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ひと  作者: 花野井 京
13/17

13 ここから先は、俺1人でやる

 遅々(ちち)と進まないため、進行方向の魔物は、複数でなければ倒す事に変更した。

 『最短ルートで距離162、現在時刻は午前4時20分』

 「日の出までは、あと10分か。霧が濃くて見えないが、空は白み始めているだろうな。もう少しだ」

 『待て、止まれ』

 ダイチは、警戒を強め身構えた。

 『11時、距離29に魔物がいたが消えた』

 「完全感知範囲を超えたのではないか」

 『違う。存在自体が、そこで消えた』

 「今までとは違うということか」

 『いる。12時、距離24・・消えた』

 「何だ、消えるって」

 『これはまずいぞ。きっと奴に違いない。フォレストフォッグだ』

 「そんなに危ないやつなのか」

 『ああ、ダイチとの相性は最悪だ。とにかく迂回だ、4時へ』

 「分かった」

 ダイチは、4時に進路を変更しようとした。

 『気づかれたぞ』

 『12時、距離19、危険度Bフォレストフォッグ1匹』

 『3時、距離21、危険度Bフォレストフォッグ1匹』

 『7時、距離25、危険度Bフォレストフォッグ1匹』

 『9時、距離22、危険度Bフォレストフォッグ1匹』

 『囲まれた。奴は、姿を消して察知できないようにしているが、6匹いる』

 ダイチは辺りを警戒しながら、クローに尋ねる。

 「フォレストフォッグってどんな魔物だ」

 『戦闘力はE以下なのだが、姿を消したり、突然現れたりして攻撃して来る。相手の体力と精神を徐々に(けず)っていく魔物だ。

 違う世界とこちらの世界を行き来しているとも言われている。だから相手からも、こちらからも、攻撃が有効なのは、フォレストフォッグが現れている時だけだ』

 「エクスティンクションが撃ちにくい。撃ったらリキャスト待ちが、危険になるということか」

 『だから相性は最悪だ』

 「アイ、敵はフォレストフォッグ6匹。俺たちは囲まれた。姿を消して攻撃をしかけてくるらしい。俺のエクスティンクションには、相性が悪い。俺の槍とアイの剣が主力だ」

 「分かりました。ダイチ様の背を守ります」

 「頼む」

 黒の双槍十文字を握る手に力が入った。

 『10時、距離5、高さ2』

 『2時、距離10、高さ2』

 「残りの4匹はどこだ」

 『4匹は消えている』

 『3時、距離1、高さ2』

 『9時、距離1、高さ2』

 ダイチは左9時を黒の双槍十文字を横に払う、その瞬間に右肩を(するど)(かた)いもので切られた。槍は空を切っていた。

 「ダイチ様、敵は瞬間的にしか姿を現しません」

 「ぐ、俺は、全く見えなかった。距離は1で、高さは2だな?」 

 『ああ、全て距離1、高さは2で攻撃してきた』

 「もう、距離と高さの連絡はいらない」

 気配を探る。

 『10時、4時』

 ダイチは10時の方向に、黒の双槍十文字を払う。空を切るが、一瞬、黒い影のようなものが空中に浮いているのを見た。

 アイの剣先が宙を舞うが、手ごたえがない。アイの右肩に鋭い爪跡(つめあと)ができた。

 「姿を現すのは、攻撃の一瞬だけだ。間に合わない」

 『フォレストフォッグは、爪で攻撃してくる』

 『3時、9時』

 槍は3時の方向の空を切る。3時を向いているダイチは、背中を切られる。

 「ぐあ、・・・でも、分かったぞ」

 ダイチは静かに目を閉じた。

 ビーチボール

 「・・・・・・」

 『2時、8時』

 ダイチは、槍を2時に払いながら、

 「エクスティンクション」

 8時に現れたフォレストフォッグは、エクスティンクションによって消滅する。

2時のフォレストフォッグは、槍に突かれて、グゲッ気味の悪い叫び声を残して消える。

9 

 「アイ、目を閉じて、俺の言葉だけに集中しろ。俺から見て時計版の数字を言う。そこから敵が、攻撃してくる。そこを突け」

 「はい。距離1m、高さ2mを突きます」

 アイは、目を閉じる。

8 

 『2時、8時』

 ダイチはアイに叫ぶ。

 「8時」

 ダイチは、体を左に向け、槍を右手で2時に払う。

 グゲッ気味の悪い叫び声がする。

 アイは、剣を8時の方向を突く。

 グゲッ。

5 

 攻撃が止む。ダイチは、眼を閉じたままクローの言葉に全神経を集中させる。

 「次はどこだ」

3 

 『3時、9時』

 「9時」

 ダイチは、そう叫びながら3時を槍で突いた。

アイは、9時を突く。

 2か所から同時に、グゲッと気味の悪い叫び声がする。

0 『フォレストフォッグは、全滅した』

 

