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5.二度目はカフェで(Y)

『婚約者に会うなら花くらい持っていけよ』


先輩の助言に従って花屋に行ったら、何故か強引に百合の花束を押し付けられた。

残念ながら、この花は彼女のイメージでは無いと思うし、予定よりも随分と大きくて邪魔だが仕方がない。


「すまない、待たせてしまったか」


待ち合わせをしていた店に向かうと、すでにジャスミン嬢が待っていた。


「んグッ…!」


……ジャスミン嬢からおかしな音が漏れた。


「…大丈夫か?」

「だ…、な…で……」


言葉に成りきらない音が数音しただけで、彼女は口元に手をやり、体を震わせている。

……何か持病でもあるのか?そんな大切なことは先に伝えておくべきだろう!


「しっかりしろ。どこか痛むのかっ」


介抱しようと手をのばした、が。


「アハハッ、もう駄目!我慢できませんっ!」


ジャスミン嬢が突然笑い出した。淑女の微笑みでは無い。大爆笑だ。


「……ジャスミン嬢?」

「すみませっ、だってっ!白百合の騎士様が白百合抱えてやってくるんですものっ!」


可笑(おか)し過ぎます~っ、とまだケラケラ笑っている。


……この小娘めっ!!


「これは花屋の陰謀だ、私の選択では無い!」


私の言い訳を聞いて更に笑い転げている。


「…………帰るぞ」

「待って待って!ちょっと深呼吸するから暫しお待ちを!」


目元を拭いながら(それ程の馬鹿笑いだった)本当に深呼吸を繰り返している。


「……君は淑女教育を受け直すべきだな」

「すみません、久々に笑いのツボを直撃されました。ユリシーズ様の麗しいお姿に涙まで出てしまいましたわ」

「なるほど…確かに。外見だけではその失礼さは分からないな?」

「ごめんなさい!悪気は無かったんですよ。これでも笑わない様に努力はしたんです」

「…悪気がない方が悪いこともあると覚えておきなさい」

「おお、名言ですね!以後気を付けます」


……表情を見るに、本気で感心しているようだが何故か腹が立つな。


「ジャスミン嬢は友達が少ないだろう」

「えっ、何故分かるんですか?」

「万人受けしない。色々と自分の感情に素直過ぎるからな」

「なるほど。確かに我慢が苦手です」

「もう17歳なのだから多少の我慢はできるようにしなさい。…まあ、嘘吐きよりはマシだが」


この失礼な小娘はきっと嘘とは無縁だろう。


「お任せ下さい。私は嘘は大嫌いですから」

「そのままでいてくれ。それから、遅くなって悪かった」


そう言って花束を渡せば、まだ口元が笑いそうになっている。


「こんなふうに花束をもらうのは初めてです。ありがとうございます」


フワッと笑った顔は先程までの爆笑とは違い、ちゃんと女の子らしい笑顔だった。


「なんだ。まだ白百合ネタで笑っているのかと思ったぞ」

「っ、白百合ネタ……、んンッ」


しまった。いらん事を言ってしまった。

駄目な笑いに変わりそうだ。


「こら小娘。いい加減にしろ」


ペシッとデコピンをする。


「痛っ!?えっ、暴力!」

「デコピンは暴力には含まれん」

「えーっ!痛かったのにっ」

「爆笑された私の方が心が痛かったが?」

「……すみませんでした」


ふと、視線を感じて周りを見ると、完全に注目されていた。……大失態だ。だが、店内にいたのは若い令嬢達だけ。


「お騒がせして申し訳ありません。よろしければ、お詫びにそちらのお茶は私にご馳走させて下さい」


笑顔でそう申し出れば、何故か皆口元をおさえ、コクコクコクと頷くだけだ。

……迷惑だったか?


「…天然?すご」

「ジャスミン嬢?」

「小首。傾げてましたよ?」

「!!」


まさか私が?バックス夫人の得意技、小首を傾げるあざとい仕草をしていただとっ!?


「……出ようか」

「はーい」


全員分の支払いを済ませ店を出る。

結局ジャスミン嬢は何も飲んでいない。


「悪かったな、何も頼んでいなかっただろう」

「いえ、もともとは私が笑ったせいですから」


……言われてみればそうだった。


「お父様にも口を閉じておけとよく言われるのですけど、なかなか難しいんですよね」

「子爵の苦労が偲ばれるな。まあ、だが仮面のような笑顔でずっといられるよりは爆笑してくれる方がいい」

「……ユリシーズ様も変わっています」

「そうか?男はそれほど淑女が好きではないと思うが。マナーは大切だが、多少は感情を見せてくれないと気持ちが悪い」


あの薄ら笑いで目だけギラギラして迫って来られる恐怖っ!ある意味殺人鬼より怖いと思う。


「あ、だから物語では完璧な貴族の婚約者より感情豊かな平民出の主人公を好きになるんですかね?」

「……それはただの浮気だろう」

「ですよねぇ。でも、嫉妬して主人公を傷付けた婚約者は断罪されて、王子は主人公と結婚するんですよ」

「そんな国は10年後には滅んでいるだろうな」


結局は街をブラブラと歩きながら、くだらない話をして2回目の顔合わせは終わった。


彼女のことで分かったことは、好奇心旺盛で良くも悪くも素直。子供だからか女性に対する嫌悪感はわかないこと。

おかしな令嬢だが、嫌いでは無い。と思う。

だが、あれが妻に?


「……妻と言うより珍獣だろ」


香水臭い淑女よりは、どこに飛び出すか分からない珍獣の方がマシだろうか。






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