11 白の世界
少し歩くと白いもやが出てきた。50m先には濃い霧が立ち込めていて、薄っすらと樹の影が見えた。ダイチは、この白い世界を見て背筋に冷たいものが走る。
「これが霧の森か。キリセクレ山の麓はすぐそこだ。アイ、霧の森を一気に抜けるぞ」
アイは、真剣な面持ちで頷いた。
血気に逸るダイチであったが、深く呼吸をして肩の力を抜く。
「いや、ここの魔物はとても強いと言っていた。まずは腹ごしらえをしよう」
ダイチは、空を見ると白いもやを通して太陽の光がぼやけて見えた。まだ高い位置にある。
「相次ぐ戦闘で、時刻はよく分からないが、まだ正午位だ。昼飯には丁度良い時刻だな」
「はい、そう言われてみれば、私もお腹が減っています」
ダイチは、その場に座り込み、アイと一緒にベグルを食べながら、地図を開いた。
「この森の深さは5、6㎞いったところか。順調なら2時間。戦闘は可能な限り避けたい。なんとしても日没前には通り抜けるぞ」
「ダイチ様、濃い霧の中で、魔物との遭遇は非常に危険となります。慎重に進みましょう」
ダイチは、手に持っていた食べかけのベグルを口に放り込み、
「クロー、霧の森を抜けるために、最も重視すべきことを示せ」
「霧の森を抜けるために最も重視すべきことを示す」
赤い棘のある植物の茂に囲まれた大樹を探せ
「やはりそれが先なのか。あと5、6時間で夕暮れだ。それまでに、この森を抜けることができないということか。この森で野宿はしたくない。予定変更だ。アイ、まずは赤い棘のある植物の茂に囲まれた大樹を探そう」
ダイチは、密林や濃い霧の森は方向を見失い、真っ直ぐ歩いているつもりでも、大きな円を描いていて元に戻ってしまうと聞いたことがあった。その対策として用意した500m巻きの麻糸の束をアイテムケンテイナーから取り出した。
「まずは、この入口の樹に麻糸を結んで・・これでよし。アイは俺から離れない様について来てくれ。コースは森に入る前に確認したこの方向へ一直線に進むだけだ」
「それなら、ダイチ様の腰を、別の紐で結んでください。そこから伸びた紐を私が握っています」
「分かった」
アイは、ダイチの腰から伸びた3m程の紐を掌に巻いた。
ダイチは、麻糸を巻いたボビンの中央部分にある筒状の穴に枝をさして左手に持った。ダイチは歩くたびにボビンがカラカラと音を立てることが気になった。魔物にこちらの位置を知らせているのではないかと不安が過る。ボビンからの音は、濃い霧の中に吸い込まれていった。
「この霧の濃さは予想以上だ。10m先は殆ど見えない白の世界だ」
ダイチは、右手に黒の双槍十文字を持ち、用心しながら歩みを進めた。カラカラという音だけが耳を刺激する。
森は樹の幹が所々に見えるだけで、その上に広がっているのであろう枝や葉は僅かしか視認できない。足元に草は生えていないため、歩くことに支障はなかった。
「棘のある赤い植物の茂か、これを探すのは一苦労だ」
その時、麻紐がピンという感触を残して切れた。ダイチは、左手の麻糸を捨て、黒の双槍十文字を構えた。
「今の感触は、麻糸に何かが振れて、切れたに違いない。アイ、何か来るぞ」
槍を構えたまま、白い世界の中で耳を頼りに様子を探った。
トン、トン、トンと、後方から跳ねる音が近づいて来る。振り向きざまに、槍を構えた。跳ねる音とともに黒い影が上下に揺れながら近づいて来る。ゴクッと唾を飲む。
黒い影は一跳躍でダイチに体当たりしてきた。咄嗟に黒の双槍十文字の柄で防御したものの、体ごと後ろへ突き飛ばされた。数回転して背から樹の幹に当たった。アイも草むらに転がった。
「うっ・・・ダイチ様、大丈夫ですか。ダイチ様・・・」
ぐっ、ダイチは、幹の根元に倒れたまま呼吸ができない。声もでない。息苦しさと恐怖だけが襲っている。
また、一跳躍。ダイチは転がるようにしてこれを躱す。ダイチがいた樹に激突しドンと音がする。樹がガサガサと揺れる。
ダイチの呼吸がようやく再開した。
黒い影の正体は、乗用車くらいの大きさで頭から上に伸びた2つの耳が可愛らしい白兎の魔物だった。口には2本の大きな牙があった。