 「アイ、良くやった。怪我は大丈夫か」

 「回復力の高いルカの民にとっては、かすり傷程度です」

 「そうか。アイは、目を(つむ)って攻撃していたのか?」

 「はい、ダイチ様の声だけを頼りにしていました」

 『ダイチが、戦闘中に目を閉じるとは・・・アイもダイチの指示で、迷わず目を(つむ)るとは。人間は、理解し難い』

 「信頼があればこそだ。俺はクロー、アイは俺の指示で戦った」

 「私は、ダイチ様を信じております」

 「ふう、奴の攻撃力が低くて助かった。クロー最短コースの方向を」

 『9時だ』

 「よし、いくぞ」

 ダイチは数ヶ所に傷を受けながらも、漆黒の霧の森を抜けられることに気分が高揚(こうよう)し、傷の痛みを感じてはいなかった。

 「もう、そろそろだな」

 『ああ、あと50m程だ』

 夜明け直前といっても漆黒(しっこく)(きり)の森は、依然として視界3mの世界である。額や肩、膝などに小枝を当てながら進んでいる。正面の太い幹に手を触れようとした時に、

 『12時、距離33、危険度Sクイーンベヒーモス』

 クイーンベヒーモスは、全身が藍色で体長6mを超える。象と似ているが二足歩行をし、手には5本の指と鋭い爪があり、長い鼻と牙、太い尻尾をもっている。炎と雷の魔法を(あやつ)り、その戦闘力はこの森の夜行性の魔物においても屈指(くっし)である。

 「ベヒーモスってゲームのラスボスとして出てくるやつだ。回避だな」

 ダイチが体の向きを9時に変えた。

 『12時、距離22、クイーンベヒーモスが向かって来る。とにかく逃げろ。動け。やつは魔法を撃って来る。止まれば魔法で即死(そくし)だ』

 「アイ、走って逃げるぞ」

 ダイチは、枝に体をぶつけながらも小走りする。

 「魔法を使うのか、止まるなと言われてもこの視界では、痛っ・・・枝が当たる」

 『4時、距離15、クイーンベヒーモス、高さ6』

 ピカッ、バリバリバリ、閃光と空を裂く雷鳴(らいめい)が走った。

 ドドドドーン、轟音(ごうおん)と地響きを(ともな)稲妻(いなづま)が3m右の樹に直撃した。(すさ)まじい衝撃(しょうげき)でダイチは左に2m飛ばされた。アイは右に3m跳ね飛ばされて、木の幹に頭を打って気を失った。稲妻が直撃した樹は黒く()げ、幹が()けるように両断されていた。

 「アイ・・・クロー、クイーンベヒーモスの位置を知らせろ」

 『1時、距離5、高さ7』

 ゾーブ

  「エクス・・」

 そう唱えた瞬間に、ベヒーモスの尻尾が飛んできた。隣の樹の幹を()し折りながら、ダイチの脇腹を直撃した。ダイチの体は、くの字に曲がり飛んだ。地面で転がりながら樹の幹に頭を打った。意識が遠のく。

