神城朝水の家に二度目のお邪魔をした
休憩入れて7時間で着く計算だったが、葛が法定速度よりちょっぴり速いスピードで飛ばしてくれたせいで早めに着いた。まずは「泰山の湯」にチェックイン。部屋は和洋室ツインでなかなか広い。
「よし、明日香のカノジョのところに挨拶に行くか」
「ちょっと休憩させてくれよ。葛も疲れてるだろ」
「プロアスリートの体力なめんなよ?」
あたしはプロアスリートじゃねえんだけど。
ただ、アサが待ちくたびれてるだろうから荷物を置いて顔出しすることにした。アサの実家である「喫茶軽食 EN」までは歩いて10分もかからないところにあるから、そのまま徒歩で向かった。営業中の看板が出ているが駐車場には一台も車が停まっていない。そのまま正面から入っていった。
「おじゃましま」「あすかあああ!!」
ドアを開けた途端、体全身に衝撃を食らった。神城朝水にタックルをかまされたのだ。
「今か今かと待ってたんだぞ!」
「ちょ、痛てぇ痛てぇ! いったん離せ!」
ハグというか、ヘビが獲物に巻き付いて体を締め上げてるようだ。こいつは加減というものを知らないのか。
「この子がカノジョ? 熱いねぇ」
「お、おう。神城朝水ってんだ。ほらアサ、あたしの兄貴の葛だ。挨拶しな」
「ふーん……全身真っ赤じゃないか。なかなかおかしな格好しているな」
「おまっ……」
葛は赤いジャケットとスラックスを着ていてかなり派手だが、アサはいつものように半袖Tシャツ、しかもなんとでかでかとウ◯コマークが描かれているものだ。どちらがマシな格好か明白だろう。
「だははは! 面白い子だな! 俺は神城葛。もうすぐ日本サッカー界を背負って立つ男になる。よろしくな!」
「サッカー?」
「実は葛はプロサッカー選手なんだ。しかもJ1チームでプレーしてる」
「サッカーは全然知らん」
「お前なあ、もうちょい言い方に気ぃ使えよ」
あたしが苦言を呈していると、葛はまた笑った。
「じゃ、俺のことしっかり覚えて帰ろうな!」
「ボクの家はここだぞ」
アサがめずらしくツッコミ側に入った。
「朝水、いい加減に中に入れてあげなさい」
アサの父親、板野圭人さんだ。
「む、君。上から下まで真っ赤でなかなか面白い格好をしているな」
「赤は闘争心を掻き立てる色っスから。俺は闘争心の塊っスよ! おじさんもそのデニムのエプロン、すっげー似合ってますよ!」
「そうか? ま、児島で作られたデニムだからな」
板野さん、めっちゃ照れてる。
「とにかく、長旅ご苦労さまだったな。貰い物だが、良いお菓子が手に入ったから出そう」
朝水と一緒に一番奥のテーブル席に案内されると、しばらくしてコーヒーとともにサンドクッキーが出された。
「それぞれ岡山三大フルーツの桃、シャインマスカット、ピオーネを練り込んだクリームを使っている」
「まさしくザ・岡山のお菓子っスね。いただきます!」
桃色のクリームからいただく。ザクッとした歯ざわりの後に広がるほのかな桃の味。
「ん~、こりゃ美味しい!」
「明日香、明日香」
アサが口にサンドクッキーをくわえ、あたしに突き出してきた。
「何してんだ?」
「サンドクッキーゲームしよう。そのまま端から食べたまえよ」
「おま、サンドクッキーでポ◯キーゲームなんかできるか! 距離が全然ねぇだろ!」
「ゼロ距離になっても構わない仲になっただろう?」
「兄貴とお前の親の前でできるか!」
「何を恥じることがある! さあさあ!」
「フツーに食えっ!」
葛にギャハハハと笑われる。
「いいわーこのやり取り! ホント、いいカノジョさんだな!」
「いやー、疲れるぜ?」
「そんぐらいがちょうどいいのよ。ちょっと変わった子の方が刺激的で飽きないもんよ」
ちょっとどころじゃねーけどなあ。
チリンチリン、とドアベルが鳴った。お客様が来たみたいだ。
「いらっしゃ……ワタ婆さま!?」
板野さんが声を裏返らせた。
杖をついた老人……ワタ婆さんがいた。しかもお付きのマダガスカルなまことヤチヨさんまで。
「おお、やはり来ておったか小倉明日香よ」
「ご無沙汰してます……」
「明日香、誰だよこのシワクチャばあさん」
葛がノンデリ発言をぶちかました瞬間、ワタ婆さんは杖で床を小突いた。すると葛の持っていてたサンドクッキーがいきなりパァン! と爆ぜた。
「うわあっ!」
「いつの時代も若いもんは口の効き方がなっとらんのう」
「なっ、何が起きたんだ……?」
フヒヒヒヒ、と不気味な笑い声を立てる婆さん。杖であたしを指した。
「小倉明日香と話がしたい。他はちと席を外してくれんかの」
「ば、婆さま? 明日香に何の用で……?」
アサが青ざめている。明らかにビビっている。
「なぁに、この前の占いのことをちょっと話すだけぢゃ。あと圭人よ、コーヒー淹れとくれ」
暖かい空気が一気に冷え込んでしまった。




