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ナイトメアのその先へ

閲覧感謝です!

貴重なお時間に見合いますように……

「なにが対等よ。アンタがしたいのは一方的な脅迫。その間違いじゃなくって」

「おいおい、話を聞く前に決めつけるなよ。ようやくこれから本題に入るんだ。少しぐらい勿体つけさせろ。いいか、俺が望む事はただ一つ。今まで通り姫乃皐月として生き続けろ」


「は?…それ、どういう意味よ?」

「どういうって、そのまんまさ。世間が大好きな天才スターの姫乃皐月としてお前はこれからもあり続けろって事だよ。さっきも言ったろ?俺はお前を認めてるって。こんな才能のある奴を脅して蹴落としちまったらこの世界にとっても重大な損失だ。それに今の俺がお前を陥れた事で得する事はなにもないからな。それを守ってくれるなら俺はあの秘密をバラす気はないし、秘密は墓まで持っていく覚悟だ」


「そんなの信じると思う?どう考えたってこの取引、私にしか得がないじゃない。アンタが私にする望みは本来私がする物の筈でしょう?アンタ…本当はなにが言いたい訳?」

「本当に俺は信用されてないんだなぁ…」


「当たり前でしょ」

「なら分かりやすく整理しようか。俺はお前の秘密を黙ってる。かわりにお前は今まで通り姫乃皐月として活躍し続ける。……永遠に、俺の為だけに」


「フンッ…それが本音。やっぱりアンタは最低で変態ね!」

「おいっ、勘違いするなよ!あくまでも俺は姫乃皐月という存在って意味で言ってるんだからな!お前の正体を知ってる俺がお前の事をそういう意味で興味があるわけないだろう!お前には悪いが生憎おれはそっちの趣味は無いんでね」


「そう……ってこっちからもそんなの願い下げよ!」

「いいか?これからお前、姫乃皐月は俺の所有物だ。お前に自由は存在しない。お前は与えられた仕事をいつも通りこなせばいい。もちろん、仕事で得た金も殆ど俺のものだ」


「……それのどこが対等よ。ただの脅迫じゃない!アンタはただ都合のいいATMが欲しいって事ね。私を所有物として管理したいから」

「ただのATMじゃない。お前が活躍する限り永遠に金が増え続ける。それはまるで打ち出の小槌の様にな」


「意味分かんない。でもただのクズだって事はわかったわ…きっと自覚もないんでしょうけど」

「でも安心しろ。お前の使い道は金だけじゃないぞ。俺はお前を利用してもう一度芸能界に返り咲く!」


「私になにしろっていうのよ?!」

「方法ならいくらでもある。お前といれば話題には事欠かないだろうからな。時間が経てば必ず俺は復活出来る。その為にはお前が必要なんだよ。このままいけばお前はいずれ芸能界の頂点に立つ事になるだろう。そうすれば誰もお前の言う事、する事全部し放題だ。どんなスキャンダルを起こした芸能人でもお前が許すと言えば世の中も許す。そういう存在にお前がなるんだよ!」


「アンタの言ってる事、さっきから無茶苦茶なのよ!そんなの有り得るわけないでしょう?…」

「有り得るんだよ。芸能界なんてものは無茶苦茶なんだよ!何でもアリなんだよッ!普通の常識なんか通用しない。世間に有名で長年売れてる奴が1番偉いそういう世界なんだよ。俺はソレを長年見てきた。これでも俺はお前より遥かにその世界で生きて来た人間だ。その事を俺はよーーく知ってる。お前だってそこらへんに心当たりがない訳じゃないだろ?」


「……」

「俺がお前と出会う前まで好き放題やれてたのは芸能界で権力を持ってたからだ。現場や局の至る所にカメラを仕掛けられてたのだってそれのお陰だ。それと同じ事をお前もしてきてたんだぞ」


「は?…バカ言わないで。私がアンタみたいな事するわけないでしょう?それに、私がいくら売れてるからってそんな都合の良い力なんて持ってないわ!」


「気付かぬうちに使ってたんだよ。前にお前が俺のいたマンションから彩華を救いに来たことがあっただろ?あの時お前はマネジャーに調べてもらったって言ってたが、何でそんな事出来たと思う。いくら大手の事務所の優秀なマネジャーでも普通はそんな事出来ない。優秀で権力を持ってるタレントを担当しているなら別だけど。大声じゃ言えないが有名なタレントをどれだけ在籍させているかで芸能界での事務所の価値が決まるって言ってもいい。お前の在籍する事務所は秋川や姫乃などと言った現在も活躍している実力のあるタレントも多く、皐月や最近でてきた仁科翼などといったこれからの芸能界を背負っていってもおかしくない未来のスターも多数をかかえた超が付く大手事務所。そんな事務所は芸能界でも数えるられるほどしかいない。でもそれは事務所が力を持ってるからじゃない。お前が力を持ってるから事務所が力を持って動く事も出来るんだ。今までお前が現場で好きにやれてたのも、マネジャーが何でもいう事を聞いてくれて実行出来たのも全部お前自身の力があるからなんだよ」


「……冗談言わないで。私はそんな事一度も聞いてない」

「それもそうだろ。普通のタレントがこんな権力を手にするのはもっと先の話だ。芸能界にいる時間が長ければその存在も理解も次第に出来ていくものだからな。事務所がこの事を言わなかったのは、お前に自分を自惚れさせない為だろう。だから事務所も悪気があった訳じゃない。責めないでやってくれ」


「責めるもなにも……」


 自分はもう取り返しのつかない事をやってると覚悟していたが、こんなにも自分が芸能界で深い存在になっているとは想定外だった。


「要約すると、俺が言いたい事はお前と互いに都合がいちビジネスパートナーになりたいって話なんだ。お前が売れればお前も俺も両方得をする。お前に自由はないと言ったが、自分の時間は用意させるしやりたい事だってやらせてやるから安心しろよ」

「私は……そんな話っ、」


「まぁ、待てって。答えを急ぐな。直ぐに決断しろってわけじゃない。お前にだって心の準備ってやつが必要だろうからな。3日待ってやる。その時までに決断してくれれば文句はない。だから、落ち着いて考えろ。自分の目的の為に、自分を守る為にどの選択が正しいかどうか。……まぁ、選択肢など1つしかないのだから迷いようもないと思うが。一応な。理想の応えを待ってるよ」


 そう言うと私の部屋をジロジロ見渡したあと何食わぬ顔で出て行った。


 奴が言ったように考えるって言ったって選択肢があるわけじゃない。


 奴の取引とやらに乗らなければ私の正体は世間に公開されるだろう。そんな事になったら芸能界どころか現代社会に俺の居場所は無くなる事になる。


 だからって取引に乗れば永遠に私は奴の道具。


 そんなのも絶対ヤダ。


 一応、いつかこうなる事も覚悟はしてた。だけど、私が私である為に簡単に諦めるって訳にもいかない。最悪の覚悟と同時に私は嘘をつき続ける覚悟もしたんだ。


 現実を突きつけらたからって私が容易くそれに従ってたらそれは姫乃皐月じゃない。


 ピンチはチャンス。


 かつて俺が好きで見ていたヒーローもそんな事を言っていた。


 今、その決め台詞は憧れのヒーローから私の決め台詞になる。


 ピンチはチャンスッ!


 ヒーローが遅れてやって来るようにスターの私も追い込まれてからが本領発揮って事を見せてやろうじゃない!


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