大学前半
私の東京での一人暮らし小さなワンルームから始まった。
ベッドと机と洗濯機でいっぱいになる狭い部屋だったが、初めて持つ私の城だった。
私でいられる場所をやっと得られた充足感、何にもかえられなかった。
大学ではそれなりに友人もたくさんできた。
一緒に講義を受けて、ランチして、たまにはカラオケ、充実していた。
放課後はクリーニングやで受付のアルバイト。
わずかでも自分で得られるお給料はうれしかった。
帰りには商店街で食材をお買い物。下町風だから、店主とも顔なじみになって、たまにはおまけしてくれたりして。
この町の一員であることも誇らしかった。
そんなある日、一本の電話がかかってきた。
「クリーニングやで受付してる子だよね。前から気になってたんだ。」
突然の電話に何この人?
「いや、あの・・・・」
「今度、飲もうよ。いいじゃん。おれ、林。」
「知らない人とはいけません!」
「知らなくないよ。毎日クリーニングや行ってるし、毎日会ってるよ」
「あ、そういえば」
思い出した。毎日ワイシャツ出しに来る色黒の人だ。
「ごめんなさい。でも、いけません」
「いいから。22時に商店街にあるライムってバーで待ってるから。来るまでずっと待ってるから」
こうやって一方的に電話は切られた。
どうしたものか?困った。こんな経験ないし、本当にずっと待ってたらどうしよう。
明日、お店にどなりこんでくるかな?
どうしよう、どうしよう、私はそこから3時間ほど悩んだ。
時計を見ると24時。さすがにいないでしょ、とおもいながらも、ライムに足が向いていた。
古びたドアをあけると、「よく来てくれたね、ありがとう」と林は満面の笑みで迎えた。
そして言われるがまま、カウンターに座り、水割りをすすめられた。
「ママ、俺の彼女、いいでしょ?」
60を過ぎた頃のママは「林さんにもったいないんじゃない?」
何でか、私は彼女になってしまっていた。
初めての彼氏ってどんな感じなんだろう。