1が偶然.2度目が奇跡、そして3度目はウンメイってね
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貴重なお時間に見合いますように……
俺たちは指定された席に座る。
「久しぶりだな。元気してたみたいで良かったよ」
「……本当に。二度と会う事なんかないって思ってなんで驚きましたよ。実の子供を捨てた父親が12年ぶりに会いに来るなんてドラマだけの出来事だと思ってましたから」
「そんなに敵意を向けないでくれ。俺に敬語は必要ない。お前の気持ちはもっともだが久々に会ったんだ。もう少し落ち着いて話さないか?」
「ならお言葉に甘えて。こっちは別に会いたくなかったし、俺の気持ちが分かるならどうこう言う前にもっと先に言うことが他にあるんじゃないの?」
「悪かった。…本当にすまなかった!父親として絶対にやってはいけない事をしてしまった。許してくれとは思わないし、しなくていい。だけど、これだけは聞いてくれ。本当に申し訳ない!!」
他の客も見ている中で席から離れ土下座で謝る。
ありきたりな謝罪だ。
こんな事をされた所で俺の何かが変わるとでも思ってるのか?でも、謝るとは正直思ってなかった。しかも土下座で。
俺の知っているこの人は少なくても他人に謝るような奴じゃ無かった。それが人前となったら尚更。そんな奴がこうもあっさり頭を下げるとは意外だ。意外過ぎてちょっと引いてるくらいだ。
「言われなくたって許すわけないだろう。それにその為に今日来たわけじゃない。本当に反省してるって言うなら早く席に戻ってくれ。こっちが恥ずかしい……」
俺に言われると素直に席に戻る。
「で、何の用?こう見えてもこっちは結構忙しいんだ。謝りたかっただけならこれで帰るぞ」
「待ってくれ。話はそれだけじゃない。寧ろこっからが本題でもあるんだ。時間は取らせないから頼む。それに言うほど忙しくないだろ?仕事がある訳じゃないんだから」
「は?そんな事関係ないだろ。ってか何でそんな事知ってんだ。そういえば、家の住所だってどうやって知ったのか気になってたんだ。さっさっと説明してもらおうか?」
変わったと言ったが訂正する。やはりコイツは変わってない。
「悪い。どうしてもお前と会って話がしたくて。探偵に調べてもらったんだ。その時に色々知った。お前の住所から今なにやってるのかとか全てな」
探偵!?
そんなのに頼んだのか。全然知らなかった。変な事調べらてないよな?でも、仕事をしてないって言ってたから姫乃の事まではバレてないって事で考えていいんだよな。
普通に考えたらキレてもいい場面なんだろうが今日はグッとその気持ちを我慢する。
「…色々文句は言ってやりたいが我慢してやる。だけどこれ以上俺の事には関わるな。アンタに今の生活に対して文句を言われる筋合いなんて無いんだから」
「勝手に調べたのは悪かった。さっきの発言も謝る。もう、そんな事しないって誓うから。もうちょっとだけ話を聞いてくれ。本当に頼む」
「…………。それなら、早くしてくれ。望み通り話だけは聞いてやるから」
「分かった。ありがとう。でも、もう少しだけ待ってくれないか。お前に会わせたい人がいるんだけど。そろそろ来る頃だとおもうんだが……あっ、来たぞ。こっちこっち」
またか。最近多くないか?俺に会わせたい人がいる人。
この短期間に3度目だぞ。
さて、今回は一体どんな人かな~?
1人目が生き別れた妹で2人目は俺を騙した結婚詐欺師。俺を捨てた父親が紹介したい3人目は!
「紹介する。妻の柚希と娘の沙羅だ」
「はじめまして」
一歳にも満たないくらいの可愛い女の子だ。アイツの血を引いてるとは思えないくらい可愛らしい。
「…どうも。はじめまして……」
沙羅ちゃんにも遠慮しながら手を振りかえす。
今までが特殊過ぎたんだ。このくらいが普通か。ちょっと期待しすぎたな。
ちなみにこのパターンはありえない事じゃない。俺を捨てたのも新しい女をつくったからだ。だから結婚しててもおかしくないのだが、気にかかる事がひとつだけ。
奥さん若過ぎないか!?
