表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/18

これが神城朝水という奴だ

星花女子プロジェクト第15弾はーじまーるよー

「あ~だいぶ寒くなってきやがったな……」


 あたしは冬の季節がやってきたことに憂鬱になっていた。


 クッソ寒いのが苦手なこともあるが、去年は大寒波が来ていつもは降りやしねえ雪がどんどん降ってきて積もりやがって、正門前で足を滑らせて尻もちをついて恥かいたのを思い出したからだ。


 しかも今日から期末テストだし。全くいやんなるねえ。


「せめてスラックス履かしてくれよなあ」


 と愚痴るが、スラックス導入は来年4月まで待たないといけない。まっ、ルールを変えてくれるだけありがたいと思わねえとな。


 正門をくぐると、風紀委員が抜き打ち検査をしていた。


「おいおい、またかよ」


 抜き打ち検査に対してではない。あたしの前で検査を受けている生徒が問題だった。


「貴様、冬と夏の区別もつかんほど感覚が鈍いのか?」


 軍曹の異名を取る名物風紀委員、厄介なことにこの秋から風紀委員長になってしまった須賀野守がツーブロックショートの生徒を問い詰めている。髪の色は金色に染めているが、頭髪に関しちゃゆるゆるだ。


 この生徒――神城朝水(かみしろあさみ)はクッソ寒い中で半袖ブラウスを着ていた。


 しかも注意を受けたの、これで三度目だ。なんでそんなこと知ってるのかって? こいつは同じ軽音楽部のダチだからだ。


 朝水(アサ)はハッハッハー! と高笑いして、こう言い放った。


「心頭滅却すれば火もまた涼し! その逆もまたしかーり!」

「なに?」

「ボクは精神修養のためにあえて半袖を着ているのだよ。それに比べて軍曹、君はスクールコートを着込んでぬくそうな格好して、自称軍人として恥ずかしくないのかッ!」


 一学年上の先輩、しかも軍曹相手になんて口の利き方を! しかも指をさしてる! あたしは背筋が凍り、軍曹は青筋を浮かべた。


「……貴様を抗命罪で軍法会議にかける。引っ立てい!」

「イエス、マム!」

「おい、何をするのかね! やめないかっ!」


 子飼いの風紀委員どもがアサを羽交い締めにした。


「わーっ、ストップストップ!」


 見かねたあたしはすかさず間に割って入る。


「誰だ貴様?」

「1年1組の小倉明日香、こいつと同じ軽音部っす。あたしからよーく言って聞かせるんでコーメイザイ? とかいうのは勘弁してやってください」


 あたしはスクールコートを脱いだ。間の悪いことに北風がビューッと吹いてきて、つい「寒っ!!」と声が出てしまった。


「ほれ、これ着ろ」

「やだね」

「やだね、じゃねえ。ハバネロチップス食わすぞ」

「うっ、それは御免こうむる……」


 アサは急におとなしくなって、スクールコートを着た。軽音部の新入生歓迎会で、ポテトチップスでロシアンルーレットやってアサがハバネロチップスを食らい悶絶したのを思い出した。辛いものが嫌いなアサにとっちゃ名前を聞くだけでもビビるほど、すっかりトラウマになってしまった。あたしも辛いの大嫌いだけど、脅し文句として使う分には問題ないだろう。


「ここはあたしに任せてください」

「よろしい、そこまで言うなら貴様に任せよう。ただし、直らなければ貴様も連帯責任を負ってもらうぞ」

「わかりました。ほれ行くぞ」


 あたしはアサの肩に手を回して、そそくさとその場から去った。


「ったくよー、いつものことだけどハラハラさせんなよ」

「やっぱり返す。なんかムズムズする」


 とか変なこと言って、スクールコートを脱ごうとしたから「中入るまで着とけ!」と叱った。


「頼むからあたしの言うこと聞いてくれ。軍曹にしごかれるあたしの姿を見るのは嫌だろ?」

「うん、嫌だね」

「じゃあ言うこと聞きな」

「うん」

「よーしよしよしいい子だ」


 あたしより6cm低いアサの頭をなでなでしてやった。


「おいこら、やめんか」

「ひっ!?」


 アサの奴、お返しとばかりにあたしの尻をなでなでしてきやがったから脳天にチョップを食らわしてやった。


「あいたた……もうちょっと手加減してくれたまえ! 脳細胞が死んだらどうしてくれるんだ?」

「悪ぃな。じゃ、次から尻に蹴り入れるわ」


 アサは自分の尻に手をやった。それを見てつい笑っちまう。


「風が強くなってきたな。さっさと中入ってあったまろうぜ」


 アサの体を押しこむようにして、エントランスに入る。その途端に、アサはスクールコードをバッと脱いであたしに押し付けた。


「おい!」

「ちゃんと中に入るまで着てあげたからな! これで自由の身だ! I'm free! ハハハー!」

「ちょっと待ておい! 靴! クツどうすんだよおめー!」


 こいつ……上履き履かずに土足で上がっていきやがった。


 案の定というべきか、向こうから男教師の「コラァ!」という怒声が聞こえてきた。すまんがもうかばってやれん。


 ……とまあ、あたしのダチはいつもこんな感じだ。変な奴だろう?


 だけど、こいつのおかげであたしは毎日退屈しなくて済んでるんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