ヨノナカは意外と狭いらしい
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貴重なお時間に見合いますように……
翌日。
カッコよく決めたのはいいけど何も思いつかない。
それどころか今撮ってるドラマも終盤で出番も多く考える時間すら無い。
約束の日まで僅かしかないってのにスケジュール真っ黒の多忙な毎日は変わらない。
私が少し決断を間違えればそのスケジュールは一瞬にして白紙に生まれ変わる。休みは欲しい。めちゃくちゃ。
普通の会社員だったらこんな働き方ブラック以外の何ものでもない。ブラックどころか漆黒企業だ。芸能人だから許されるギリギリの働き方。この世界に働き方改革がもたさられる事はないんだろうなぁ。
世間的には自営業みたいなものだから。何があっても自業自得。私が奴の取引を無視すれば今まで取れなかった分以上の休みを突然大量に貰うことが出来るけど…。そこまでじゃない。
この仕事はそんなに言うほど嫌いじゃない。でも好きって訳でもない。
私が本当に好きなのは自分自身でそれを表現出来る唯一の場所がこの世界なだけなんだから。
仮に芸能界に姫乃皐月が居られなくなったら2度と私にはなれないと思う。
いくら沢山の修羅場を乗り越えてるからって普通の会社で普通の仕事をこの姿でする事は難しい。そもそもこれじゃ面接も受からないと思う。きっと面接どころか書類審査すら通らない。そもそも書いてある事全部真っ赤の嘘なんだからちょっとでも調べられたら直ぐにバレる。最近の企業はそういうの細かく調べるって聞くし…そもそも私が今の事務所に提出したやつすらバレてない事が奇跡に近いんだから。
……あれ、そういえばなんで今だにバレてないんだ?
もし、あの時の書類に書かれた事を改めて進藤さんにでも調べられたら……。
今のアイツなら何をしでかすか分かったもんじゃないしな。まずいっ。記事が出てから進藤さんの私に対する信頼は薄くなってるから頼りにも出来ない。
もし、私に聞く前に疑問に思った進藤さんが調べでもしたら取引する前に私が終わる。そしたら奴も逆上して何をしでかすか分からない。なんでこうもピンチが続くかなぁ……。
仕方ない。これもスター宿命、そう思っておこう。そうでも思わなきゃやってられない。
とにかく、2つともなんとかしないと。
考え込み考え込む私を嘲笑うかのように私のスマホにいつもより大きな音で着信音が鳴る。
「わぁッ!!……ビックリした…。え?なんなんだ…こんなタイミングで…ゲッ。嘘でしょ…。なんでアイツから、しかもこんな時に…」
私は渋々電話に出る。
「もしもし……」
とあるマンションの一室。
電話の主に呼び出された私は仕事終わりの夜、そこに立ち寄る事になった。嫌々、チャイムを鳴らし応答を待っていると、テンション高めな女が返事をしながらドアを開ける。
「待ってたわよ!…ダーリン!…それともやっぱハニー!の方が今は嬉しい?」
「…どっちでもないし、どっちでもいいですよ。とにかく部屋に入れてくれません?…和華さん。それとも、希の方がいい?」
「私もどっちでもないし、どっちでもいいわよ。好きな方で呼んで。ふふふっ…。さぁ、入って。ほんと、待ってたんだから」
私は招かれる様に彼女の部屋に入る。
「用って何?こっちは色々バタバタで時間ないんだけど…」
「分かってるわよ。だから呼んだんだもん。とにかく好きな所に座って楽にして。話はそれからよ。あ、ワインでも飲む?最近、ちょっと珍しいのを手に入れてね、せっかくだから開けて女同士一緒に飲んじゃおうか?!」
「いや、私がアルコールを全くダメなの知ってるでしょう?だから駄目なんだってば。それより…」
「それは知ってるけど、私が知ってるのはまだダーリンの事だけだもん。ハニーのあなたがお酒を強いかは別の話でしょう?その姿で飲んだ事あるの?」
「それはないけど……一応体の構造は同じだからその程度で変わるわけないでしょ」