俺と同じくらいか下手したら俺よりも若く見えるぞ?それともめちゃくちゃメイクで若く見えてるだけかも?あの時の女だとしたらもう少し歳をとってたっていいはずだ。それとも、
「あの、初対面でいきなり失礼かもしれませんがおいくつですか?」
「昨日23になりました」
「そうですか……、おいっ!」
俺はアイツに詰め寄る。
「どういうことだよっ。流石に若過ぎないか?どれだけ年離れてるって思ってんだ?」
「35離れてる」
「35!あ、そう。となると、12年前奥さんは11歳だった事だよなぁ……それって犯罪じゃねぇか!!そういうことか。だから、あの時俺たちを捨てたんだな。これは喜ぶべきなのか?俺達を犯罪者の家族しないでくれてありがとうって」
「違う違う。それは誤解だって!」
「なにが違うって言うんだ?」
「あの時の女性じゃないんだって。彼女とはあれから間も無くして別れた。柚希とは3年前に知り合ったんだ。だから、これは断じて犯罪じゃない。巷でよくあるただの歳の差婚なんだから」
よくあるって……35歳は巷でよくあるるレベルじゃないだろう。
「柚希とは俺の働く会社に新入社員として入ってきたんだ」
「てことはアンタ、後輩に手を出しちゃったってことだ?」
「ま、そうなるな…」
「はぁ………」
俺は深く露骨な溜息をつく。
「そんな顔するなよ…。別に悪い事をしたわけじゃないんだから」
「俺は別にいいですよ。俺は。誰と結婚しようが俺には関係ないんですから。幸せになろうがそうじゃなかろうがどっちでもいい。だけど、奥さん本当にいいんですか?コイツは最低で最悪なクs…」
最後まで言いかけた瞬間、奥さんの隣にいた沙羅ちゃんと目が合い、話すのをやめて奥さんに近づき再び小声で話し続ける。
「小さい子にはこういう事聞かせたくないと思うんで耳元で失礼しますね。…本当にいいんですか?コイツは最低で最悪なクソ野郎ですよ。自分の事が第一で家族の事なんか少しも考えなかったような奴です…それとも全て分かった上での決断なんですか?」
落ち着いた表情で話しだす柚希。
「あなたの話は結婚する前に聞きました。最初はそれを聞いた時、この人の事正直めちゃくちゃ軽蔑しました。なんでこんな人を私は好きになってしまったんだろうって後悔もしましたよ。でも、それを信じたくなかった自分もいて。戸惑いました。このまま一緒になったって今度は私が捨てられるんじゃないかって不安もあったけどそれでも信じたかったんです。私が好きになった人を」
「コイツは簡単に信じていいような奴じゃない」
「分かってます。たしかにこの人は不器用だし、他人から見たら信じたいと思えるような人でもない。今までの言動から考えてもそう考えるのが普通です。過去のこの人を知ってるあなたからして見れば私の決断は信じられない事だと思います。でも彼は変わったんです」
「変わった?…コイツが。人間そんな簡単に変われない」
「だから変われたんです。簡単じゃないから。12年かけて彼は変わったんです。今までしてきた後悔を取り戻す為に少しずつ進んでいったんだと思います。あなたにもう一度会いたかったから。過去の彼を知ってるあなたならその変化に気付いてるはずですよね?」
「それは…まぁ…」
「世の中から見たら彼の変化なんて些細なものだと思います。でもその変化が彼の日常を変えたんです。…だから私とも会えてこうして今、この子がいるんですから」
「…………」
「彼の事は許さないでください。私もこの人の妻として夫がしてきた事を許すつもりはありませんし共に責任をとっていくつもりです。だからと言って私達の事を信じてくれってのは無茶なお願いだと思います。だから、この人を信じた私を信じてくれませんか?」
……この奥さん、俺より歳下だって思えないくらいしっかりしてる。
今までだったらこんなちゃんとした人とアイツは付き合えなかったと思う。
それもコイツが変わったからか。変わったから過去を知っても一緒になる事を選んだんだ。
「ちなみにこの人、今は大手企業の企画部部長として頑張ってるんですよ。まあ、58歳って年齢で部長ですから不安なのはわかりますけどね…」
「部長!?この人が……今まで定職にすらつかなかった人が正社員でしかも部長って……マジかよ」
驚いていると大人しくしていた沙羅ちゃんが突然泣き出した。
「お?どうしたどうした。ごめんな、ずっとかまってもらえなかったから寂しかったのか~?」
娘を必死になってあやす父親。
本当に変わったって事か……この人は。
この人はもう俺を捨てた最低な父親なんかじゃない。あの子にとって最高の父親になろうとしてるんだ。いや、既になってるのかもしれない。
なんだよ……変わってないのは俺だけって事かよ。
なんか、下手に意地張ってるのもバカらしくなってきたかも。
「…言われなくても許しませんよ。この人の事は今でも嫌いだし、会いたくもなかったけど、嫌でも父親ですから。だから話くらいは聞きますよ。まだ、あるんでしょう?12年ぶりに会ったんだ。俺もまだ言いたい事は山程あるんだ。本当は文句だって嫌味だっていくらでも言えるけど今日は出来た奥さんに免じて我慢しとく」
「お前…」
「でもさ、話すのは後にして何か頼まない?これだけ長くいてなにも頼まないのは大人としてどうかと思うし、さっきから店員さんの視線がずっと痛いんだ……」
「…それも、そうだな」
俺たちは各自何かを頼むことにした。




