4.二人の日常(J)
「まあ、婚約が決まったの?」
「とうとうね。逃げられなかったわ」
「それはお相手の方がお可哀想ね」
何ということでしょう。友達だと思っていたグローリアからこんなことを言われるだなんて!
「……友情なんて儚いものでしたのね……」
「そうねぇ。だって友達として見ている分には楽しいけれど、生涯の伴侶にするにはちょっと……」
まさかジョセフィンにまで!?
「酷いわ二人共。私が何をしたと言うの?」
だって目立つことは嫌いです。日々静かに暮らしているはずですのに。
「ティモシー殿下からの求婚を面倒の一言で断ったり」
え、そのお話?だってお父様に年下は止めておけと言われておりましたし、何よりも。
「王族なんていかにも面倒臭そうで無理です」
「まずは光栄ですわ~とか言うものよ?」
「そんなことを言って期待させる方が可哀想ですよ。無理なら無理とハッキリお断りするべきです」
「貴方のその、王族だからといって一切忖度しないところは大好きですわ」
「ありがとうございます?」
王族には忖度するべき?いえいえ、そんなことしていたら、あっという間に婚約者にされてしまいます。
まあ、私は次女で婿入りも難しいですから、旨味が少ないでしょうし、あまり本気にはしていませんでした。
「あとは学園棟の大時計の仕組みが知りたいからと忍び込んで壊しかけたり」
懐かしいですわ。あれは入学して間もない頃のことです。若気の至りというものでしたね。
「とっても緻密で美しい構造でしたの!見とれていたら、つい、近寄り過ぎてリボンが歯車に巻き込まれてしまったのですよね。あの時は学園長にたくさん叱られましたわ」
リボンはボロボロになりましたが、時計は何とか無事でした。巻き込まれたのがスカートとかじゃなくて本当によかった。おパンツのみでは助けも呼べない所でした。
「ジャスミンは本当にびっくり箱よね」
「あら、上手い表現だわ」
……何だか悔しいです。ですので、今度びっくり箱を作ってお二人にプレゼント致しましょう。
「それで?お相手はどなたですの?」
「えっとですね、白百合の騎士様をご存じですか?」
「えっ!?まさか近衛騎士団の?」
「知っているに決まっているじゃない!独身女性が一度は憧れる方ですわよ?」
……全く知らなかった私が珍獣ということですか。でも凄いです、美形なだけでそこまで重宝がられるのですね。
「申し訳ありませんが、その憧れの君のユリシーズ様が私の婚約者でございます」
顔が。お二人のお顔が淑女にあるまじきモノになっています。
「……バックス子爵も随分と大物を見繕って来ましたわね」
「確かに。でも、あの方ならジャスミンの好奇心を止められそうですし」
「だけど、あの方って危ない女性のファンが多いでしょう?大丈夫かしら」
「そうね。白百合の会が黙っていないと思うわ」
白百合の会。また新しいモノが出てきましたわね。どれだけ百合がお好きなのかしら?
「この学園にもその白百合の会に入っている方はいらっしゃるの?」
「ええ、3学年のコーエン公爵令嬢とか」
「あら?婚約者がいらっしゃいましたよね?」
「白百合の会は保護団体なの」
「……ユリシーズ様は絶滅危惧種か何かですか」
「というより、誰かが独占してはならない孤高の存在?らしいわよ」
孤高……二つ名の多い方だわ。
「もしや、今回の婚約は独占したことになるのでしょうか」
「なるでしょうね」
「そんな……っ」
「あっ大丈夫よっ、心配しなくても酷いことはされないと思うわ」
「そうですわ。皆さんご自分の将来に影響するようなことはしないと思いますわよ?」
二人共何だかんだ言ってもお優しいわ。
でも違うんです!私は、
「この泥棒猫め!と言って下さるでしょうか?」
物語に出てくる名台詞その1です。
本当にそんなことを言う方がいるのか気になっていたのですっ!
「………心配した私が馬鹿でしたわ」
「……ジャスミンは何でも楽しめますものね」
「はい。面倒だと思っていましたが、少し楽しくなってきました!」
ユリシーズ様の方がびっくり箱だわ。
物語から突然飛び出して来た騎士様みたいです。
「ふふ、次にお会い出来ることがあったらお手製のびっくり箱をプレゼント致しましょう♪」
【人物紹介】
グローリア・クーパー伯爵令嬢
ジョセフィン・フェアクロフ侯爵令嬢
・ジャスミンの親友
・二人共婚約者がいる
・グローリアはスレンダーな美女
・ジョセフィンはややぽっちゃりの癒し系
・ジャスミンのやらかしを楽しんでいる