13 ここから先は、俺1人でやる
遅々と進まないため、進行方向の魔物は、複数でなければ倒す事に変更した。
『最短ルートで距離162、現在時刻は午前4時20分』
「日の出までは、あと10分か。霧が濃くて見えないが、空は白み始めているだろうな。もう少しだ」
『待て、止まれ』
ダイチは、警戒を強め身構えた。
『11時、距離29に魔物がいたが消えた』
「完全感知範囲を超えたのではないか」
『違う。存在自体が、そこで消えた』
「今までとは違うということか」
『いる。12時、距離24・・消えた』
「何だ、消えるって」
『これはまずいぞ。きっと奴に違いない。フォレストフォッグだ』
「そんなに危ないやつなのか」
『ああ、ダイチとの相性は最悪だ。とにかく迂回だ、4時へ』
「分かった」
ダイチは、4時に進路を変更しようとした。
『気づかれたぞ』
『12時、距離19、危険度Bフォレストフォッグ1匹』
『3時、距離21、危険度Bフォレストフォッグ1匹』
『7時、距離25、危険度Bフォレストフォッグ1匹』
『9時、距離22、危険度Bフォレストフォッグ1匹』
『囲まれた。奴は、姿を消して察知できないようにしているが、6匹いる』
ダイチは辺りを警戒しながら、クローに尋ねる。
「フォレストフォッグってどんな魔物だ」
『戦闘力はE以下なのだが、姿を消したり、突然現れたりして攻撃して来る。相手の体力と精神を徐々に削っていく魔物だ。
違う世界とこちらの世界を行き来しているとも言われている。だから相手からも、こちらからも、攻撃が有効なのは、フォレストフォッグが現れている時だけだ』
「エクスティンクションが撃ちにくい。撃ったらリキャスト待ちが、危険になるということか」
『だから相性は最悪だ』
「アイ、敵はフォレストフォッグ6匹。俺たちは囲まれた。姿を消して攻撃をしかけてくるらしい。俺のエクスティンクションには、相性が悪い。俺の槍とアイの剣が主力だ」
「分かりました。ダイチ様の背を守ります」
「頼む」
黒の双槍十文字を握る手に力が入った。
『10時、距離5、高さ2』
『2時、距離10、高さ2』
「残りの4匹はどこだ」
『4匹は消えている』
『3時、距離1、高さ2』
『9時、距離1、高さ2』
ダイチは左9時を黒の双槍十文字を横に払う、その瞬間に右肩を鋭く堅いもので切られた。槍は空を切っていた。
「ダイチ様、敵は瞬間的にしか姿を現しません」
「ぐ、俺は、全く見えなかった。距離は1で、高さは2だな?」
『ああ、全て距離1、高さは2で攻撃してきた』
「もう、距離と高さの連絡はいらない」
気配を探る。
『10時、4時』
ダイチは10時の方向に、黒の双槍十文字を払う。空を切るが、一瞬、黒い影のようなものが空中に浮いているのを見た。
アイの剣先が宙を舞うが、手ごたえがない。アイの右肩に鋭い爪跡ができた。
「姿を現すのは、攻撃の一瞬だけだ。間に合わない」
『フォレストフォッグは、爪で攻撃してくる』
『3時、9時』
槍は3時の方向の空を切る。3時を向いているダイチは、背中を切られる。
「ぐあ、・・・でも、分かったぞ」
ダイチは静かに目を閉じた。
ビーチボール
「・・・・・・」
『2時、8時』
ダイチは、槍を2時に払いながら、
「エクスティンクション」
8時に現れたフォレストフォッグは、エクスティンクションによって消滅する。
2時のフォレストフォッグは、槍に突かれて、グゲッ気味の悪い叫び声を残して消える。
9
「アイ、目を閉じて、俺の言葉だけに集中しろ。俺から見て時計版の数字を言う。そこから敵が、攻撃してくる。そこを突け」
「はい。距離1m、高さ2mを突きます」
アイは、目を閉じる。
8
『2時、8時』
ダイチはアイに叫ぶ。
「8時」
ダイチは、体を左に向け、槍を右手で2時に払う。
グゲッ気味の悪い叫び声がする。
アイは、剣を8時の方向を突く。
グゲッ。
7
6
5