「こいつは明らかに肉食だな。キバウサギめ」
魔物は一跳躍した、巨体が迫る。
ゾーブ
「エクスティンクション」
9
魔物は耳の先だけ残して消える。
8
ダイチは、ダメージの残る体を樹の幹に背中をあずけ、双槍十文字の石突を地につけて立ち上がろうとする。
7
ふらつきながらも立ち上がる。
6
シャーと、威嚇音を立てながら黒い影が樹の上からダイチに襲い掛かる。
5
アイが跳躍したまま、剣を横に撫で斬る。
4
魔物の上顎から頭部を切断する。
3
ダイチは一瞬よろめいたが、両足で大地を踏みしめる。
頭部を切断された魔物は足元にドサッと、重量感のある音を立てて落ちる。
2
緑色の光沢があり、首に扇形の襟巻が付いていた体長は7、8mの蛇の魔物だ。
1
頭を切断された魔物はまだ体をくねらせていた。
0
「アイ、助かった」
「お怪我はありませんか」
ダイチたちは、キバウサギの体当たりで跳ね飛ばされ回転したため、方向を見失ってしまった。
「まずい、進行方向はどっちだ」
辺りを見回しても、視界10mの白い世界である。周囲を回ってみると、麻糸のついたボビンが転がっていた。
「こ、これだ」
ダイチはボビンを持ち上げると、そこには垂れ下がる麻糸の1本の筋が見えた。向かうべき方向が確認できると、アイテムケンテイナーから新しいボビン付きの麻糸の束を出し、近くの幹に結び付けた。そして、進行方向へと歩み始めた。
「先ずは赤い茂を見つける。俺は右、アイは左を注意していてくれ」
ダイチはアイに指示した。
ズシン、ズシン、ズシンと、微かに地響きが伝わってきた。
「この地響き、まずい相手だ」
「足の裏に振動が伝わってきます」
ズシン、ズシン、近づいて来る。
ダイチたちは、近くの太い幹に身を隠して息を潜める。アイは剣を抜く。
ドシン、ドシン、ドシン、地響きが大きくなってくる。
息を殺し、幹に体が重なるようにして気配を消す。
ドゴン、ドゴン、ドゴン、バキバキ、ドゴン、
ダイチは、背中に冷たい汗がつーと、落ちるのを感じている。
ズシン、ズシン、ズシン、徐々に地響きは小さくなり、遠ざかっていくのが分かった。2人は、樹の幹に体を預けたまま、急に自分の体の力が抜けていくことが分かった。
ダイチは深く息を吐くと白の世界を歩き出した。
10m先に茂みらしき影を見つけた。
「赤い棘のある茂か」
濃い霧のため、うっすらとした輪郭しか見えない。走りよると緑と茶色の茂だった。
「違ったか。やっと見つけたと思ったのにな」
ブーン、ブブーンと、音がその茂から聞こえる。どこかで聞いたことのある音だと考えていると、カチカチカチという音も加わった。
「まずい。アイ、逃げるぞ」
ダイチは、その音と反対方向へ走り出した。アイも脇を走る。
「最初に聞こえたのは羽音だ。カチカチは、顎を鳴らす威嚇音だ」
スズメバチの攻撃前の行動を思い出した。ブーン、ブーンと無数の羽音が、後を追って来る。
「追いつかれるぞ」
ダイチは振り返り、1匹のスズメバチの魔物を見た。体長は10㎝位で赤茶色の体に黒い縦じまが付いている。そのすぐ後ろにも何匹か見えた。距離はおよそ6m。
「あんなにでかいスズメバチって反則だろう。刺されたら終わりだ。アイ、何があっても走れ」
追って来るスズメバチの魔物の群れに、エクスティンクションを撃とうとした。
ゾーブ
「エクス・・」
その瞬間、ブブォォと、前方から凄まじい叫び声がした。
「前方の霧の中に魔物がいる」
10m程の視界しかない霧の中で、薄っすらと黒い影が見える。
徐々にはっきりと見えてくる。黒い影は3、4mの巨体だ。2本足で直立している。太い腕で長い曲刀を持ち、肩からは曲がった角が生え、全身が黒く、額には2本の角が伸び、口から牙を剥き出している。目は吊り上がり、白目の部分が赤く黄色と黒の瞳でこちらを捉えている。
「あれはきっとオーガだ。俺が倒す。走り抜けろ」
ダイチが、アイを見て叫んだ。
ゾーブ
「エクスティンクション」