 クイーンベヒーモスのドシドシという足音が近づく。

 「う、う、う・・・い、痛い。エ、エクスティンク・・・撃たなければ・・」

 『ダイチ、起きろ。起きろ!』

クローが懸命に声をかける。

 「・・・」

 ダイチの意識は遠のいて行く。


 『ダ・チ、・・ろ、お・ろ。ダイチ、おきろ、起きろ』

 ダイチは、ゆっくり目をさました。濃い白い霧が空を(おお)っている。

 「ク、クイーンベヒーモスは・・・・」

 ダイチは起き上がろうとしたが、脇腹に激痛が走る。

 「痛てて・・・アイは?」

 『クイーンベヒーモスは、ダイチに止めを刺す前に日の出となり、去って行った。だが、アイをさらって行った。』

 「何だって、アイを連れ去ったのか」

 ダイチは、飛び起きて歩こうとしたが、体がふらつきバランスを(くず)す。

 「うぐっ・・・」

 『ダイチ、良く聞け。現在7時23分。あと4分で私は3日間の完全休眠状態だ』

 「クロー、俺の黒の双槍十文字はどこだ」

 『2時、距離7』

 ダイチは、ふらつきながら黒の双槍十文字を拾う。

「クイーンベヒーモスは、アイをどこに連れ去った」

 『ダイチ、まず話を聞け、私はあと3分10秒で3日間の完全休眠状態だ。この先、ダイチを支援できなくなる』

 「そうなる前に、クイーンベヒーモスの去って行った方角を教えろ」

 『アイは、もう喰われているかもしれない。助けに行けば、ダイチも死ぬだろう』

 「俺は、アイを救い出す」

 『ダイチが死ねば、誰がカミューへ白石を届ける。誰がドリアドの街、ローデン王国を飢饉(ききん)から救う。優先事項を冷静になって考えろ』

 「俺は、アイを救う。そして、カミュー様へ白石を届ける。それができる者は、今この場にいる俺にしかできない」

 『・・・分かった。クイーンベヒーモスの方角は教える。ダイチは、アドレナリンと心拍(しんぱく)が上昇している。まずは、冷静になれ。これ以上、時間を無駄(むだ)にできない』

 「・・・・クロー、分かった」

 ダイチは、1つ息を大きく吸い、ゆっくりと吐いた。

 『急ぐぞ。私を手に取って2つのページを開け、先ずはステータスだ』

 

 氏名:野道 大地   年齢:25歳   性別:男性  所持金:10,210,446ダル

 種 :パラレルの境界を越えたホモ・サピエンス

 称号:黒の双槍を鍛えし鍛冶職人

 ジョブ・レベル:召喚術士・レベル   54

         鍛冶上級職人・レベル 51

  体力     1394       物理攻撃力   484

  魔力        1(固定値)  物理防御力   446

  俊敏性     291       魔法攻撃力   648

  巧緻性(こうちせい)    4189       魔法防御力   847

  カリスマ性  2828

 生得スキル

  〇アイテムケンテイナー

 〇無属性魔法

 ジョブスキル

  〇召喚無属性魔法:エクスティンクション

  〇思念会話

  〇神獣召喚(しんじゅうしょうかん)

  〇整形の妙技(みょうぎ)

 特異スキル

  〇学び


 『ジョブスキルに神獣召喚があるか』

 「ある」

 『あるならよい、次だ。カミューの住む洞窟(どうくつ)の入口を示すページを開け、地図だ』

 ダイチは、(あわ)ててそのページを開いた。

 『現在地と最短ルートの方向、カミューの住む洞窟の位置、その3つを頭に叩き込め』

 「・・・・」

ダイチは地図を写真のように脳に記憶する。

 クローの地図は、しだいにぼやけてきた。

 『クイーンベヒーモスは、2時の方角、32m先にある岩の切れ目から洞窟に入って行った。アイ・・生存は・・不明・・だ・・・』

 「ク、クロー、クロー・・・」

 クローに描かれた地図は消えた。

 クローを閉じて、

 「クロー、ありがとう・・・ここから先は、俺1人でやる。

 アイを助け出し、カミュー様に(まばゆ)いばかりに(かがや)く白石をカミュー様へ届ける。

 3日後の再会を楽しみに待っていろよ」

 ダイチは、地面に落ちていたアイの剣を拾いアイテムケンテイナーへ、クローを革製の肩掛け(かばん)へ入れた。 


 「この洞窟だな」

 ダイチは、クローから聞いた岩の切れ目の前に立っていた。洞窟へと続く入口は、大きな岩で塞がれていた。

 これを見たダイチは、希望が()いてきた。

 「クイーンベヒーモスは、アイが逃げない様に洞窟の入口を(ふさ)いだ可能性がある。これで、アイは、まだ生きている可能性が高まった」

 ダイチは、アイテムケンテイナーから着替えの服を取り出し、その服でぐるぐると何かを(つつ)んだ。それを左手に(かか)えた。ダイチは、入口を塞ぐ岩に目をやった。

 ゾーブ

   「エクスティンクション」

 入口を塞ぐ岩に穴ができた。

 ダイチは、右手に黒の双槍十文字を持ち、そこから洞窟内へと足を踏み入れて行った。

 入口からは、(ゆる)い下り坂となっていた。入口こそ濃い白い霧から()れる光で、(ほの)かな明るさがあったが、30m程進むと闇の世界へと変わった。ダイチは、足音を忍ばせ、手探りで前へ進んだ。洞窟の壁からは、大小の岩が不規則に突き出し行く手を阻み、手の感覚だけが頼りとなっていた。

 ダイチのつま先が小石を(はじ)いた。カツン、カン、カンと洞窟内に音が響く。ダイチは身を()せて黒の双槍十文字を構える。

 ・・・・クイーンベヒーモスは、夜目が利く。見つかれば雷魔法で瞬殺(しゅんさつ)だ。心の中でそう考えると、ダイチは、背中に冷たいものが(したた)り落ちるのを感じた。