攻撃が止む。ダイチは、眼を閉じたままクローの言葉に全神経を集中させる。
「次はどこだ」
4
3
『3時、9時』
「9時」
ダイチは、そう叫びながら3時を槍で突いた。
アイは、9時を突く。
2か所から同時に、グゲッと気味の悪い叫び声がする。
2
1
0 『フォレストフォッグは、全滅した』
「アイ、良くやった。怪我は大丈夫か」
「回復力の高いルカの民にとっては、かすり傷程度です」
「そうか。アイは、目を瞑って攻撃していたのか?」
「はい、ダイチ様の声だけを頼りにしていました」
『ダイチが、戦闘中に目を閉じるとは・・・アイもダイチの指示で、迷わず目を瞑るとは。人間は、理解し難い』
「信頼があればこそだ。俺はクロー、アイは俺の指示で戦った」
「私は、ダイチ様を信じております」
「ふう、奴の攻撃力が低くて助かった。クロー最短コースの方向を」
『9時だ』
「よし、いくぞ」
ダイチは数ヶ所に傷を受けながらも、漆黒の霧の森を抜けられることに気分が高揚し、傷の痛みを感じてはいなかった。
「もう、そろそろだな」
『ああ、あと50m程だ』
夜明け直前といっても漆黒の霧の森は、依然として視界3mの世界である。額や肩、膝などに小枝を当てながら進んでいる。正面の太い幹に手を触れようとした時に、
『12時、距離33、危険度Sクイーンベヒーモス』
クイーンベヒーモスは、全身が藍色で体長6mを超える。象と似ているが二足歩行をし、手には5本の指と鋭い爪があり、長い鼻と牙、太い尻尾をもっている。炎と雷の魔法を操り、その戦闘力はこの森の夜行性の魔物においても屈指である。
「ベヒーモスってゲームのラスボスとして出てくるやつだ。回避だな」
ダイチが体の向きを9時に変えた。
『12時、距離22、クイーンベヒーモスが向かって来る。とにかく逃げろ。動け。やつは魔法を撃って来る。止まれば魔法で即死だ』
「アイ、走って逃げるぞ」
ダイチは、枝に体をぶつけながらも小走りする。
「魔法を使うのか、止まるなと言われてもこの視界では、痛っ・・・枝が当たる」
『4時、距離15、クイーンベヒーモス、高さ6』
ピカッ、バリバリバリ、閃光と空を裂く雷鳴が走った。
ドドドドーン、轟音と地響きを伴い稲妻が3m右の樹に直撃した。凄まじい衝撃でダイチは左に2m飛ばされた。アイは右に3m跳ね飛ばされて、木の幹に頭を打って気を失った。稲妻が直撃した樹は黒く焦げ、幹が裂けるように両断されていた。
「アイ・・・クロー、クイーンベヒーモスの位置を知らせろ」
『1時、距離5、高さ7』
ゾーブ
「エクス・・」
そう唱えた瞬間に、ベヒーモスの尻尾が飛んできた。隣の樹の幹を圧し折りながら、ダイチの脇腹を直撃した。ダイチの体は、くの字に曲がり飛んだ。地面で転がりながら樹の幹に頭を打った。意識が遠のく。
クイーンベヒーモスのドシドシという足音が近づく。
「う、う、う・・・い、痛い。エ、エクスティンク・・・撃たなければ・・」
『ダイチ、起きろ。起きろ!』
クローが懸命に声をかける。
「・・・」
ダイチの意識は遠のいて行く。
『ダ・チ、・・ろ、お・ろ。ダイチ、おきろ、起きろ』
ダイチは、ゆっくり目をさました。濃い白い霧が空を覆っている。
「ク、クイーンベヒーモスは・・・・」
ダイチは起き上がろうとしたが、脇腹に激痛が走る。
「痛てて・・・アイは?」
『クイーンベヒーモスは、ダイチに止めを刺す前に日の出となり、去って行った。だが、アイをさらって行った。』
「何だって、アイを連れ去ったのか」
ダイチは、飛び起きて歩こうとしたが、体がふらつきバランスを崩す。
「うぐっ・・・」
『ダイチ、良く聞け。現在7時23分。あと4分で私は3日間の完全休眠状態だ』
「クロー、俺の黒の双槍十文字はどこだ」
『2時、距離7』
ダイチは、ふらつきながら黒の双槍十文字を拾う。
「クイーンベヒーモスは、アイをどこに連れ去った」