「それは、飲んでみなきゃ分からないわよ~。ほら、ほーら」
半ば強引にグラスに注いだワインを飲ませにかかる。
「おい、ちょっ、本当にダメなんだって。私、少しでもすぐ気持ち悪くなっちゃうから……って、あれ?気持ち悪くない?ウソ、なんで?いつもなら絶対こんな平気な筈ないのに」
「ほら、やっぱりね。あなたぐらいの憑依型なら普段出来ない事でもその姿なら平気だと思ったのよ。あなたがやってる事は二重人格に近いからハニーの時とダーリンの時とは性格が全然違うのよ。ダーリンの事をよく知ってる私だからこそハニーの時とは全くの別人そのものだもの。だから、普段はダメなお酒も今は平気なのよ。まあ、同じ憑依型でも性格は変わっても体内の性質まで変化しちゃう人は珍しいと思うけどね」
「それで済ませちゃっていいのか、これ?」
「いいのよ。自分が納得すれば。今までだってそうやって無理やり自分を納得させてその姿でいるんでしょう?」
「それは、そうだけどさ…」
「なら、それでいいじゃない♪。それよりどう?初めてまともに飲んだワインの味は?」
「……美味しい。こんなに美味しいとは正直思ってなかったわ」
「ハニーにはお酒は大好物だったみたいね」
私は普段飲まないお酒を夢中で飲み続ける。
気づいた時には初めて開けた瓶が既に一本空いていた。
「あれ?もう、私、こんなに飲んじゃったの?」
驚く事にこれだけの量を飲んだのに対して私は全くよっぱらていない。気持ち悪い感じもしないし頭もぼーっとしていなければ、やけにテンションが高くなってる気もしない。
「ハニーはお酒がめちゃくちゃ強い。これも新しい発見ね。……あのワイン、値段も度数も結構高かったんだけどな~…」
「あ、それより。用ってなんなの?ちょっとゆっくりしちゃった私が言えるセリフじゃないけど、今色々忙しいのよ。正直、こんな事してる場合じゃないっていうか…」
「だから、分かってるわよ」
「は?…さっきから気になってたんだけど、分かってるって何が?何も話してないんだから分かるわけ…」
「それが話してなくても私は分かるんだな~、それが。ハニー、今、冴島って男に秘密の事で脅迫されてるでしょ?」
「えっ、なんでその事を…」
「私には金さえ払えばなんでも教えてくれる都合の良い情報屋と知り合いなのよ」
「何よそれ…」
「世の中って結構広いんだからこういう人もいる所にはいるものなの。特に私達みたいな犯罪者のそばにはね。理屈で考えちゃダメよ。世の中そういうもんだって考えた方が上手くいく事の方が多いんだから。犯罪者の近くには犯罪者がいるってだけの話。驚く事じゃないわ。それによくいうでしょう?似たもの同士はよく集まるって。それよ」
「……で、どこまで知ってるの?流石に全てってじゃわけじゃないわよね?…例えば、約束の日がいつなのかとか、どうやって冴島に私の正体がバレたかとか」
「約束の日は今日を抜いて2日後で、バレた理由は冴島が至る所にカメラを仕込んで盗撮をしていた事がきっかけ。だから言ったでしょ?私は全部を知ってるて。それとも何か違ったかしら?」
「いや、全部あってる…ってか、なんで私の部屋だけで話した事をあなたが知ってんのよ!」
「そんなの私に聞かれても困るわよー。その事を知ってるのはあくまでも情報屋で私はその話を聞いただけなんだから。そんなに気になるなら近いうちに会わせてあげるから直接聞いてみたらどう?」
「本当に?………聞いたところでって気がするけど、それなら取り敢えずそうしてみる」
「それにしてもアイツがここまで最低など変態野郎だったとはね~」
「アイツって?」
「大貴よ!冴島大貴!あのバカ、本当に最後まで面倒な男ね…」
「もしかして、下の名前で呼ぶって事はアイツのファンだったりした?まぁ、あなたがあの男の事を好きだとはとても思えないけど」
「当たり前でしょう!誰があんな男の事、好きになるもんですか!!」
「そうよね…」
「ただ、元旦那ってだけよ!!あのバカが…」




