黒卵
「噂じゃ宇宙からの飛来物で、何かの兵器じゃないかと言われている」
その黒卵を売っていたジャンク屋が言っていた。
すっかりカルチャーの街として様変わりした秋葉原だが、裏路地の雑居ビルの4階にあるその店は、まだ電気街だったころの名残を残していた。
例えば店頭に置いてあるプリンターに『プリンター100円!(壊れています)』という手書きのラベルが貼ってある。ここは、そんなものばかりが売っている店だった。だからヒマそうな店主に話しかけると、時折こういう変なものを見せてくれる。
「兵器?これが空飛んで自動追尾してくるとか?」
「そうかもしれない。また、別の噂では大戦中に旧日本軍が極秘開発した起死回生の秘密兵器だそうだ」
「とりあえず、兵器は確定なんですね」
「いや、別の噂では、地下1,000mから発掘された地底人の卵とも言われている」
「地底人って・・・人なのに卵生なんですか?」
「ああ。噂では地底人はカモノハシから進化したらしい」
オレは店主の話を、話半分、いや話1割程度に聞き流しつつ、その黒卵を手に取った。本当ならば博物館にすら展示できないレベルの貴重品をオレ達は素手でいじくりまわしている。
「で、これ何が出来るんです?」
「電波を発し続けているようなんだ」
「へぇ」
オレは途端に興味を持った。この店主、電気、電子、機械系の機能的な話だけは嘘をつかないからだ。
「噂では、宇宙人の携帯電話だという説もある」
「その電波って何かPCとかから見れたりします?」
オレは噂話を流して本題に入った。
「ああ、これを使えばいい。オレの自作だ」
そう言って件の計測器とUSBメモリを取り出した。USBには計測器を使う為のドライバと解析ツールが入っているらしい。
深夜ともいえる時間帯に、誰もいない職場でオレは、解析ツールを起動した。
今どきの都会の空間は様々な電波で満ちているはずなのだが、その黒卵が発する電波は特徴的らしく、そこだけを抽出するようにチューニングされているらしい。
細かい説明を色々されたが、おれの専門はソフトウエアなので、半分以上は良く分からなかった。
しかし、何かの波形が繰り返し表示されるのは確かだ。
その波形は、特定のパターンが繰り返されている。例えて言うなら『SOS』を繰り返し発信しているみたいに。
もっとも実際の意味は分からない。いや、分からないからこそ、その意味を解析したくなるのがエンジニア魂だ。
最初はその機材とツールは、卵に関係なく適当な波形を表示されるだけのジョークアプリであることも考えた。
しかし、黒卵を遠ざけたり、間を計測器との間を遮蔽したりすると『計測不能』と表示される。何より、黒卵を叩くと抗議するように波形が変わるから、やはり何かしらは捉えているのだろう。
オレは繰り返し表示される波形を眺めながら考えた。
ずっと表示しているこれに意味があるとすれば、呼びかけだよな。『SOS』なのか『Hello』なのか・・・
とりあえず、オレはその基本パターンを『ハローパターン』と名付けた。そして、叩いた時のパターンを『ヤメロパターン』と名付ける。
こういう条件と波形、予想される意味をセットで蓄積して解析しようと思っているのだ。
では次はどんなパターンを引き出そうか?シンプルなのは物理刺激を色々与えて見ることなのだが、噂のような兵器だとしたら危険も伴う。
オレは腕を組んでしばらく考えたのち、何も思い浮かばないので買ってきたコーラのペットボトルのキャップを開け、一口飲んだ。そしてむせた。
「?!」
波形が変わっているのに気が付いた。
「コーラか?」
思わず呟いた。そうしたら、また波形が変わった。
「コーラ」
もう一度言う。やはり先ほどと同じ波形が出た。
「嫌なのか?二酸化炭素が嫌とか?」
また波形が変わる。これはどっちだろう?
「それとも欲しい?」
違う波形になった。おそらくどちらかが『YES』でどちらかが『NO』だ。
「オレの言っていることが分かるか?」
反応があった。それは『欲しいのか?』と聞いた時の波形だ。オレはこれを『YESパターン』として登録した。
「しかし、どうしたらいい?近くに置けばいいのか?」
波形は『NO』。
「まさか、かける?」
波形は『YES』。
オレはペットボトルの蓋に少量のコーラを取り、数滴黒卵にかけてみた。
ジュワッと音を立て、コーラは泡立ちながら瞬く間に蒸発したように無くなった。
そして、また何やら新たな波形が出る。
「もっと欲しいのか?」
波形は『YES』。
与えて良いものなのだろうか?栄養を与えることで、カモノハシ型の地底人が生まれたりしないだろうか?
オレは少し考えてから言った。
「あげてもいいが、代わりに君の言葉を解析したい。協力してもらえるか?」
波形は『YES』を示した。




