旦那様に愛していると言われて全ての疲れが吹き飛んだ。
顔を合わせたのは結婚式が二度目という夫と無事に初夜を終えることが出来ました。
夫は女性経験が豊富なのか私に苦痛はなく、初体験とは思えないほど素敵な一夜だったと思います。
今も腕枕をされ、背後から抱きしめられていて、目が覚めたのですが動くに動けずにじっとしていました。
こういう時はどうすればいいのかしら?
昨夜のことを思い出してしまって体全体が朱に染まっていく。
私を抱きしめているこの人とあんなことやこんなことをしてしまいました・・・。
背後から細かい振動を感んじてなんだろうと思って振り返ろうとしました。
「真っ赤になってるけど大丈夫かい?」
夫の笑う声と先の言葉を掛けられました。
いっそう私は朱に染まり、棒のように固まっているしかありませんでした。
一つ瞬きしている間に転がすようにわたくしは夫の方に向かされていて、ソロソロと見上げると夫の視線と合ってしまい恥ずかしくて仕方ありません。
こんな時どうすればいいのか誰も教えてくれませんでした。
「クックックッ」
夫は未だに笑っていてわたくしの恥ずかしさは理解してくません。
「ごめん、ごめん。あまりにも可愛い反応だったので」
そう言って額にキスを落とされいつの間にか仰向けにされていて、夫は私を跨いで唇にキスを落とし顎から首筋へと唇が這っていき胸へとおりていく。
わたくしはギュッと目をつぶり夫にされるがまま翻弄されるがままになりました。次に目を開いた時にはまた背後から抱きしめられていて、部屋の外からノックをされてしまいました。
朝から湯船に体を浸ける贅沢にうっとりしていると、我が家から一緒に来た使用人のオーレイアに「朝食の時間が遅くなってしまいますのでそろそろ上がってください」と笑われてしまいました。
夫が用意してくれた衣装に袖を通してダイニングへと案内されます。ダイニングで待つ夫の顔を見てまた赤面してしまいましたが、今度は夫は笑顔で迎えてくれるだけで、笑ったりしませんでした。
夫が色々気を使って話しかけてくれ、他愛もない話をしながら今日の予定を聞かされ、何も用がないのなら今日はゆっくり過ごすように言われました。
わたくしはお礼を言って自室に下がりほんの少しだけと思ってベッドに転がるといつの間にか眠ってしまっていました。
わたくしの夫となったビルベスタはソーガット侯爵家の次男でソーガット家の跡取りになります。
次男でなぜ跡取りなのかというと、長男の方が真実の愛に目覚めてしまって、その方と結婚するために相手の女性の家へと婿入りしてしまわれました。
それまでお気楽な次男として飄々と生きてきたのに、ソーガット家を押し付けられてお兄様に対して怒っていたものの兄弟仲がいいらしく、仕方ないと諦めてソーガット家を継ぐことを決心したのだと話してくれました。
ビルベスタ様はその当時、気になる人が出来たら婚約すると言って、誰とも婚約していなかったのですがソーガット家を継ぐことになり、急いで婚姻相手を探すことになったそうです。
そこでわたくしの名前が挙がりわたくしの知らない間に婚約が決められていました。
両親から婚約者が決まったこと、その相手が侯爵家を継ぐ方だと聞いて驚きました。
「とてもじゃないけど侯爵家の妻になどなれません」
「決まったことだから」
そう両親に言われて婚約式で一度会ったきりで、たった二ヶ月で結婚式となり二度目に会ったときには結婚式の神父様の目の前に立っていました。
ほとんど話したこともない人とうまくやっていけるのか心配でしたが結婚式から今までのところ、なんとかなるかも知れないと少し安堵していました。
オーレイアも「優しそうな旦那様で安心いたしました」と言っているので二重に安心しました。
自分の目は信じられませんが、オーレイアの目でみて大丈夫なら安心です。
両家とも急な結婚だったので当人同士の関係を結ぶことより、家と家の結びつきの方を優先してしまった結果、ビルベスタ様と会う時間が取れなかったと聞いていました。
ビルベスタ様は忙しかったのだろうと諦めて結婚式に挑みましたが、正直怖くてたまりませんでした。
今流行りの書物のように蔑ろにされるような扱いを受けたらどうしようかと思っていましたが、今のところ丁寧に扱っていただいています。
だからわたくしも頑張って尽くさないといけないと心に誓いました。
とはいってもわたくしが出来ることなどたかが知れています。まずは得意分野の刺繍から始めます。
ハンカチや上着の内側に刺繍を施していきます。
最近は棒タイが流行っているので、タイを編むのもいいかもしれません。
夫婦関係というものがよく理解できていません。両親や叔母夫婦くらいしか夫婦関係のやり取りをしている人を見たことがありません。なので比較する相手は両親くらいなのですが、新婚だからでしょうか?
ビルベスタ様は毎日夫婦の寝室で一緒に眠ることを望まれるので、望まれるがまま夫婦の寝室へ行くと、いたずらをされて慣れていないわたくしはすぐにその気にさせられて、ビルベスタ様を毎日受け入れることになってしまいます。
わたくしの両親は別々の自室で眠っていましたが、夫婦生活はどうなっていたのでしょうか?
仕事が忙しいのか朝と寝室くらいでしか会えないので、コミュニケーションを取っていると思えばいいのでしょうか?
