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会議室と異界

 昼の会議は異様な空気に包まれていた。

 司会進行は販促部の部長木下。開発部の部長小野は体調不良の為欠席と冒頭に木下から説明があった。


 それ以外にも木下部長は良く喋った。いや、木下だけじゃない、開発部の他のメンバーも異様なぐらい発言した。オレに発言させないという目的が一致している感のだろう。それがあからさまに分かり気持ち悪かった。

 しかし役立たず、もとい役職者達の目は『流石』であり、それが好意的に移ったようだ。

「いいじゃないか。今まで加藤君にまかせっきりな感じだったけど、みんなエンジンかかってきたね。この調子で期待していますよ」

 だとさ。


 普通ならこの状態にも腹が立つところだが、オレは今朝、食堂でベーグルが言っていたことが気になっており、正直この会議のことはどうでも良かった。


 早く定時を迎えたいところだが、会議後も中途半端に反省したメンバーが仕事の相談にひっきりなしに来るのが本当にめんどくさかった。


 ようやく定時になると、オレはまた食堂に向かう。

 そこでコーラとアイスを買ってまたPCにデバイスを接続して電源を入れた。

 いつもの通り、言われるままコーラを少しベーグルに飲ませると、オレは質問をする。


「まだ『妖怪』はいる?」

 答えは『YES』。


 『妖怪』とは仮の名詞だ。朝ここでベーグルは「**未登録単語**がいる」と言った。

 その『**未登録単語**』が何かを色々探ってみたのだが、いまいち要領を得ない。最初は産業スパイのようなものかと思ったのだが、人間では無さそう。害虫や害獣でもなければ、コンピュータのハッキングでもない。

 冗談で「霊とか妖怪の類か?」と聞いたら「それが一番近い」との答えだった。


 そして「妖怪 原因 あなた イライラしている」と。

 なんでもその『妖怪』は『異界』の存在だが、この会社には異界に通じる穴があると。そして『妖怪』は普通の人には見えないが、精神に干渉し、特にマイナスな感情を増幅する性質があるのだと。

 ならば、ウチのメンバーがクソな要因を担っているかもしれない。


 こんな会話をしているあたりで社用携帯で呼び戻されたので、早くこの話の続きがしたかったのだ。 


「今日、メンバーが気持ち悪いぐらいやる気だったのは『妖怪』のせい?」

 答えは『ある意味YES』。ベーグルは続けた。

「本当のやる気 違う 保身 危機感 増幅された結果」

 おれは軽く鼻息をついて次の質問をした。


「もしかして、ベーグルは妖怪を祓えたりする?」

 それでこのロクでもない職場が天国になるなんて思っちゃいないが、少しでもマシになる可能性があるなら、なんとかしたいもんだ。


「できるかもしれない」

「どうしたらいい?」

 まだ社員食堂には人はいるので携帯を耳に当て、通話しているフリをしつつ、内容までは聞かれないように小声で話している。


 画面には次の文字が表示された。


「確かめたい 会議室に行きたい たぶん 穴 ある」


 休憩室からオフィスに戻ると、開発部のメンバーはみな帰宅して誰もいなかった。

 定時退社は結構なことだが、そのシワ寄せが来ている身としては文句の一つも言いたくなる。

 ただ、今日はオレにとってもその方が都合が良い。


 フロア全体を見渡しても残っているのは数人。

 問題の会議室は使われている様子は無いが、念のため最終退場者になるまでオレは自分のデスクで作業をしているフリをしつつベーグルを会話する。


「エネルギー 多く 必要になる」

 ベーグルがそう言うので少し思案した結果、自分のマグカップを給湯室で洗い、そこにコーラを注いでベーグルを浮かべた。


(フロートみたいだな)

 そう思ったことは口に出さないでおいた。


「出ます。最終退場お願いします」

 別部署の人間に声をかけられる。


「承知しました。お疲れ様です」

 オレは答え、彼がフロアを出てエレベーターに乗った所まで確認すると、機材とベーグルフロートの入ったマグカップを持って会議室に向かった。


「やはり 空いている」

 会議室に入るなりベーグルから発信がある。


「なんとかなるか?」

 とオレ。もう、誰もいないので携帯で話すふりではなく普通に声を出す。


「あなた 協力 あれば 可能」

 とベーグルの回答。

「何をすればいい」

「異界 侵入する あなた 目を閉じる 合図するまで 開けるな」

「分かった」

 言われるままにオレは目を閉じた。


 そして気づいた。

「合図って、どうするんだよ?!」

 声に出してみたものの反応無し。

 当然だ。ベーグルとはノートPCのモニターに表示される文で会話していたのだ。

 目を閉じてしまったら何も分からない。


 一瞬、酩酊感があり、オレはふら付いた。

 手近にあったはずのテーブルに手を付こうとしたが、それらしきものが無い。


 バランスを崩しそうになり、かろうじてしゃがみこんで床に座ることが出来た。

 しかし、床はこんな材質だっただろうか?

 というより、手で摩ってみても、材質の感触がまるでない。


 空気も変だ。

 空気の匂いを感じようとオレは鼻から大きく息を吸う。


(?!)

 鼻を空気が通る感触がまるでない。それどころか呼吸音すらしない。

 ただ、息苦しさは不思議と感じなかった。


「どうなってるんだ?!もう目を開けるぞ!」 

 そう言ってみるものの、まだ開ける勇気はない。


 目を閉じまたまま、両腕で周りを探ってみる。

 何も手に触れない。テーブルや椅子がぎっしりある部屋のはずなのに。


「目を開けるぞ!」

 もう一度声を出す。ただ、やはり、躊躇する。

 もし、目を開けることで異界への侵入が失敗したら・・・


 シチュエーションは少し違うが、オレは黄泉の国に行ったイザナギの神話を思い出した。

 こういう言いつけを守らないで破滅する話は古今東西に無数にある。


「本当に目を開け・・・」

「待たせたな。もう大丈夫だ」

 何度目かの呼びかけに呼応するように声がした。

 声と言っても聴覚からではなく、脳内に響くような感触だ。


「もう目を開けて大丈夫だ。私だ。ベーグルだ」

 その声は再度呼びかけてくる。


 オレは、おそるおそる目を開けた。


 そこには無機質なモノクロの世界が広がっていた。

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