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また輝かしい明日の朝がやってくる  作者: 藤田大腸


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22/23

神城朝水があたしに……

「…………なっ、なななななっ、なああにやってんだああてめえぇぇぇぇぇ!!??」

「人という字を飲むと緊張が取れるのだろう? だから飲んでやったのだ」


 ニヤリと笑いながら舌なめずりするアサ。


「ばっ、ばばばばばっバッキャロー!! てめぇが飲んでどーすんだっ!! あたしが飲むんだよっ!!」


 アサのせいで頭ん中が真っ白けだ。顔は逆に真っ赤っ赤だろう。顔から火が出るという思いを今、嫌と言うほど味わっている。


「やっぱ噂通りだな……」


 相磯さんがボソッとつぶやいた。


「星花女子の生徒はスキンシップが濃密だって聞いてたけど、すごいなあ……」

「い、いやっ、これはこいつが特殊なだけっスから!」

「本当? 生徒どうしでつきあってる子も多いって聞くけど、二人は実は……じゃないの?」

「あっ、いやっ、その……」


 何か、心臓がやべえことになってる。ちょっと落ち着けよ小倉明日香。アサとは恋人どうしにならなきゃいけないんだろ? だったらちゃんと受け入れないと……って頭でわかっててもいきなり不意打ちでペロッはねえだろ! 耳ハム事件のときもそうだったけどさ……


 運営スタッフが控室に入ってきた。


海谷高専(うみがやこうせん)の演奏が終わりました」

「よしっ、じゃあ大洋高校軽音楽部with星花女子学園、大トリ行くよ!」


 おおーっ、と気勢を上げる相磯さん以下水産加工業たち。頬を触るとアサの唾液がしっかりと粘りついている。耳ハム事件のときよりも生々しすぎる感触が。あたしは思考回路はもうまともに働かない。


 だが不思議なことに、胃を締め上げられるような感覚もなくなっていた。もしかして恥ずかしさが緊張感を中和してくれているのか……?


 セッティングしているときはほとんど無意識状態だった。そしたらいつの間にか曲が始まっていて、いつの間にかドラムを叩き出していたって感じだった。ボーカルの子が歌っているのは聞こえているけど脳に全然入ってこない。ギターも相磯さんのベースも聞こえてはいるのに同じく脳に入ってこなくて、それなのに体が勝手に反応してスティックを振っている感じだった。


 立ち位置はお客さん側から見て真ん中がボーカル、右手がギターで左手にベースの相磯さん。相磯さんの真後ろにドラムのあたし、ギターの後ろにキーボードのアサ。なぜかみんなの動きがスローに見える。


 全く持って不思議な経験だが、これってもしかして「ゾーンに入る」ってやつなのだろうか……


 ちらりと横目でアサを見続ける。手の動き一つ一つが美しかった。それなのに顔は真剣味を帯びた鋭い目つきで……それを見たあたしは言葉でどう表現していいのかわかんねえ、大きな感情をアサに抱きつつあるのがわかった。


「……次が最後の曲です。地元海谷市の民謡『海谷大漁節』をアレンジしました! 私たち自信の一曲を聴いてください!」


 ボーカルが叫ぶ。いつの間に2曲終わってしまったんだ?


 海谷大漁節は、大漁を祝うために漁師が太鼓を叩くというシチュエーションで始まる。太鼓の役割を果たすのはバスドラム。つまり、曲を始めるのはあたしだ。


 頭で考えるより先にフットペダルを踏んでいた。


――トンットットッ、トンットットッ……


 続いてアサが鍵盤を押し、漁船の汽笛を重ねる。


――プォーッ、プォーッ……


 あたしとアサで会場を漁港の雰囲気に作り変えたところで、あたしは叫んだ。




――おっかあ~~! 今日も大漁だったよ~~!




 ベースとギターの重厚な旋律が加わる。あたしはビートを刻み、アサは汽笛を鳴らし、ボーカルが高らかに歌い上げる。



 ハァ 港よ 母なる海よ

 波を蹴立てて 船はゆく

 男の歌声 高らかに


 ハァ エンヤーコーラードッコイショ

 エンヤーコーラードッコイショ


 ハァ 夜明けよ きらめく海よ

 魚を求めて 船はゆく

 ワタツミさまに 見守られ

 

 ハァ エンヤーコーラードッコイショ

 エンヤーコーラードッコイショ


 ハァ 夕陽よ かがやく海よ

 魚をのせて 船はゆく

 今日も大漁 めでたしや

 

 ハァ エンヤーコーラードッコイショ

 エンヤーコーラードッコイショ


 ハァ 港よ 母なる海よ

 夢を抱えて 船はゆく

 雨も嵐も なんのその

 

 ハァ エンヤーコーラードッコイショ

 エンヤーコーラードッコイショ


 


「ほんっっっっとに最高だった!! ありがとう!!」


 演奏が終わった後、相磯さんに泣きながら握手された。あたしはまだ夢心地から抜けきれていなかったが、アサは「これぐらいなんてことはない」とドヤ顔で言った。


「お礼しなきゃいけないんだけど、今からお見舞いに行かなきゃいけないの。後日改めてお礼させてください」

「お見舞い? 入院するほど酷いスか……?」

「いや、家で療養してるよ。二人とも実はきょうだいで、どうもお家で食べたカキに当たったみたいで」

「ああー、カキは当たるとやばいらしいっスね……」

「私もひどい目にあったからわかる」


 大洋高校の生徒はさらっと語った。


「連絡先を交換しましょ」


 相磯さんとLANEのアカウントを教え合い。ボーカルとギターの子とも連絡先を交換した。チャリティーコンサートで緊急登板という思わぬ貴重な体験を得たが、副産物として大洋高校との繋がりもできた。水産加工業スタイルは置いといて、相磯さんはいい人だしまた一緒に演奏したいな。


 市民文化センターから出て海谷駅まで向かう途中、ようやく平静を取り戻したあたしはアサに言った。


「お前のベロの感触がまだほっぺに残ってやがる……」

「どんな気持ちだ?」

「どんなって……」


 何と言えばいいのかわからない生暖かい感触。それだけじゃなく、ピリッとした、チクッと針に刺されたみたいな感覚もあり、それは全然不快じゃなくて、むしろ……


「望むなら、またしてやってもいいが」

「なっ……」


 あたしはまた顔から火が出そうになった。しかし、こいつが恥ずかしいことを口にしたからではなかった。


 こいつ、いたずらっ子みたいな顔つきになっているクセに顔が露骨に赤くなっていたのだ。人をからかうときの態度じゃねえ。


「お、おう、頼むぜ」


 試しにあたしは作り笑いを浮かべて、わざと返事してみた。するとどうだろう、アサは急にあたしの手を掴んできやがった。まさかこいつ公衆の面前で、と一瞬思ったが、あたしを引っ張って走り出した。


 目の前に小さな川があり、駅は向こう岸にある。アサは橋を渡らず、あたしを河川敷の下まで引っ張っていく。


 あれよあれよという間に橋の下にまで連れ込まれた。橋桁を背にして、いわゆる壁ドンの体勢にさせられた。


「あ、アサ……?」

「限界じゃけえ、卒直に言うわ」


 アサは方言を出した。真冬なのに火照った顔にうっすらと汗が浮かんで光っていた。


()()、明日香のことが好きなんじゃああ!!」


 アサも一人称が変わってしまうぐらい感情がグチャグチャになっていた。あたしでもそれぐらいは理解できた。

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