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第二十五話  危機的状況

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 地理の説明から始めたい。


 急激な地殻変動によって大陸が一つに繋がったのが八百年ほども前のことになる。多くの国々は淘汰され、吸収されながら、一度は大陸が一つの国に統一されたこともあったらしいんだけど、そこからまたバラバラになったりして、最終的には、中央に位置するアドリスヴィル皇国を囲むようにして、六つの国々が各国を治めることで安定したわけですわ。


 その後、苛烈王と呼ばれるラムエスドルフ王の台頭により、東のヌサドゥアと南のエルトゥアが征服された。残った四国が戦々恐々となっている中、皇国に恭順の意を示そうとしていたフィルデルン王家。これに意を唱えたのが、ルーク第三王子になる。


 ルーク王子はビュルネイと国境を接するローフォーテン領を売り払う決意をした訳だけど、西方の守りを任された、我らがイヴァンナ・フィッツジェラルド提督が許す訳がない。


 どこまでも不毛な大地が広がるハイデ平原で公国軍と王国軍がぶつかりあう、ハイデを越えなければ領主の館があるギルデアの街を落とすことが出来ないからだ。


 イヴァンナ様はハイデを乗り越えようとする敵軍を迎え撃つために、ハイデに軍を展開しているだろう。しかし、迎え撃つべき敵の数が少なすぎるように思うんだ。


 ケブネカイル渓谷に流れる流砂の汚染は本当に酷いものなので、敵軍が意表を突く形で兵を進めてくるとするのなら、渓谷を回り込む形の迂回路を選択しなければならないはず。


 丁度、私の部隊が子作りキャンプ担当となって渓谷近くに配置されていた為、敵が進んでくる迂回路に網を張って、攻撃すれば良いだろうと思っていたんだけども・・


「ビュルネイ公国が、どんな腐食にも耐えられる特殊メタルの開発に成功したってことなのかな?」


 そこが問題だよ、汚染の流砂を超えてくるのなら領都の喉元まで敵軍が迫り来ることになる。ハイデをガラ空きにしても問題だけど、渓谷の守備も固めなくちゃいけないわけでしょう?


「リン、私ね、貴方を誘拐後、ビュルネイに引き渡す予定でいたのよ」


 突如、天幕に現れたピンクの戦士、ドロテアの発言に周囲が一気に凍りつく。

「あの・・誘拐ってどういうことですか?」

 疑問の声を上げるコリンナを私が手で制すると、ドロテアはピンクブロンドの髪を掻き上げながら言い出した。


「一度、引き渡し場所まで出向いてみて、敵の装備を確認してみるっていうのはどう?」

「その引き渡しポイントって何処なんですか?」


 引き渡しポイントは、シュナの流砂まで偵察に向かった部隊が消息を絶ったポイントと同じ場所。そういうことなら、一度、出向いてみないことには話にならないよね。



      ◇◇◇



 たった二日間ちょっととはいえ、リンをデロデロに甘やかしたウィルは、ご機嫌な様子で最新型となる飛空艇に乗り込んだ。


 無音のままホバリングして上空へと移動した飛空艇の窓からは、月の光を浴びて浮かび上がるケブネカイル渓谷がよく見えた。


 この渓谷の間を流れる流砂は極度に汚染されており、通常のメタルに対する侵食速度はかなり早い。機械鎧を身に纏ったとしても、おそらく一日は保たないだろう。先人の知恵により、破壊と汚染で人が住めない場所と化したシュナの流砂に耐えられる、特殊メタルの開発に成功をしたビュルネイ公国は、ガラ空きとなった渓谷に軍を進めて来るだろう。


 彼らが秘密裏にカンポット砂漠を利用して、砂漠に沈潜可能な輸送機の試運転をしているのも知っているし、その試運転や実験によって棲家を追われた砂の(ダムレイ)が、砂漠を移動中の商隊を襲い始めているという報告も受けていた。


 まさかカンポット砂漠を移動中に、自分自身が砂の(ダムレイ)に襲われるとは思いもしなかったが、ウィルにとって魔獣などは何一つ怖いものではない。恐るべきものは、水の庇護を略奪しようと考える輩どもということになるのだから。


 水、もしも真水が世界に溢れるほど存在すれば、ここまで人類が争い合うこともしなかっただろう。


 もしも、皆が協力して水の開発に取り組めば、大陸は7カ国を維持しながら、平和を傍受していただろう。水さえあれば、誰もがそのことを考える。


 水さえ自分のものになれば、世界を平伏させることも可能だろう。水を自分のものに出来るのなら、独占出来るのであれば、全てを支配できるに違いない。


「ウィル様、クーデターは上手くいっているようですね」


 上空から国境の街ギルデアを望むと、小高い丘の所々で炎が上がり、白い煙が夜空へと舞い上がるようにして広がっていく。


 今頃、王都ではルーク第三王子がクーデターを起こしているのだろうが、現在、ギルデアの街は民衆による武力蜂起が起こっている。ローフォーテン領は、領主と貴族たちによってビュルネイ公国へ売り払われるという噂が流れた為、民衆の怒りが爆発することになったのだ。


 ビュルネイ公国は敵国を征服した後、住民を奴隷として、死ぬまで使役するのは有名な話となる。元々、暗愚な今の領主に憤りを感じていた民衆は、自分たちの自由を勝ち取るために立ち上がったのだ。


 ギルデアの街は、一番高い位置に領主の館が置かれて、その周囲を貴族家の家が、更にその周囲を平民でも富裕層に入る人々が屋敷を建てている。

 民衆が上げる炎は、下から上へと、あっという間に広がって行く中、一つの飛空艇が民衆の中に降り立つ姿が視界に入る。


 実の父の暴挙を知ったハインツ・バッテンベルグは、自分の愛する人を助けるため、愛する国土と民衆を守るため、自ら資金を投じてレジスタンスに武器を提供し、今日の武力蜂起を計画した。


 実の父と腐った貴族たちは、戦争のどさくさで根こそぎ殺そうと考えている。その大胆さは好ましいが、好きな女相手に躊躇する様がウィルには滑稽に見えた。


「ブルーノ、リンは何処にいる?」

「まだキャンプ地に居るようですが、すぐに後方へ下がるでしょう」

「そうか・・」


 ギルデアの街は民衆による暴動、王都ではルーク王子によるクーデター。西方のハイデ平原ではすでに武力衝突を開始しており、敵の本隊が進んでくる予定のケブネカイル渓谷はガラ空きの状態となっている。


「船をどちらに進めますか?」

 ブルーノの問いに、ウィルは皮肉な笑みを浮かべた。

「僕が行くのはリンがいるところだよ」


 リンはハインツについては行かなかった。子供たちについて、アークレイリに逃げ出すこともしなかったのだ。

 だとするのなら、自分が保護しても構わない。そう考えて、ウィルは一人ほくそ笑んでいたのだった。



ここまでお読み頂きありがとうございます!

この作品、ちょっと間、作成を停止します。

ホラー作品を書き終えたら戻って来ますので、しばしの間、お待ち頂ければ幸いです。

『屍の声』 こちら、今月中には終わる予定です。

読んで頂ければ嬉しいです!

モチベーションの維持にも繋がります。

もし宜しければ

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