オーガの頭の内部1点にダークエネルギーを召喚する。
反発エネルギーであり負の圧力を持つダークエネルギーは、一瞬にして1点から膨張し、効果範囲をイメージしたゾーブの直径3mの球が空間をゆがめてその存在を示した瞬間に、頭の内部1点へ向かって収縮し消滅した。
効果範囲内のものは全て消滅していた。
9
オーガの上半身は消滅し、曲刀の剣先だけが宙に留まっている。
8
オーガの下半身の左側をすり抜ける。曲刀の剣先が足元に落下してくる。
7
オオスズメバチの羽音は、頭のすぐ後ろだ。
6
ダイチの左肩に激痛が走る。
「刺された」
「ダイチ様・・・」
激痛でバランスを崩す。
5
そのまま前のめりに転倒する。
4
ドボーン、ドボーン、ゴボゴボと音がする。
3
黒の双槍十文字を強く握りしめる。ダイチは水の中にいる事を自覚する。
2
必死でもがく。
隣ではアイが水面に向かって泳いでいる。
1
水中の底から黒い魚影が近づいてくる。
魚の様に泳いでいるが大きい。
0 サッカーボール
「エクスティンクション」
黒い魚影の上顎から目の辺りまで消がえる。ダイチは明るく光る水面を目指し泳いだ。
水面から顔を出し、一呼吸する。アイと目があった。
岸の方向を確認すると、ダイチは親指を下に向け、アイに合図してからまた水中に潜った。水中に漂う、頭の上部が消失した魔物とすれ違う。カジキマグロ、いや口が鋭く前に突き出た水棲の恐竜に似ていた。
ダイチとアイは、水面から顔を出す。
「・・・蜂の羽音は聞こえない」
「・・・ええ、大丈夫そうですね」
水面から岸に上がると、ダイチの左肩に激痛が走った。全身に痺れを感じ始めている。
「ダイチ様は、蜂に刺されていたのですね。早く治療をしなくては」
「ミリアさんからいただいた毒消し薬がある・・・それを使う」
ダイチは、アイテムケンテイナーから革製の肩掛け鞄を取り出し、鞄の中から毒消し薬を3本取り出した。アイは毒消し薬を1本受け取ると、ダイチにゆっくりと飲ませた。
「さあ、私の肩をお使いください」
アイは、ダイチの腕を自分の肩に回して、アイが双槍の十文字を右手に持って、白い霧の世界を歩き始めた。
ダイチは、徐々に痺れていく体で、ゆっくりと足を前に進めた。
「ダイチ様、しっかりしてください。ハァ、ハァ、必ず赤い棘のある茂を探し出します」
ダイチは、アイの呼吸が、荒くなっていることに気づいた。
「ハァ、ハァ、・・・アイ、お前も蜂に刺されて・・・いたのか」
「・・・・ハァ、ハァ、大丈夫です。ルカの民は、毒に耐性があります」
「気づかずにいて・・すまない。この毒消し薬を・・・飲んでほしい」
ダイチはそう言って、1本の瓶をアイに手渡す。
「・・ハァ、ハァ、これはダイチ様が、後ほどお使いください」
「だめだ。これは・・・アイが飲め」
「でも・・」
「ハァ、ハァ、今、アイが倒れたら、2人とも死ぬ」
「・・・はい」
アイが、毒消し薬を飲む。
「飲みました・・・・ダイチ様、ダイチ様・・」
ダイチは、意識を失っていた。アイの全身もしびれていく。
「・・ハァ、ハァ、赤い棘の茂みを見つけなければ・・ハァ、ハァ」
やがて、アイもその場に崩れ落ちた。
「・・・ダイチ様・・・」
アイは上体を起こすと、ダイチの手を握り、体を引き寄せる。這うようにして地面を進むと、またダイチの体を引き寄せては進んだ。
地を這うアイの頭と首筋に、鋭い痛みが走る。
「痛」
アイは、指で首筋を抑えると、指先に血がにじんでいた。霞む目には、赤い蔓と棘がぼやけて見えた。
「・・・こ、これは棘のある赤い植物の茂」
痺れる手で、皮のコートのフードをダイチに被り直させ、這いながら棘のある赤い蔓の茂へと入って行った。
アイは、黒の双槍十文字を頭の前に構えて、棘の蔓を掃いながら少しずつ這って前進しては、ダイチを引き寄せた。
「うっ・・」
鋭い棘が刺さっても、今のアイの体には、もう鈍い痛みとしか感じられなくなっていた。
体中に棘が刺さる。ダイチの革製のフードが、棘に引っかかり徐々に脱げていく。その度に、アイは、ダイチにフードを被せ直した。