『ダイチ、まず話を聞け、私はあと3分10秒で3日間の完全休眠状態だ。この先、ダイチを支援できなくなる』
「そうなる前に、クイーンベヒーモスの去って行った方角を教えろ」
『アイは、もう喰われているかもしれない。助けに行けば、ダイチも死ぬだろう』
「俺は、アイを救い出す」
『ダイチが死ねば、誰がカミューへ白石を届ける。誰がドリアドの街、ローデン王国を飢饉から救う。優先事項を冷静になって考えろ』
「俺は、アイを救う。そして、カミュー様へ白石を届ける。それができる者は、今この場にいる俺にしかできない」
『・・・分かった。クイーンベヒーモスの方角は教える。ダイチは、アドレナリンと心拍が上昇している。まずは、冷静になれ。これ以上、時間を無駄にできない』
「・・・・クロー、分かった」
ダイチは、1つ息を大きく吸い、ゆっくりと吐いた。
『急ぐぞ。私を手に取って2つのページを開け、先ずはステータスだ』
氏名:野道 大地 年齢:25歳 性別:男性 所持金:10,210,446ダル
種 :パラレルの境界を越えたホモ・サピエンス
称号:黒の双槍を鍛えし鍛冶職人
ジョブ・レベル:召喚術士・レベル 54
鍛冶上級職人・レベル 51
体力 1394 物理攻撃力 484
魔力 1(固定値) 物理防御力 446
俊敏性 291 魔法攻撃力 648
巧緻性 4189 魔法防御力 847
カリスマ性 2828
生得スキル
〇アイテムケンテイナー
〇無属性魔法
ジョブスキル
〇召喚無属性魔法:エクスティンクション
〇思念会話
〇神獣召喚
〇整形の妙技
特異スキル
〇学び
『ジョブスキルに神獣召喚があるか』
「ある」
『あるならよい、次だ。カミューの住む洞窟の入口を示すページを開け、地図だ』
ダイチは、慌ててそのページを開いた。
『現在地と最短ルートの方向、カミューの住む洞窟の位置、その3つを頭に叩き込め』
「・・・・」
ダイチは地図を写真のように脳に記憶する。
クローの地図は、しだいにぼやけてきた。
『クイーンベヒーモスは、2時の方角、32m先にある岩の切れ目から洞窟に入って行った。アイ・・生存は・・不明・・だ・・・』
「ク、クロー、クロー・・・」
クローに描かれた地図は消えた。
クローを閉じて、
「クロー、ありがとう・・・ここから先は、俺1人でやる。
アイを助け出し、カミュー様に眩いばかりに輝く白石をカミュー様へ届ける。
3日後の再会を楽しみに待っていろよ」
ダイチは、地面に落ちていたアイの剣を拾いアイテムケンテイナーへ、クローを革製の肩掛け鞄へ入れた。
「この洞窟だな」
ダイチは、クローから聞いた岩の切れ目の前に立っていた。洞窟へと続く入口は、大きな岩で塞がれていた。
これを見たダイチは、希望が湧いてきた。
「クイーンベヒーモスは、アイが逃げない様に洞窟の入口を塞いだ可能性がある。これで、アイは、まだ生きている可能性が高まった」
ダイチは、アイテムケンテイナーから着替えの服を取り出し、その服でぐるぐると何かを包んだ。それを左手に抱えた。ダイチは、入口を塞ぐ岩に目をやった。
ゾーブ
「エクスティンクション」
入口を塞ぐ岩に穴ができた。
ダイチは、右手に黒の双槍十文字を持ち、そこから洞窟内へと足を踏み入れて行った。
入口からは、緩い下り坂となっていた。入口こそ濃い白い霧から漏れる光で、仄かな明るさがあったが、30m程進むと闇の世界へと変わった。ダイチは、足音を忍ばせ、手探りで前へ進んだ。洞窟の壁からは、大小の岩が不規則に突き出し行く手を阻み、手の感覚だけが頼りとなっていた。
ダイチのつま先が小石を弾いた。カツン、カン、カンと洞窟内に音が響く。ダイチは身を伏せて黒の双槍十文字を構える。
・・・・クイーンベヒーモスは、夜目が利く。見つかれば雷魔法で瞬殺だ。心の中でそう考えると、ダイチは、背中に冷たいものが滴り落ちるのを感じた。
グルルルル、グルルルルと唸り声が聞こえてきた。