嫌ではなく嬉しいので問題はまったくないのですが、ビルベスタ様がお疲れにならないか心配です。
わたくしも執事のキールにソーガット家の色々を教えてもらっている最中で覚えることがたくさんあってとても大変です。
キールには「女主人としてゆっくり育っていけばいいのです」と慰めてもらいながら少しずつ頑張っています。
ビルベスタ様にご友人の家に招待されたので一緒に行こうと誘われて、ご友人の家に行くことになりました。
わたくしが刺繍した上着に、わたくしが編んだ棒タイを組み合わせてくださっています。
うっとりと見とれてしまいます。
わたくしはいつの間にかビルベスタ様に恋しています。
恋した相手が旦那様だというのはとても幸せなことだと思っています。
この恋がいつか愛に変わる日が来るのかな?ビルベスタ様に愛してもらえるでしょうか?
残念なことにまだ愛は囁いてもらえていません。
ご友人方にはわたくしの刺繍や棒タイを見せて褒めてくださっていますが、わたくしがいないところでも褒めてくださっているでしょうか?
そうだったらいいのにとビルベスタ様のことをうっとりと眺めていると、ご友人の奥様方にからかわれてしまいました。
「恥ずかしいのでからかわないでくださいませ・・・」
皆さんわたくしより三〜五歳年上の方ばかりで、少しだけ気後れしてしまいます。
伯爵家出身のわたくしには侯爵家の家政が大変なのですと話していると、同じく伯爵家出身の方が「慣れるまでは大変よね」と同意してくださったので心強い気持ちになりました。
ビルベスタ様には可愛がられ、家政もそれなりにこなせるようになってきた頃に、突然やってこられたのはビルベスタ様のお姉様のカトレーナ様でした。
カトレーナお義姉様は旦那様と喧嘩をしてしまい、飛び出してきたのだとか。
ご両親の居る領地は遠いので、暫くここに置いて欲しいとビルベスタ様にお願いしていました。
ビルベスタ様は溜息一つとともにカトレーナお義姉様を受け入れ、お義兄様には手紙を出しておくと仰っていました。
わたくしはカトレーナお義姉様からビルベスタ様の小さい頃の話などを聞いて、楽しいひと時を過ごしていました。
お義兄様は手紙の到着とともに、返信を書かずにお義兄様ご自身がやってこられました。
カトレーナお義姉様がお義兄様に愛されているのが、わたくしからみてもよく解りました。
ビルベスタ様に「喧嘩をしてわたくしが飛び出したら迎えに来ていただけますか?」とつい聞いてしまいました。
嘘でもいいので迎えに行くよと言ってほしかったのですが、ビルベスタ様はニヤとした笑いで「さぁ、どうだろうね?」と言って額にキスを一つくださいました。
ちょっとがっかりです。
カトレーナお義姉様とお義兄様は手を繋いで帰っていかれます。
賑やかなお義姉様がいなくなって少しさみしいです。
お見送りをした後、ビルベスタ様と手をつなぎたかったのでそっと手に触れると、わたくしの意図に気がついたのか、しっかりと手を握ってくださいました。
その日の夜、喧嘩しても出ていかないとベッドの上で約束させられました。
ビルベスタ様は本当にずるいです!!
ベッドの上ではわたくしは絶対に勝てません!
いえ、普段でも勝てません。
結婚して一年が経ちました。
今日までは新婚を味わうために子供を作らないように気をつけていましたが、明日からは自然に任せようと話し合っていました。
一日も早く子供が欲しいと思っていますが、残念なことに未だに愛の言葉はもらえていません。
わたくしは何度か愛していますとか好きと伝えているのですが、わたくしの頑張りはまだまだ足りないようです。
少ししょんぼりしていると、オーレイアが「旦那様は恥ずかしがりなだけですよ。私から見ていますと旦那様も奥様のことを愛してらっしゃいます」と慰めてくれた。
妊娠しないように気をつけるのを止めた途端に子を宿しました。
ずっと気分が悪かったのですが、その原因が妊娠だったと知って、妊娠したことをビルベスタ様に伝えに行きました。
「おめでとう!!とても嬉しいよ」と言ってくださって沢山のキスをしてくださいました。
気分の悪い日が続いて、それが治まると今度は少量の食事しか食べられないのですが、一日に五回ほど食事をするようになってしまいました。
五回の食事+一度のお茶菓子で太らないか心配でしたが、オージーが言うには一日の食事量は変わっていないとのことで、胸をなでおろしました。
お医者様に極端に体重を増やさないこと。と口を酸っぱくして言われていたので、毎日体重計に足を乗せる度に怯えていましたが、産み月に元の体重+四kgだったのでお医者さまには褒められました。
小さな痛みが時折やってきて、その間隔が短くなり激しい痛みに変わっていき、それから長い時間痛みと戦って、私は凄く凄く可愛らしい男の子を産みました。
ビルベスタ様のいいところを受け継いだとても可愛らしい男の子です。
将来女の子を泣かさないか心配になってしまいます。
その赤ん坊を抱いたビルベスタ様はわたくしに「大変だったね。お疲れ様」と言って赤ん坊と私にキスをしてくれました。
凄く優しい目をしてわたくしの頬を撫でててくれます。
「愛しているよ」
初めて愛の言葉を囁いてくださいました。
わたくしは出産の苦しみなど全て消え去ってしまうほど、嬉しかった。
「私も愛しています」