 グルルルル、グルルルルと(うな)り声が聞こえてきた。

 ダイチは、闇の中に身を伏せて、感覚の全てを耳に集中した。ゴクッと(つば)をのみ込む。

 グルルルル、グルルルルと規則的な唸り声だ。

 あれはクイーンベヒーモスの寝息だ、ダイチは唸り声の正体を理解した。しかし、洞窟の中で音が反響して、正確な方角は分からない。

 闇の洞窟を、ダイチは耳を澄ませ、足を忍ばせながら1歩1歩ゆっくりと前進した。

 闇の中で、ダイチの鼓動(こどう)は高鳴り、()()まされた五感には、自身の呼吸音さえ気になっていた。

 グルルルル、グルルルル。

 およそ30m先だな。ダイチは闇の中で立ち止まり、クイーンベヒーモスの位置を確認しながら、足を前に出した。ダイチのつま先が、何かに()れた。ダイチは驚き足を引っ込める。

 闇の中で(かが)み、そっと手を伸ばす。布地と(やわ)らかく温かい(はだ)感触(かんしょく)が、手に伝わってきた。

 グルルルル、グルルルル。

 ダイチは、槍を脇に置くと、手探りでそれに触れていく。

 「アイか・・・アイなのか・・・」

ダイチが、それを()する。

 「う、うぅ・・・」

 グルルルル、グルルルル。

 「アイなのか・・・」

 「う・・・ダイチ様なのですか」

 「しーっ、静かに・・・しーっ。・・・落ち着いて」

 「・・・ダイチ様」

アイは、ダイチの胸にしがみ付いた。ダイチは手をアイの背に回し、抱きしめた。

 「アイ、良く聞いてくれ・・・音を立てない様に・・・さあ、立てるかい」

ダイチは、静かにアイの体を離した。

 「はい」

アイは、(かす)かに聞こえる程の声で答えると、ゆっくりと立ち上がった。

 ダイチは槍を手に取ると、闇の中で注意深く耳を()ませた。

 「・・・・・寝息が聞こえない」

 ダイチが咄嗟(とっさ)に振り向くと、数メートル先の高さ5m程のところに、(あわ)い水色の光を放つ2つの眼が、こちらを(にら)んでいた。

 ダイチは、左手にもった包みの中の物を宙に投げた。包んでいた布が(ほど)ける。布に(つつ)まれていたものは、(まばゆ)いばかりに(かがや)く白石だった。

 強烈な光が、昼間の太陽の様に洞窟を()らす。

 グゴァァァァァア、クイーンベヒーモスは、(すさ)まじい叫び声を上げ、両腕で目を(おお)った。

 ダイチは目を瞑ったまま、アイを()きかかえる様にしてその場に()せる。

  大玉

   「エクスティンクション」

 同時に、クイーンベヒーモスの尻尾がブーンと(うな)りを上げて、ダイチの背をかすめ(とな)りの岩を(くだ)いた。

 ズズズーンと、クイーンベヒーモスの巨体が倒れ、洞窟内に振動(しんどう)と重低音が伝わった。

 ダイチは、ゆっくりと上体を起こすと、クイーンベヒーモスを確認する。胸から上が(えぐ)られて消えていた。

 「ダイチ様、ありがとうございます」

 「怪我はないか」

 抱き着いたままのアイが、首をコクリと(たて)に振った。

 「良かった・・・怖かっただろう」

ダイチは、アイの後頭部を優しく()でた。手にポニーテールの感触が伝わってきた。

 「私は、気を失っていたので、気が付いたらダイチ様が目の前にいました」

 「あははは、それは好都合だ」

 「ここはどこなのですか」

 「クイーンベヒーモスのねぐらだ」

 「まさか・・・ダイチ様は、命の危険を(おか)して、私を助けに来てくださったのですか」

 「アイは、無事だった。それが全てだ」

 ダイチを抱きしめるアイの腕に力が入る。

 「もう、無理はしないでください・・・私は、幸せ者です」

 「・・・・・」

 「・・・私は、全ての記憶を取り戻しました。ダイチ様と出会ったハーミゼ高原の事も」

 「え、ハーミゼ高原での出会い・・・その藤色の髪・・・まさか、岩陰に(かく)れた俺に、剣先を向けたのは、アイだったか」

 「はい。人とオークとの戦争が始まろうとしていたので、私たちの住む楽園から偵察(ていさつ)に来ていました」

 ダイチは、苦笑いして(うなず)いた。

 「さあ、アイ・・・俺と一緒に、カミュー様にその(まばゆ)いばかりに(かがや)く石を届けに行こう」

 「はい」

アイは、深く深呼吸をすると、立ち上がった。

 ダイチは、アイテムケンテイナーから剣を取り出しアイへ渡した。そして、眩いばかりに輝く白石を松明(たいまつ)代わりに持って、出口へと2人で向かって行った。

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