「ダイチ様、もう少しです。死んではいけません・・・嫌です。死なないで」
アイは、這いながら進んでは、ダイチを引き寄せる。それを、ただ繰り返した。
やっと、棘のある赤い蔓の茂を抜けると、見たこともない太い幹が見えた。アイは、その大樹を見上げるたが、霧で上部は見えない。幹の直径は20m位だろうか。
アイは、痺れる体で、よろよろと立ち上がって幹のうろを探した。既に目がぼやけ、音も感じなくなっている。
幹の根元に大きなコブあり、その陰にうろが見えた。朦朧としていく意識の中で安堵した。アイは、ダイチをうろの中へと運んだ。
大樹のうろは、淡い白い光を放って、2人を仄かに照らしている。
アイは、うろの内側に体を預け、正座をくずした様な姿勢で座った。ダイチの頭を腿の上にのせると、ダイチのポケットから最後の毒消し薬を手に取った。ダイチの顔にそっと手を置いて、ダイチの顔を覗き込む。
「ダ、ダイチ様、ダイチ様・・・・」
ダイチからは反応がなかった。
アイは毒消し薬の瓶をダイチの口に当てた。ダイチの頬に毒消し薬が滴り落ちる。
「ダイチ様・・・・死なないで、ダイチ様」
アイは、毒消し薬を口に含むと、唇をダイチの唇に当て、流し込んだ。アイは、もう一度薬を口に含み、ダイチの唇に当てた。
アイ自身も毒で全身が麻痺していた。手に持っていた瓶が滑り落ち、そのままダイチの胸の上に倒れ込んだ。
アイは、薄れゆく意識の中で、ダイチの鼓動だけを感じていた。
「・・・ダイチ様・・・生きて・・」
うろの中に静寂が訪れた。
ダイチは、夢虚ろな意識の中で、遠くに響く魔物たちの雄叫びや絶叫を聴いた。
「魔物同士が戦っているのか・・・」
ダイチは、微かに目を開けると、覆いかぶさるようにしてアイが倒れていた。ダイチは上半身を起こして、アイを抱きかかえた。
「アイ、アイ、しっかりしろ・・・アイ」
アイの瞼が動き、ゆっくりと目を開いた。
「ダイチ様・・・よ、良かった・・・意識をとり・・・」
「アイ」
微笑むアイの衣服は、あちこちが破れ、無数の傷で血が滲んでいた。
「俺のために・・・アイ、ありがとう」
ダイチは、ポーションを取り出すと、アイの唇に瓶の口を当てた。
「・・・ありがとう・・ございます・・」
「ゆっくり飲んで・・・アイ、ありがとう、ありがとう・・・こんなにまでなって・・」
ダイチは、アイをきつく抱きしめて、何度も耳元で叫んだ。
「ダイチ様から、アイと呼ばれるだけで嬉しいです」
「この先も、何度でも、アイと呼ぶよ」
「嬉しい・・・」
「アイ、今は、ゆっくり休みなさい」
「ダイチ様もお眠りください」
ダイチは、アイを抱きかかえ、そのまま意識を失ったかの様に深い眠りについた。
ダイチは、遠くに聞こえる魔物たちの雄叫びで目を覚ました。アイは腕の中でまだ目を瞑っている。
ダイチは、うろの中を見渡した。幅5m、高さは確認できない程高い。この大樹が淡い白い光を放っているため、うろの中は仄かに明るい。
「ダイチ様・・・おはようございます」
ダイチの腕の中でアイが目を開けた。
「アイ、体調はどうだ」
「ダイチ様は、いかがですか」
アイは上半身を起こした。
「アイ、いつも自分の事は後回しだな。体調はどうなのだ」
「はい、体にもう痺れはありません」
アイはダイチの唇を見て、恥ずかしくなって視線を下に落とした。
「アイ、どうした。どこか悪いのか」
「いえ、何でもありません」
アイは頬を赤らめて答えた。
「俺たちは、どれ位寝ていたのだ。今日は一体何日だ」
慌ててクローを取り出し、ページをめくる。
「現在の月日と時間を示す」
7月7日 午前1時16分
「お干支祭の当日じゃないか。俺たちは、丸1日半も寝ていたのか。ぐずぐずしていられない」
「こうしてはいられませんね。急いでカミュー様に会わなければ・・・」
アイテムケンテイナーから水と食料、革製の肩掛け鞄を取り出すと、アイに水を渡した。アイは、美味しそうに水を飲む。
「乾いた体に水が沁み込んでいくようです」
「アイ、サラーミンとベグルもある」
