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いつもの会議と深夜の職場

 最悪な会議だった。

 オレが提出したソフトウエア製品の仕様書を、オレ以外の参加者が寄って集って粗探しをする会議だ。

 参加者は、オレ、開発部の主だったメンバー、品質保証部、販売促進部、そして役立たず・・・もとい役職者達だ。


「そもそも、この製品の売りはなんなんですか?それがいまいち伝わってこないですね」

 役立たずの一人が言った。

 オレは上司である開発部の小川部長の顔を見た。目を逸らされた。答える気は無いようだ。アンタの指示でオレは書いてるんだけどな。まぁ、それはいつものことだ。

 オレは小川部長から説明を受けたことを、かいつまんで話した。

「うーーーーーん、それってニーズあるんですか?」

 別の役立たずが言った。

 オレは販売促進部の木村部長の顔を見た。あんた、ウチの上司と盛り上がってたよな?『絶対いける!』って。なんか説明してくれよ。

 しかし、やはり目を逸らされた。


「まだ一般的には普及していませんが、一部の業界では注目の分野なので将来性はあるとの判断です」

 オレはヤツらが言っていたことを思い出しながら答えた。

「それって、何か数字的裏付けはあるんですか?」

 うるせぇよ。何でオレに聞くんだよ。そこに自称専門家が座ってるだろ・・・と思いつつオレは答えた。

「いえ、特に私は把握しておりません。何かありますか?」

 オレは小川部長、販売促進の木村部長、そして開発部門の同僚達に振った。

 全員、目を逸らす。


 嫌な沈黙が流れた。それを断ち切ったのは小川部長だった。

「そこは、ちゃんと調べておかないとな」

 なんと、小川はオレを説教するという荒業に出た。そして続ける。

「資料だけだと分かりづらいよな。何か実際に動作するプロトタイプみななのないのか?」

 はぁ?何を言ってるんだコイツ?会議で発表する内容の共有はさっきしたばかりだよな?

「現状はありません」

 オレは答えた。きっと眉間にしわが寄ってたと思う。

「何で作ってないんだ?確かにプロトがあればもっとイメージできるよな」

 役立たずの一人が乗ってきた。そこに対して小川が連続技を繰り出す。

「申し訳ありません。私の指示不足です。明日中にそこはプロトと資料を揃えさせます」

 謝罪して責任感があるフリをし、『指示不足』即ち自分は指示するだけで実働はしないという宣言。極めつけは勝手に期日を決めるという三連撃だ。


「今、まだその段階ですか・・・だとすると、根本から変わる可能性もあるんですか?」

 と品質保証部。知るか!

「そもそも準備不足でしたね」

 と開発部のメンバー。どの口が言うか!お前らが何もしないからオレがやってるんだろ!


 そんな感じで、最悪な、いつも通りの会議だった。

 まぁいいさ。これも予定通りだ。

 オレは不快感を隠そうともせず自席に戻る。道中小川が話しかけてきた。

「数字根拠出しておくようにオレ、言わなかったっけ?」

「知らないっす。というか、そういうの他のメンバーにやらせたらどうですか?何もしてないヤツいっぱいいるでしょ」

「そうだな。そこはお前から適当に指示出してくれてかまわない。好きにやってくれ。オレはこれから商談がるから出るんだ。頼むな。プロトもよろしく。上の人間が分かるような表面だけの簡単なのでいいから」

「はぁ。戻りは何時ですか?」

 今は14:00だ。プロトまで作ってたらとうてい定時では終わらない。

 『表面だけの簡単なの』と簡単に言いやがるが、0から作ればそれなりの工数はかかるんだ。


「いや、会議の後で懇親会に出なくちゃいけないから戻れない。先方の機嫌取らなきゃいけないから地獄だよ。会社で仕事してた方がよっぽど楽なんだけどな。まったく、こっちはこちで大変なんだ」

 まぁ、そんなものだろう。予想通りの回答でシラけたので会話をそこで打ち切った。そもそも、こんなヤツいた所でなんの戦力にはならない。


 オレは自席に戻ると、隣の先輩、田崎が話しかけてきた。

「たいへんだったな。お疲れ様。何か手伝おうか?『何したらいいか教えてくれたら』何でもやるぞ」

「ありがとうございます。大丈夫です」

 作り笑顔で断った。コイツはハナはら自分で考える気が無い。コピーペーストレベルの単純作業まで嚙み砕かないと質問攻めにされ、結局自分の作業が止まる。それなら最初から全部自分でやった方が早い。

「そうか、でも困ったら相談してくれよ」

「はい。お願いします」

 無表情で抑揚なくそう言うと、オレは『話しかけるなオーラ』を全開に張り、作業に没頭した。


 22:30を回った所で作業が終わった。

 いつも、こういうことを繰り返しているので突貫作業のスキルだけは上がっているのだ。

 しかし、このことは周りに気付かれてはいけない。オレはまだ作業が続いているフリをする。

「大変だね。どう?何かやることある?」

 最後まで職場に残っていたメンバーの一人が声をかけてきた。これは『帰っていいか?』という意味だ。

 全員オレに押し付けているという自覚はあるようで、こういう日はみな、多少残業をする。しかし、定時後1時間経ったあたりから一人、また一人と『何かやることある?』と聞いてくるのが恒例行事だ。

「大丈夫です。なんとか目途は立ちました」

 めんどくさい。とっとと帰れと思いつつ、そう答えると、免罪符を貰ったような笑顔で労いを言ってヤツらは帰っていく。


「さて」

 最後の一人が帰って、だだっ広いフロアに一人になった所でオレは背伸びをした。

 既に全員帰宅しているので他部署の照明は消えている。暗闇の中でオレの島のLEDだけがスポットライトのようにオレを照らしている。

 まだ終電には間に合うが、家に帰った所で寝るだけだ。往復の時間がもったいない。

 オレは夜間作業の申請書を書いて警備室に提出した。


 以前は『提出が遅い』とか『そもそも原則会社に泊まりは駄目。そちらの部署は多すぎる』等と叱られたものだが、もう警備員のオッちゃんもオレのことを覚えていて、気の毒がってくれる。


 オレは食堂の自動販売機でアイスを買って食べ、コーラを買って自分のフロアに戻った。

 そして、カバンから二つのデバイスを取り出す。

 一つは文庫本サイズの基盤むき出しな手作りの計測器。オレはそれをUSBで自分のPCにつないだ。

 もう一つは黒く光沢のある卵型の物体。

 これが何かはまだ分からない。


 オレはその未知の物体をデスクに置いた。


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