21.二人の未来(Y)
「ユリ坊は随分とヤンチャをしたそうだな?」
私と殿下はただいま国王陛下からお説教中だ。まあ、非公式なので、罰が与えられる事はないだろう。
「殿下からのご提案でございました」
「あっ!ユリシーズお前っ!」
横で裏切り者!と騒いでいるが本当のことだ。
「それに王太子妃殿下には大変喜ばれましたよ」
「それが問題なのだろうが。王妃まで、『貴方はユリシーズといつ踊るの?』と聞いてきたぞ。うん?どうする?次の舞踏会で披露しようか」
「多大なるご迷惑をおかけしましたこと、深くお詫び申し上げます」
「なんだったか……ああ、白薔薇同盟か?白百合だ何だのと華やかなことだなぁ」
「お言葉ですが、白百合の会の創設者ならびに命名はイヴァンジェリン王女殿下でしたよ」
今は他国に嫁いでしまったが、王女殿下に初恋だと告白された。ただ、自分の立場は弁えているから、見守ることだけ許してほしいと言われたのだ。
つい、それを許した私が馬鹿だった。なんと王女は他の令嬢達とつるんで白百合の会を結成しやがった。
せめて嫁ぐ時に解散させていけよ!
「ん?そうだったか?」
知ってるくせにとぼけるな!
殿下達のイタズラ好きは国王陛下譲りだと思っている。遊び心は大切というおおらかさは如何なものか。
「さて、ここからは真面目な話だ。
ユリシーズ、ジャレッドの側近にならないか」
「……それは以前お断りしたはずです」
「前は前。今は今だ」
側近の話は学生時代に殿下からも何度か話を頂いていた。だが、全てお断りしていたのに。
「正直な話、お前が近衛騎士のままではこの騒ぎは終わらないだろう。もっと明確な立場を得て、軽々しく扱われないようにするべきなのではないか?」
……それは確かに何度か考えた。
令嬢達が騒ぎ立てるのは、私がただの騎士だからだ。
これが王太子殿下の側近となれば、そのようなことも減るだろう。
「お前が側で支えてくれると私としても嬉しいな」
「……殿下。その発言は薔薇呼ばわりされるので控えた方がいいですよ」
「いや、ふつうの発言だろ!?」
「今、私を側近にするとそういう問題が出てくるということです」
「ほう?ユリ坊はその程度か?そのような噂は実力で捩じ伏せると思っていたのにガッカリだ」
……陛下は父上と属性が同じで腹が立つな。まずはユリ坊呼びは止めてほしい。
「返事はいつまでにしたら宜しいでしょうか」
「明日にでも。と言いたいが、そうだな。1週間程で足りるか。出来れば来月のファーロウ国への訪問に共に行ってほしいのでな」
「……それって護衛と通訳では?」
「なに、其方の美貌も役立ててくれると更に助かるぞ?」
「ハニートラップなんて安い真似は致しません」
「小首を傾げてニコっと笑うといいらしい。王妃が言っておったわ」
王妃様は子爵夫人と同じ技の使い手か。
「なんなら婚約者殿を連れて行くかい?婚前旅行をプレゼントしようか。彼女も語学が堪能らしいな?」
調べられてるし。婚前旅行……心惹かれるワードだが。
「まだ学生ですよ」
「卒業資格はあると聞いているぞ」
「ですが、子爵が何と仰るか」
「畏れ多いと言っていたが、安心して任せてくれと伝えてあるから問題ない」
根回しが早いし酷いっ!
「婚約者殿と相談するといい。このままでは夜会や舞踏会の度に揉め事が起きてしまう可能性が高いこと。それを避ける一番の方法は、今までのように護衛の仕事をすることだが、そうすると毎回婚約者を一人で壁の花にしてしまうこと。
今は学生だが、今後は婦人達だけの社交場に行くことも増える。其方一人では守りきれないぞ。
だから結婚する前にちゃんと考えなさい」
「……はい。お心遣いに感謝申し上げます」
殿下の側近か。大変ありがたい話ではある。
騎士団は好きだが、ジャスミンのことを考えるとどちらがいいのか。
私が軽く扱われるということは、ジャスミンだって同じで、女性だけの茶会など、私が介入出来ないことが今後増えるのは確かだ。
「ちゃんと話し合うか」
◇◇◇
「と、言う事なんだけど」
「お父様から聞きました。陛下からお手紙が届いて蒼白になっていましたけど」
「…子爵には悪いことをしたな」
いきなり国王陛下から書状が届けば驚くに決まっている。
「いえいえ。私の問題にもなりますもの。畏れ多いとは思いましたが、まだ婚約者でしかない私までお気遣いいただけて感謝しておりますわ」
「そう言ってもらえると助かる」
ジャスミンは変なところで肝が据わっている。かと思えばちょっとしたことでワタワタしているし。
……白百合の会にはビクついてたな。
「ジャスミンの考えを聞きたいんだが」
「私ですか?」
「だって未来の妻だろう?」
「つっ!?う~~っ、そうですわよ!?私がユリシーズ様の未来の妻ですが何かっ!?」
自分からキスなんてするかと思えば、妻という言葉1つでここまで狼狽えるのだから、本当にこの子は読めないなぁ。
まあ、とりあえずは可愛い一択だ。
「私はユリシーズ様が騎士であっても、王太子殿下の側近であっても、どちらでも付いて行くだけですよ?」
ジャスミンはなんてことない話かのように笑う。
「だからユリシーズ様の心が求めるまま選んで下さいな」
満面の笑顔で伝えてくれるのは、私への絶対の信頼。
本当にもう、どこまで惚れさせるつもりなのか。