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第十五話  あーんはいらない

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

「はい、一口どうぞ!あーん!」

「アーン」

「はい、あーんして!」

「あーん!ああ!美味しい〜!」


 今期のキャンプの物資を集めてくれたのが皇国の商人だったとしても、サービス過多にも程がある。三人の子持ちである肝っ玉母ちゃんのコリンナでさえ、

「あーん!ああ!おいちい!幸せ!」

と、若い皇国人にアーンされて喜んでいるのだ。


 提督であるイヴァンナ様に素晴らしい男をマッチングしてもらう約束をしてもらっているアリーセだが、未だに失恋の傷は癒えず、男性恐怖症というわけではないけれど、喜び勇んでアーンとかしたくない。


 そんな訳で、サポート要員であるアリーセは、厨房の奥で一人寂しく芋の皮を剥き続けていたのだった。昼食は一通り作り終わったので、夜の分の用意に入っていたのだが、背後に大きな影が迫ってきた為、刃渡り20センチのナイフを持ったままの状態で振り返る。


 すると、厨房テントで料理を作りまくっていた料理人のアベルが、降参するように手を上げて、

「殺さないで!お願い!」

と、言い出した。


「殺しはしませんけど、何の用ですか!」

「これ、芋の皮剥きのお礼」


 アリーセの前に差し出されたのは、プラスチック容器の中に入った白い物体であり、手で持つとひんやりと冷たい。


「はい、アイス。スプーンもどうぞ」

「あいすって何なんですか?」

「辺境にはないのか〜」


 熊のように体が大きく、熊のように厳つい顔をしたアベルは、短く切った自分の髪の毛をバリバリ掻きむしると、スプーンで掬って、とりあえず食べてみるようにアリーセに勧めてきたのだった。


「あっ!それとも、アーンが希望だった?そしたら、見た目がいい奴連れてくるけど」

「いらないです!アーンいらないです!」


 慌てて答えながらスプーンを手に取り、白い何かを掬って口の中へと移動させると、

「・・・!・・!・・・!」

 興奮のあまり身悶えながら、アリーセはその場で足踏みをする。


「皇国ではクローンの乳牛育成に成功して、乳製品の加工、製造を始めているんだ。これは試供品のアイスだから、遠慮せずに食べていいよ」


 アリーセから少し離れた場所にアベルは座ると、

「あ!ごめん!近かった?近かったよね?」

と、慌てたように言い出した。


 熊のような男アベルは、本当は料理人ではないのだが、生家が子沢山の家で、山ほど居る弟妹の世話に明け暮れながら料理も全てやっていたという実績を買われて、今回、フィルデルンまでやって来て、料理を作る羽目に陥っているのだと説明すると、


「君も、随分と料理を作るのが上手そうだよね?僕と同じように、家族が多かったりするのかい?」


と、何やらモジモジしながらアリーセに尋ねて来たのだった。


「自分は妹が下に二人居るんですけど、母親が今の私と同じように軍部に所属していて、長期の出兵になると教会に預けられたりしていたんですよね。だから、教会に行くと、料理要員として皮剥きとか下ごしらえとか、良くやらされていたんです」


「そうなんだぁ〜」


 熊男のようなアベルは何やらモジモジしながら言い出した。


「ごめんね・・興味本位でこんなむさ苦しい男が話しかけちゃったりして・・」

「え?どいうことですか?むさ苦しい?」

「いや、僕ってむさ苦しいでしょう?もっとイケメンに生まれてこられたらよかったんだけどな〜」

「ええ?それ、嫌かも」


 イケメンと言われると、アリーセの頭の中にはペアだったエルマー・バールの顔が思い浮かんでくるのだ。


「私、イケメン嫌いです」

「えええ!嘘でしょう!」

「顔なんかどうでもいいんです、そんなものは二の次、三の次です。一番大事なのは、浮気しない誠実さです!」


 意思確認のパーティーで真実の愛宣言をされたアリーセは、激しく傷ついた。エルマーの腕に巻きついて、勝ち誇ったような笑みを浮かべるピンク頭を見た時には、二人揃って虐殺してやろうかと思ったほどの怒りを感じていたのだ。


「イケメンが嫌いなんて言い出す娘に始めて会ったな〜」

「いやいや、皇国人って格好良い人多いですよね。貴方だって私としては十分、男らしくって素敵に見えますよ?」


 だから、他に移動して可愛らしい女の子を誘ってきたらどうですか?そう口に出そうとしたアリーセは思わず自分の言葉を飲み込んだ。


「素敵?そんなの嘘だ〜」


 そう言いながらアベルは包丁を取り出すと、次から次へと芋の皮を剥いていく。俯いていて顔が良く見えないが、耳が少し赤くなっている。


 照れているの?照れている?もしかして照れているの?

 大男の照れを見て、こちらまで照れてしまったアリーセは、アイスを食べながら言い出した。


「いや、その、本当に素敵です。私みたいな可愛げのない、愛想もない女の近くになんか座ってないで、もっと可愛い子とおしゃべりして来た方がいいですよ」


「君が可愛げがなくて愛想もない?」


 目が飛び出るほど大きく目を見開いたアベルは、

「誰がそんなこと言ったの?」

と、おどろおどろしいほどの殺気を背中から噴出させている。


「君ほど綺麗な娘、僕は見たことないよ!他の子は適当に遊んでいるのに、一人で野菜の皮剥きなんかしていて、そんなに綺麗で可愛くて、全てが完璧なのに、みんなが嫌がることを率先してやるだなんて、心まで美人ってどういうことなの?神の子なの?女神なの?って僕は思っていたっていうのに!」


「え・・えええ〜!」

「そんなことを言い出す奴がいたら即座に教えて!すぐに鉄拳付きで教育してくるから!葡萄食べる?これ美味しいよ?」

「またまた見たこともないくだもの!」


「僕ごときがアーンなんて大それたことは出来ないけど、与えることは出来るんだよ!食べて!食べて!」

「えええ〜!いいんですか〜!」

「うん!いいの!いいの!これでも僕、なんちゃって料理長だから!」


 料理を取りに来たウィルの側近であるブルーノは、堅物で有名なアベルが茹ダコ状態となって、美人相手に話で盛り上がっているのを見て、思わず生唾を飲み込んだ。


 エプロン姿でアーンし続けている自分の主人もどうかと思うのだが、今まで女性に見向きもしなかった部下の一人までこんな有様になっているのだ。


「怖い!婚活キャンプが怖い!」


 故郷に妻と子を置いてきたブルーノは、狐のような目をますます細めながら、ブルブルブルッと小さく全身を震わせたのだった。


ここまでお読み頂きありがとうございます!

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