「いただきます」
ダイチは、サラーミンを口に頬張り、ベグルにかぶりつき、それを水で流し込む。
クローを捲り地図のページを出す。
「カミュー様の住む洞窟の入口を示す」
◎印のところである。
▲印が現在位置と向きである。
「地図が前より詳細になっているな。俺のレベルに関係しているのか・・・現在地と俺の体の向きも▲印の位置と方向で確認できる。ここから最短で森を抜けても北へ4㎞か」
今も遠くで夜行性の魔物が、雄叫びや絶叫のような声を上げている。
ダイチは、その声を聞きながら、「この霧の森の魔物はとても強い。それに夜行性の魔物となるとその強さは更に上だろう。ましてや外は漆黒の闇、視覚を奪われた状態では、勝算は限りなく低い。それに、アイの体にこれ以上の負担はかけたくない。
しかし、朝を待っての出発となると、間に合わない可能性もある」などと考えを巡らせていた。
「ダイチ様、私の体は、大丈夫です。ドリアド地方を飢饉から救いましょう。2人でカミュー様に、眩いばかりに輝く白石を届けましょう」
「アイ、ありがとう。カミュー様に白石を届けよう」
ダイチもアイも、朝を待たずに夜間突破を強行する決意をした。
「クロー、聞こえているだろう。俺たちは、カミュー様に白石を届けるために出発する。俺のパートナーであるクローから、アドバイスがあれば教えてほしい」
クローのページが独りでにパラパラ捲れていき、止まった。
「クロー、これは・・・・」
「黒の神書との会話」
思念会話で可能である。
「クロー、お前と話せるのか。でも思念会話ってなんだ。思念会話とはなにかを示せ」
「思念会話とは何か」
特定の神獣との非音声による会話である。
「クロー、お前のアドバイスを音声で聞くことができるのか。思念会話にしてくれ」
ダイチは、クローを両手で持って、表紙に語り掛けた。
『ダイチ、私は黒の神書クローだ。思念会話は、心に思い浮かべることで会話ができる』
「クロー、聞こえるよ、お前の声が心の中に響く。ずっと傍にいてくれたのに、俺の独り言ばかりで、寂しかった・・・嬉しいよ」
クローがピクピクと振動する。
「クロー、俺たちは、これから夜の霧の森を突破する。一緒に戦ってくれ」
『全て分かっている。その前に言っておく、私との思念会話は、6時間だ。その時間の経過後は、私は72時間の完全休眠状態となる。覚えておけ』
「え、3日間もクローに尋ねられなくなるということか。デメリットも大きいな」
『思念会話は、負担が大きい。ダイチの召喚術士のレベルが上がれば、改善は見込める』
ダイチは頷く。
『それでは、アドバイスだ。思念会話によって、私の持つ能力をリアルタイムで生かすことが可能だ』
「リアルタイムにアドバイスを受けられるのだな。素晴らしい。そのクローの能力とはどの様なものなのだ」
『完全感知だ。私を中心とした半径30mの球体内を完全感知することができる。私のレベルが上がれば、完全感知範囲も伸びる。これを生かせ』
「それはすごい能力だ。闇や霧の中でも完全察知できるのか。これなら漆黒の闇や白い霧の世界でも勝算が出てきた」
アイは、クローに話しかけたかと思ったら、急に黙り込んでクローを見つめ、喜んでいるダイチを楽しそうに眺めている。
「ダイチ様、クロー様との間で、何か特別なことが起こったのですね」
「あぁ、素晴らしいことだ。俺は今、クローと心の中で会話している」
「それは、凄い事ですね」
「アイは、それを疑わないのだな」
「ダイチ様の言う事ですから」
「クローが、完全感知能力で敵の位置を、俺に教えてくれる。これで勝算ができた」
アイは、クローに視線を落とし、
「クロー様、よろしくお願いします」
と、微笑んだ。
ダイチは、革製の肩掛け鞄の中からポーションと毒消し薬を取り出すと、代わりにクローを入れて、肩にかけた。ポーションは、左右のポケットに1本ずつ入れた。残りのポーション2本と毒消薬1本はアイテムケンテイナーへしまった。
ダイチは黒の双槍十文字を右手に握りしめ、力強く立ち上がった。




