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レッドホットスイーツ

閲覧感謝です!

貴重なお時間に見合いますように……

 俺たちは各自何かを頼むことにする。


 2人は飲み物くらいの非常に軽い注文だったが、俺はこの店で1番高いフルーツパフェを頼んだ。


 こんな時に頼むものじゃないのは俺も分かってる。


 でも、どうしたって普段自分じゃ頼まないような物が食べたかったのだ。この場合、招待されたのは俺の方なんだから俺が払うって事はない筈。だったら少しでも高い物を食べたいって考えるのはおかしな事じゃないだろう。


 それに、俺にあの人がしてきた今までの行動を考えたらこのくらいどうってことはないと思う。寧ろフルーツパフェで済むのだから安いものだろう。


 俺は運ばれてきたフルーツパフェの写真を撮り、頬張りながら話を聞く。


「お前、凄いな……よくこの状況で堂々とパフェが食べれるもんだ」

「別に。だって俺は何も悪い事してないから。せっかく来たんだから好きな物食べないってのは勿体無いでしょ」


「それはそうだが…」

「そんな事より話の続き。本題はまだ済んでないんでしょ?だったら早く話してくれ。このパフェが食べ終わるまでは聞いてあげるから。さっきも言ったけど一応これでも忙しいんだからな」


 俺は少し強がりながら話す。少しでも気を緩めると自分の立ち位置を見失いそうで怖かったから。


「忙しいか…」

「別に信じなくてもいいけどさ」


「そういう訳じゃない。ただな、」

「ただ?」


「お前、俺と一緒に働く気はないか?」

「…は?」


「それで俺達と一緒に暮らそう!」


「…………悪い。俺の聞き間違いだとは思うけど念の為もう一回聞いていい?」

「分かった。俺達と一緒に暮らそう!!」


 さっきより大きな声で自信満々に宣言する。


「……嫌だ。そんなの無理に決まってるだろうが。そもそも一緒に暮らすってなに言ってんだ!アンタには今一緒にいるべき家族がちゃんといるだろう。奥さんだって、あって間もない俺と一緒に暮らすなんて嫌に決まってる。そもそもアンタら新婚で子供だってまだ幼い。俺なんかにかまってる暇はないだろう?」

「柚希には既に話をして許可を得てる。だから心配はない」


「はぁ…。奥さん、それ本気ですか?いいんですか?だめですよね?だめならダメってちゃんと言わないのコイツは分かりませんよ!」

「大丈夫ですよ。私は寧ろこの話を聞いた時少し嬉しかったんです」


「嬉しかった…何がですか?」

「だって家族が増えるんですよ。そんな嬉しい事はないじゃないですか?それに今日あなたと話してその気持ちはもっと膨らみました。だってあなた、面白いんですもん。きっと楽しくなるに決まってます」


「いやいや……」

「どうしたんだよ?何がそんな嫌なんだ?」


「何がって…言われてもさ」

「家だって大きいって訳じゃないけどお前の住んでいる家よりは大きいし自分の部屋だってある。それの何が不満なんだ?」


「別にそこは心配してないんだよ……そこじゃないんだ…俺が困るのは」

「やっぱり俺とは住めないか?」


「それは……当然だろ。いきなり再会したと思ったらまた一緒に住もうなんてできる訳がない」

「俺を恨んでるのは分かってる。でも、だからこそ俺はお前ももう一度暮らしたいんだ。頼む。俺にもう一度チャンスをくれないか?」


「……だから、無理なんだって!」


 この人の事をどう思ってるとかそんなのは関係ない。そもそも一緒になんか住んだら本業が出来なくなる。だから、どうしたって無理なんだ。それを言うわけにもいかないしな。


「……お前が頷いてくれたなら俺から会社にお前の事を頼んでやってもいいと思っている。実はちょうどうちの部署の人手が足りなくてな。誰か知り合いでいい人がいないか聞かれてるんだ。俺との関係を黙っていたいならそれでもいい。名字だって違うし法的には家族関係は切れてるから黙っていればバレる事はない。お前だって今のままじゃいけない事くらいわかってる筈だ。少し前に会社を辞めたのは婚約者に騙されたからなんだろ?」

「ッ。なんでそれを…」


「言ったろ。探偵にお前の事色々調べてもらったって。その時にその事も知ったんだ。それがきっかけで仕事も手につかなくなって、今は何をやるって事も無くやりたい事もないんだろ。お前はまだ25だ。俺と違って失敗をしたってまだいくらでもやり直せる。辞める前までは立派に会社のエースはって頑張ってたって聞いたぞ。そんなお前なら大丈夫だ。今からだってまた前のように元に戻れる。それを俺達に、見守らせてくれないか…」

「……戻れないんだよ、もう…」


「え?」


「戻る訳にはいかないんだ!!俺は今のままでい続けなきゃいけないんだよ!…」


 さっきまでそれなりに良かった空気が一瞬として悪くなる。空気が悪くなった事を察してなのか娘さんが泣き出してしまった。そんな状況になっても父親の気持ちは変わらないようで。


「お前、本気で言ってんのか、それ?」

「言っただろ、俺は忙しいって。忙しいにはちゃんと理由があるって事だよ」


「理由ってなんなんだ?」

「言えるわけないだろ。言えたとしたってアンタにだけは言わないから安心しろよ」


「……考え直せ。一緒に住むのが嫌なら、最悪それでもいい。でも、仕事だけは紹介させろ。俺は父親として今まで何もそれらしい事はできなかった。自己満足なのは分かってる。だけど、このくらいはやらせてくれ」

「だったら簡単だ。父親らしい事をしたいなら何もしないでくれ。今までアンタがしてきたみたいに。周りがどうかは知らないが俺にとってはそれが父親らしい行動なんだよ」


「…………」


 娘さんをなんとかあやし終えた奥さんが間に入る。


「あの、もう少しだけ考えてくれませんか?この人ずっと今日あなたに会える事を楽しみにしてたんです。色々と思う事があるのは分かりますがもう少しだけ、どうか!」

「奥さんすみません。…あなたはこの人の事信じてあげてください。俺にはそれが出来ません。今日会ってみて、確かにこの人は変わったみたいです。今のこの人なら俺ももう一度信じてみるのも面白いかなって思えるぐらいは」


「それなら…」

「でも無理なんです。嘘をついてる人間に誰かを信じる資格なんてありません。できるのはただ、嘘を真実にする為に誰かを信じさせる事だけ。ま、これも所詮自己満足でしかないんですけどね」


「どういうことですか?」

「あー、いいんです。特に深い意味はありません。だから、それで、だからってのも変ですけどとにかく一緒には住めません。ただ、気持ちは嬉しかったです。今日会うまでは気持ちですら嬉しいなんて思いもしませんでしたから」


「…俺は諦めないからな」

「ご勝手に。心変わりする事はないと思いますけど」


 こんな空気のまま12年ぶりの再会は終わる事となる。


 結局、その時の食事代は割り勘となった。


 やっぱりアイツは最低だ。

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