いつもみたいにワラッテ
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貴重なお時間に見合いますように……
翌日
私は出演ドラマの特別イベントとして都内の大型ショッピング施設に来ていた。
「レディーマジック」の出演者がドラマの魅力や撮影時の裏話などを話すトークイベントだ。といってもスケジュールの都合もあり出演するのは、事務所が同じという事で多少は融通が利きやすい私と彩華の2人だけ。
2人だけといっても主人公とその相方役が登壇するのだから絵的には十分の筈だ。それを裏付けるようにイベントの開始時刻1時間前には、用意されていた席は既に満席。下が無理ならと2階や3階で上から見下ろそうとするお客さんでいっぱいだ。
私は着替えや準備を済ませ控室で時間を潰していた。
その間も俺の頭の中は昨日の事でいっぱいで考えたくもないのに考えてしまう。暇になるとそんな事を繰り返してしまう。
仕事が始まればスイッチが入って切り替えられるからそんな事気にならないんだろうけど。
「姐さん。どうしたんです?そんな顔して。らしくないですよ?」
「あ、ごめん。もしかして顔に出てた?」
「顔っていうか、オーラ?みたいなものですかね」
「オーラ?」
「はい。いつもの姐さんなら控室でも常にオンの状態でビシバシ殺気を感じるのに今日は感じないですもん」
「殺気って……いつも気を張ってるのはたしかだけど、毎回仕事をする度に誰かを殺してやろう!なんて物騒な事これっぽっちもおもってないわよ?」
「え…そうなんですか?」
「そんな驚かれたらこっちが逆にびっくりよ。毎回そんな事思われてたなんて…。一体、私をなんだと思ってるのよ?」
「何って、姐さんは姐さんですよ」
「そりゃそうなんだけどさ……」
「私の中の姐さんは常に殺気と野心に溢れているけどいざって時は必ず助けてくれる頼れる存在だって勝手に思ってます。実際にそうじゃなかったとしても私の中ではそれが姐さんなんですから。本当の姐さんも私の中の姐さんもどっちも本物なんですよ」
「彩華……もしかして、励ましてくれてる?」
「え?……もしかして、私、役に立ちました?」
「ふふっ」
「え、なんで笑うんですか?私の思ってた事が役にたったんですよね?私、姐さんを励ませれたんですよね~?……え、それとも私の勝手な勘違い?そうなんですか?…って、なんで黙ってるんですか~?」
「大丈夫。勘違いじゃなくて私はちゃんと励まされたから。ありがとう」
「本当ですかー!」
「本当よ、でも、彩華と初めて会った時はこんな感じの人だとは思ってもなかったけどね」
「あの時とは変わりましたから。それとも、今の私はお嫌いですか?」
「全然。昔も良かったけど今の方がイキイキしてる感じで私は好きよ」
「イキイキしてて好き?それって……告白ですかー?!私も大好きでーすッ♡!!」
そう言って私に抱きついてくる。
「ちょっ、彩華?ねぇ、聞いてる?そこまで言ってないし好きは好きでもそういう意味じゃないんだけどな~?彩華さん?聞いてらっしゃいます?とにかく、離れようか?ね、いい子だからさ?ほら、周りのスタッフさんもこれ見てちょっと引いちゃってるからさ、ね」
「でも、進藤さんは黙々と自分の仕事やられてますよ?」
「え、」
言われて振り返るとこちらの方を少しも気にせず何事も起こってない感じで黙々と作業をしている。
「進藤さん?ちょっと助けてくれません?お願いですから…少しだけでもいいんで」
話しかけるとようやくこっちを見る。
「こんなのいつものことじゃない。それにうちの事務所タレントの恋愛は自由だから。それが男でも女性同士でもね。ただし、週刊誌にだけは撮られないようにしてよね。良くも悪くも私の仕事が増えるだけなんだから」
「そんな~…」
進藤さんがこんな状況に慣れすぎてもはやなんとも思ってないなんて……慣れって本当に恐ろしい。
「彩華…そろそろ時間だから準備しないと…ね、離れて、お願い」
「はい……分かりました。なら続きはまた今度って事ですよね。今度は2人だけの時に…」
「そうね、また今度にしましょう。うん、今度」
そんなやりとりの後私達はいつも通りの顔をしてステージに立つ。
そしてなんとか1時間のトークイベントをこなし大盛況に終わった。
だが、今回のイベントはこれだけじゃない。寧ろここからが本番と言っても過言ではないくらいだ。
この後、集まってくれた全てのファンに向けてのサイン会がある。
それも対象者は希望者全員で定員は存在せず時間の許す限りサインをし続けるっていう、ファンの方からすれば天国でサインを書く本人からすれば地獄のようなイベントが始まるのだ。
先程も言った通り会場内は大手ショッピングモールという事もあり大勢の人で溢れかえっている。その為どのくらいの人数がサインを貰いに来るかなんてとても想定が出来ない。
想定が出来ないくらいの人数が来る事だけは想定できているが。
そして、サイン会が始まるとすぐにとんでもない長さの行列がショッピングモールに現れる。
警備員さんやスタッフさんのお陰もあって列は安全に並んでいる。
そこで私達はとにかくがむしゃらにサインをし続ける。
ファンの方達は皆、応援のコメントや差し入れなどをしてくれる。そんな中、ふと横を見ると彩華が必死な顔でサインを書き渡している姿が見える。
私もサインと挨拶を済ませながら列を続々と進めていった。