ダイチは、闇の中に身を伏せて、感覚の全てを耳に集中した。ゴクッと唾をのみ込む。
グルルルル、グルルルルと規則的な唸り声だ。
あれはクイーンベヒーモスの寝息だ、ダイチは唸り声の正体を理解した。しかし、洞窟の中で音が反響して、正確な方角は分からない。
闇の洞窟を、ダイチは耳を澄ませ、足を忍ばせながら1歩1歩ゆっくりと前進した。
闇の中で、ダイチの鼓動は高鳴り、研ぎ澄まされた五感には、自身の呼吸音さえ気になっていた。
グルルルル、グルルルル。
およそ30m先だな。ダイチは闇の中で立ち止まり、クイーンベヒーモスの位置を確認しながら、足を前に出した。ダイチのつま先が、何かに触れた。ダイチは驚き足を引っ込める。
闇の中で屈み、そっと手を伸ばす。布地と柔らかく温かい肌の感触が、手に伝わってきた。
グルルルル、グルルルル。
ダイチは、槍を脇に置くと、手探りでそれに触れていく。
「アイか・・・アイなのか・・・」
ダイチが、それを揺する。
「う、うぅ・・・」
グルルルル、グルルルル。
「アイなのか・・・」
「う・・・ダイチ様なのですか」
「しーっ、静かに・・・しーっ。・・・落ち着いて」
「・・・ダイチ様」
アイは、ダイチの胸にしがみ付いた。ダイチは手をアイの背に回し、抱きしめた。
「アイ、良く聞いてくれ・・・音を立てない様に・・・さあ、立てるかい」
ダイチは、静かにアイの体を離した。
「はい」
アイは、微かに聞こえる程の声で答えると、ゆっくりと立ち上がった。
ダイチは槍を手に取ると、闇の中で注意深く耳を澄ませた。
「・・・・・寝息が聞こえない」
ダイチが咄嗟に振り向くと、数メートル先の高さ5m程のところに、淡い水色の光を放つ2つの眼が、こちらを睨んでいた。
ダイチは、左手にもった包みの中の物を宙に投げた。包んでいた布が解ける。布に包まれていたものは、眩いばかりに輝く白石だった。
強烈な光が、昼間の太陽の様に洞窟を照らす。
グゴァァァァァア、クイーンベヒーモスは、凄まじい叫び声を上げ、両腕で目を覆った。
ダイチは目を瞑ったまま、アイを抱きかかえる様にしてその場に伏せる。
大玉
「エクスティンクション」
同時に、クイーンベヒーモスの尻尾がブーンと唸りを上げて、ダイチの背をかすめ隣りの岩を砕いた。
ズズズーンと、クイーンベヒーモスの巨体が倒れ、洞窟内に振動と重低音が伝わった。
ダイチは、ゆっくりと上体を起こすと、クイーンベヒーモスを確認する。胸から上が抉られて消えていた。
「ダイチ様、ありがとうございます」
「怪我はないか」
抱き着いたままのアイが、首をコクリと縦に振った。
「良かった・・・怖かっただろう」
ダイチは、アイの後頭部を優しく撫でた。手にポニーテールの感触が伝わってきた。
「私は、気を失っていたので、気が付いたらダイチ様が目の前にいました」
「あははは、それは好都合だ」
「ここはどこなのですか」
「クイーンベヒーモスのねぐらだ」
「まさか・・・ダイチ様は、命の危険を冒して、私を助けに来てくださったのですか」
「アイは、無事だった。それが全てだ」
ダイチを抱きしめるアイの腕に力が入る。
「もう、無理はしないでください・・・私は、幸せ者です」
「・・・・・」
「・・・私は、全ての記憶を取り戻しました。ダイチ様と出会ったハーミゼ高原の事も」
「え、ハーミゼ高原での出会い・・・その藤色の髪・・・まさか、岩陰に隠れた俺に、剣先を向けたのは、アイだったか」
「はい。人とオークとの戦争が始まろうとしていたので、私たちの住む楽園から偵察に来ていました」
ダイチは、苦笑いして頷いた。
「さあ、アイ・・・俺と一緒に、カミュー様にその眩いばかりに輝く石を届けに行こう」
「はい」
アイは、深く深呼吸をすると、立ち上がった。
ダイチは、アイテムケンテイナーから剣を取り出しアイへ渡した。そして、眩いばかりに輝く白石を松明代わりに持って、出口へと2人で向かって行った。




