ちびっこ小話 2
【がんばれ、王子様!(アンブローズ編)】
あれはアンブローズ?
ちんまりとしゃがんでじっと地面を見ている幼児を発見した。一人でいるところを見ると、きっとまた迷子になっているのだろう。
「こんにちは、アンブローズ。今日は一人なの?」
「……」
だめだ。何かに夢中で返事がない。
アンブローズの眺める先を見ると、水たまりがある。
昨日の雨でできたのだろうけど、何がそんなに面白いのかな。
「アンブローズは何を見てるの?」
「むししゃん」
おお、今度は返事がきた。よく見ると、水たまりの近くには蟻やダンゴムシがいる。どうやらそれを見ていたらしい。
「ああ、君は昆虫が好きなのだね」
「ありしゃん、おみじゅだめなの、だんごしゃんへいき。じゃぶじゃぶないの、あゆくの、しゅごいね?」
「……ん?」
蟻はお水が駄目なのしかわからなかった。だんごしゃんは……ダンゴムシのことかな。
「あんよ、ちゃうの。ありしゃん、ちょうちょしゃんいっしょ、だんごしゃん、ちゃうの。どちて? むししゃん、いっちょ」
どこから蝶々が出てきたんだ? あんよはきっと足のことだけど、ちゃうって何。何がどうして? 僕が教えてほしい。
「………ユリシーズ様を探そうか」
ごめんよ、アンブローズ。君の呪文は高度すぎて僕には理解不能だ。
「ん~ん、だんごしゃん、みちる」
「……また叱られるよ? 君、迷子だよね?」
「ん~ん、あむ、まいごない」
そう言って、おもむろにダンゴムシをつまみ上げると、ポトンと水たまりの中に落とした。
「え? 可哀想だよ⁉」
「ん~ん、だんごしゃんへいき。あゆくもん」
あゆく? あゆくってなんだ。
しばらくするとダンゴムシが水たまりから出てきた。意外と平気で歩いている。
……もしかして、あゆくって歩くのこと?
アンブローズの世界は不思議がいっぱいだ。
なんとなく僕もしゃがんでアンブローズの世界に入る努力をしてみる。
──五分経っても姿勢の変わらないアンブローズに、僕の足がしびれてきた。
「殿下?」
「あ、ユリシーズ様」
アンブローズを探しに来たのだろう。ユリシーズ様が走ってきた。
「見つけてくださりありがとうございます」
「いえ、あの。ねえ、アンブローズ。さっきの虫さんのお話をもう一度教えてくれる?」
ライバルに教えを請うのは少々悔しいが仕方がない。アンブローズが何を言いたかったのか気になるもの。
「んとね、( 呪文 )なのよ」
「ああ、蟻は水が駄目でダンゴムシは平気。でもじゃぶじゃぶ泳ぐのではなく歩いているそうです。それと、蟻と蝶は足の数が同じで、ダンゴ虫は違う。同じ虫なのにどうして? という質問ですね」
え、そんなふしぎ発見があったの? でも、どちらにしても僕には答えられない。
「ダンゴムシはエビの仲間だ」
「え⁉ 虫じゃないんですか?」
「……えびしゃん? ……だんごしゃん、おいし?」
「食べたらだめだぞ。ばっちいからな」
ユリシーズ様はどうしてそんな知識があるんだ。そんなことは父上だって知らないと思う。
治世とダンゴムシは相容れない関係だろう。
「……アンブローズ、ごめん。僕はまだ君のお兄様にはなれないようだ」
「いや、その前に私が許しませんよ?」
こうして私はまたユリシーズ様に負けることとなった。
ちなみに。
「そうなんですよ、ダンゴムシは虫と言われているのに甲殻類で、だから少しなら水中でも生きられるのです! どちらかというとフナムシやダイオウグソクムシの仲間ですね」
夫人が瞳をキラキラさせながら語ってくれた。ユリシーズ様の知識は夫人から教えられたものらしい。
というか、フナムシって何。ダイオウって王様なの? さっぱりわからない。
どうやら最強の呪文使いはジャスミン夫人のようだ。
ちびっこ編はひとまず終了。
次からはジャスミンたちのお話に戻ります。
クリスマスまで続ける予定です!




