因縁との再会はオドロキが勝っていて…
閲覧感謝です!
貴重なお時間に見合いますように……
ドラマの撮影を終え俺が再び姫乃皐月としての覚悟を決めたその後。
俺はとある目的がありファミレスに向かっている。
これは仕事関係でもなければ姫乃皐月関係でもない俺の話だ。
最近は俺が外出する事なんて殆ど無かった。知っての通り、姫乃でいることの方が圧倒的に多い為この姿でいることすら最近では稀になっているからだ。
だからこうなってるのにはちゃんと理由がある。
言っとくが気分転換とかそういうものじゃない。
きっかけは俺が住んでいる部屋に届いた1通の手紙からだった。住んでいるとは言ってもここに戻ってくるのは月に数回ある程度。何故ならそこは今の仕事をする前までに暮らしていた部屋だからだ。
普段は姫乃皐月というスターに見合った超高級マンションにいる事の方が多いのでこのおんぼろアパートに戻って来ることはあまりなくなっていた。ただ、自分に何かあった時のために保険としてこの部屋を借り続けている。姫乃皐月のマンションには男が使うような生活用品などは一切置かないようにしている。もし誰かがその部屋に来てありもしない誤解が生まれるのを防ぐ為だ。そして俺宛の書類や手紙がマンションに届いたら面倒な事になることもあるかもしれないのも防ぐため。
だから俺に関する全ての物はこの部屋に集まるようにしている。
そしてこの場所だけが俺でいれる唯一の場所。
数日前、息抜きの為にこの部屋に久々に訪れた時、ポストを確認すると普段は絶対に届かない様子の手紙が届いていた。
宛名を確認して俺は驚いた。
名前は霧橋雄二郎。12年前に再婚した女を突如裏切り他の女を選び消えた男。
そして俺を捨てた最低な父親だ。
正直もう顔なんかあんまり覚えていないし思い出したくもない。それなのに名前だけが忘れられない。そんな奴から突然手紙が届いた。
それを見た瞬間驚きと同時にアイツに対する嫌悪感が俺を襲った。
俺は手紙を読まずに捨てようとゴミ箱の前に立つ。後はこの手を離せば手紙は捨てられる。が、俺はそれを躊躇してしまう。
読む必要なんかないって分かってるのに無性に気になってしまう。
読んだところでアイツに抱いている嫌悪感が消える訳でもないし読まなくてもそれはきっと変わらない。むしろもっと強くなるかも。読むだけだ。パッと開いてパッと読んだらすぐ捨てる。そしたら俺も心地良く次に進めるはずだ。俺は手紙を開き内容に目を通す。
手紙の内容はとてもシンプルで簡単な謝罪と俺に逢いたいという、わがままな内容だった。そんなの行くわけがない。ご丁寧に日時と待ち合わせ場所も書いてあるが俺が本当に行くとでもコイツは思っているのか?
どこから俺の住所を調べたかも分からない奴に会いに行けと。
この世で1番嫌ってる奴にわざわざ会いに行くほど生憎俺は暇じゃない。その日だって当然仕事が入ってるから行けない。
その筈だった。
昨日までは。
いや、さっきまでは。実は本来のスケジュールならあの撮影の後も別の仕事が予定に入っていた。その筈だったのだが撮影終了後に入っていた仕事の延期が知らされた。正直やりたかった。本当に。
だって仕事なら行けなくても仕方がないからだ。だけど行けるようになってしまった。まぁ、それでも行かなければいいだけ。寧ろ午後がフリーになったおかげで久々に自由に出来る時間ができたのだ。ちょっとだけ遠くに行って羽を伸ばすのも良し、美味しい物を食べてリフレッシュするのもいい。とにかくこの時間は何をしたっていいんだ。だったら好きな事をやるに限る。そんな事分かってるのになーー。
本当に俺ってバカだ。
貴重なオフの時間を後悔するって分かってる事に使うなんて俺は馬鹿げてる。俺は会いに行こうとしている。
会ってどうするんだ。会って許すのか?許すわけがない。文句は言ってやるが。
久々に会うからって格好まで気を遣っちゃう俺って一体何がしたいんだ。自分でも分からなくなる。
そして俺は待ち合わせ場所に指定されたファミレスに到着した。ちなみに俺は専門的なレストランよりこういう感じのお店の方が好みだ。最近はあんまり来れてないけど昔はよく来てた。だから結構ここに来れた事は嬉しい。理由が違ったらもっと嬉しい。
俺は待ち合わせ時刻丁度なのをを確認して店に入る。
こっちが呼ばれてるのだから遅く来たっていいのだろうが敢えて丁度にしてみた。時刻より早く来るのはアイツに気を遣ってるみたいで嫌だしわざと遅刻するのもプライドが許せない。
「いらっしゃいませ。お一人ですか?」
「いえ、待ち合わせしてて……」
俺は店員さんにそう伝え店内をグーっと見渡す。前も言ったがアイツの顔はうろ覚えだ。正直気付けるかも分からない。見つからなかったら見つからなかったで構わない。だって俺は悪くないし。
一通り全体を見たがそれらしい人物は見当たらない。時刻は既に過ぎている。俺より遅く来るなんて流石に有り得ないだろうからきっと俺が気づけていないだけだ。
諦めて帰ろうとしていると後ろから新たな客が入ってくる。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「4人です。残りはすぐ合流しますんで……」
俺はチラッと客の姿を見た後、店を出ようとしていると後ろから声が聞こえる。
「おい、どこ行くんだよ?」
声に反応して思わず俺は振り返ってしまう。後ろにはさっきの真面目でしっかりしてそうな雰囲気な客しかいない。
きっと気のせいか自分ではない誰かの事だと思い、気にせず出ようとすると再び声をかけられる。
「俺たちの席はこっちだぞ」
明らかにこの客は俺に向かって話している。
「はい?」
「はい?じゃなくてこっちだって」
まさか……いや、知らない人だ。アイツのわけがない。だってアイツの面影すらないんだぞ。いくらアイツの姿がうろ覚えだからって、流石にこの人とは別人に決まってる。そのくらいは判別できるぐらい覚えてるつもりだったんだが…この様子は、
「なに惚けた顔してるんだ。俺と会う為にわざわざ来てくれたんじゃないのか?」
確定。どうやら気のせいでは無かったらしい。それにしても変わりすぎだろう。こんな変貌遂げてたら12年ぶりに会う奴が分かるわけないだろうが!
「まさか、お前、俺のことが分からなかったのか?」
「……当たり前だ。こんな間違い探し分かるわけないだろう。変わり過ぎててもはや間違いのいきを超えてる」
「フッ。そうか?……とにかく詳しく話は席に座ってからだ。ここにいると他のお客さんに迷惑だからな」
他人に気を遣っているだと。
…俺の記憶の中じゃそんな事が出来るような奴じゃなかったはず。
この12年間で変わり過ぎだろ……。




