るというんです……」

「え、意外。婚約者ちゃんが来るの?」

「おお、楽しみだな」


何故来るんだ?前回会った時にはそんなことは言っていなかったのに。


前回の茶会は硝子(ガラス)細工の技法について語り合った。

あのペーパーウェイトはインケース技法というものを(もち)いて作られたらしい。

彼女はその工程をすごい熱量で語ってくれた。そこまで調べ尽くす程には気に入ってくれたのかと思うと悪い気はせず、楽しそうに語る姿は微笑ましくもあり。

それなりに楽しかったのだが、家に戻ってから、婚約者ってこんなのだっけ?と首を傾げてしまった。

間違ってもあざといポーズでは無い。


それなのに3日前に手紙が届き、本日の公開訓練日に来る旨が(したた)められていたのだ。


「ていうかさ、婚約者なんだからお前の方から誘うべきだろ?」

「………何の為に?」

「だってさぁ、自分の努力する姿や成果を見せられる機会って案外無いものだろ」

「褒められたくてやっているわけではない」

「それでも!未来の旦那様の頼もしい姿が見たいだなんて可愛いじゃないか」


……あの娘が?


「絶対に違う」

「は?」

「何か他にあの娘の興味をひくモノがあるはずだ」

「…お前の中の婚約者はどんな子だよ」

「好奇心旺盛な珍獣」

「え、酷っ!」

「プレゼントをしたら、その技法を調べまくる令嬢ですよ」

「…………個性的だね」

「今、先輩を尊敬してしまいました」

「いや、それはいつもしろよ」


くだらない話をしながらも走り込みを終え、本格的に訓練を始める。

見学席にも観覧者が増えて来た。


ん?もう来たのか。


水色のデイドレスを着て佇む姿は一見大人しやかな令嬢に見えるのだから笑える。


「あれ、もしかしてあの子?めっちゃ可愛いじゃないか」

「小動物って感じだね」


小動物……。ああ、小型犬かな。

主人の靴を咥えて楽しそうに逃げていく子犬。

そんな姿を想像して、つい笑ってしまった。


『笑ったわ!』『嘘!?』『もう一度見せて!』

その楽しげな微笑みに令嬢達が色めき立つ。


何やらザワザワと騒がしいな。


「……うるさい」

「いや、お前のせいだし」

「は?何がですか」


何でも私のせいにしないで欲しい。


「せっかく来てくれたんだから、手ぐらい振れば?」

「…………はい」


仕方が無く軽く手を振ると、


「「「きゃ────っっつ!!!」」」


途轍もなく大きな歓声が上がった。


「………先輩?どうしてくれるんですか」

「俺のせいか!?」


ん?何だか嬉しそうな顔をしてる?……いや、アレは何かを企んでいる顔だ!

そしてそのまま笑顔で手を振り返してきた。


私が視線を向けていたせいか、他の令嬢達も一斉にジャスミン嬢を見た。

それに気が付いた彼女は、へらりと笑った。


「……あの馬鹿娘っ!」

「あ、おいっ!?」


階段まで行く時間が惜しい。が、自力で越えるには観覧席の壁は高い。


「リック!上げろっ!!」

「えっ!?」


突然猛ダッシュで向かって来られて慌てながらも、言わんとすることは分かったのだろう。慌てて手を組み、足場を準備する。


「おりゃっ!」


リックの掛け声にあわせて、その手のひらを踏み台にして飛び上がる。リックの投げ上げるタイミングとしっかり合い、観覧席の壁に届く。


ジャスミン嬢はすっかりと他の令嬢達に囲まれて埋もれてしまっていた。


「貴方どういうおつもり!?」

「白百合の騎士様は私達皆のモノでしてよ!」

「貧相な泥棒猫ちゃんの出る幕ではないの」


……おいコラ。誰がいつからお前達の所有物になったんだ?


「何をしている?」


訓練を邪魔された腹立たしさもあり、思ったよりも冷たい声が出た。


「えっ!?」


令嬢達が驚いて一歩下がった。


「問題を起こした者には家への連絡が行くぞ」


それは、問題を起こした者として記録が残るという事だ。


「あ、の、申し訳ございません!」

「今すぐ失礼致します!」


令嬢達は蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。


「……あんなに早く走れるのですね」


小娘は呆然としながらも、口からは今見た感想が漏れている。どこまでもブレないな。


「あ、ユリシーズ様」

「……何故一人で来たんだ」


思った通り、ジャスミン嬢の周りには誰もいない。令嬢が一人でこんな場所に来るなんてどうかしている。


「ごめんなさい、こんなことになるとは思わなくて……。でも、ちゃんと入り口までは侍女と一緒だったんですよ?」

「だいたい何をしに来た。訓練に興味など無かっただろう」

「…えっとぉ~、怒りませんか?」

「事と次第による」

「えーっ!!」


その反応。絶対に好奇心案件だな!?




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