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私達はきっとカワラナイ

閲覧感謝です!

貴重なお時間に見合いますように……

 私は控室に戻り帰る支度を済ませ部屋を出ると予想外。秋川さんが私に声をかけてきた。


 私は普通に挨拶を済ませ帰ろうとすると腕を掴まれる。


「え?!……」

「時間は取らせないからちょっと来て」


 私が引き連れられながら向かった先は秋川さんの控室だった。少し強引に私を部屋に入れると扉の前を塞ぐ。


「あの、」

「これでしばらくここには誰も来ないし、この部屋はこの建物の中でも1番端で近くに他の部屋もないから誰かに聞かれる心配もないわ」


「一体どうしたんですか?わざわざこんなに気を使われなくても用があるならその場で言ってくだされば良かったのに」

「そろそろそういうのやめない?」


「やめる?…何をですか?」

「だから、それよ。さっきも似たようなこと言ったけどまどろっこしいのはやめなさい。お互いこの後も用事あるんだろうから。私が貴方の秘密に気づいてる事ぐらい勘のいい貴方なら分かってるでしょうに」


 まさか、いやあり得ない。


 気づいてるはずがない。


 だって会ってから疑われるような言動は何もしていない筈だぞ。


 だからここは堂々とはぐらかす。そしていいタイミングで話題を変えてここから帰るしかない。


「秘密?ですか?。私は何も隠してる事なんか……そんな事より今日は本当にありがとうご…」

「そう。この私相手にまだしらを切れると思ってるんだ?でも残念。他の人は気付けなくても私にはバレバレ。アンタ、男でしょ」


 衝撃の一言に私は動揺を見せないように必死に平常を装う。ここでスキを見せたら完全に終わる。でも今ならまだなんとか。


「何言ってるんですか~!私が男、そんな訳ないじゃないですか!どこからどう見たって女に決まってるじゃないですか。もしあれなら触って確認します?」


 ここまで言えば流石にアッチも引くでしょ?


「いいの?本当に?貴方がいいなら私は喜んで貴方を調べてあげる。だって同性同士だものね。何も問題なんてないし女同士ならこういう事はよくある事だしね」


 ゲッ…。完全にやらかした。


 かえってこっちが不利になるなんて。でも、冷静に考えたらそりゃそうだよね。


 くそッ。もう、無理だ。


 とっくにバレてる。


 この人にはきっと何をしたって無駄なんだから。


「…………」

「だんまり?じゃあ、遠慮なく…」


 秋川の手が私の体に触れようとした瞬間、はその手を掴む。


「分かりましたよ。私の負けです。煮るなり焼くなりあなたの好きにしてください。いつかこうなることぐらい自分も覚悟してたはずですから」

「イヤよ。アナタなんか食べても美味しくなさそうだもん。こう見えても結構好き嫌い激しいんだから」


「驚きました。ああ見えて秋川さん天然だったんですね」

「あーー……」


 呆れた表情を見せる秋川を私は不思議がる。


「なんです?もしかしてそれはご自分ではお気づきではなかった?」

「そうじゃなくて、天然なのはアナタのほうでしょ。さっきのはアナタの事を誰にも言わないっていう私なりの例えでしょ?業界人なら今の誰でも分かるわよ」


「いや、分かりませんよ。ってかそれってどういう事ですか?」

「だから、私はアナタの秘密を口外する気は一切ないって言ってんの!」


「そうなんですか?」

「そうよ。私がアナタの足を引っ張るようなマネしてなんの得があるっていうの?」


「私はてっきり私を蹴落とす為の手段にそれを利用するのかと思ってました…」

「どこまで自意識過剰なのよ。私とアナタが肩を並べるなんて1000年早いわ。ま、私の次にスターなのは認めてあげるけど。それに、自分の事が好きで自信があるのはいい事だけどねー。自分の事すら好きになれない奴が誰かに好きになってもらおうなんてなんて烏滸がましいんだから」


「それと似たような事、前に進藤さんにも言われましたよ」

「それもそうよ。だって私も昔進藤さんに同じ事言われたんだもん。あの頃の私はただ頷く事しかできなかったけど今の私ならその意味が分かる。それを私なりに後輩に繋げるのも先輩の役目よ。だから姫乃も私みたいに自分の後輩に繋げてあげて。自分なりの言葉でいいからさ」


「でも、本当にいいんですか?自分から言うのも変ですけど私なんかが居ていい世界じゃないのは事実ですし……」


「そうね。確かにここは本来アナタのような人がいていい世界じゃない。でも今はこうしてここに居る。そんなアナタに悩む必要も此処から逃げる資格もそんなもの元からあるはずないでしょう。居ていいかどうかじゃない。

 ファンがいる限りアナタはい続けなきゃいけないのよ!何がなんでも!

 アナタが嘘を告白したところで全てが元通りになる訳じゃない。だって私は別に嘘を否定したい訳じゃない。当然私だって嘘をついた事はあるしこれから先も嘘をつく事はあるでしょうからね。でも全ての事には必ず理由があるみたいに嘘にだって理由と意味が必ずある。嘘はバレれば人を傷つけ、嘘をつき続けても自分を苦しめるだけ。そんな呪いにかけられる。どんなに苦しかろうが将来地獄に落ちようがこのままいるしかないのよ。一度ついた嘘はつき続ける道しかない。でも、バレなければそれは嘘じゃなくて紛れもない真実になるって信じてね」


「まるで自分も嘘をついてるみたいな言い方ですね……」

「さあね?それはどうでしょう。でも、これだけは言っとく。私はアナタの味方だから。アナタの嘘を真実にするためなら私は必ず力を貸すって約束するわ」


「そんな約束、一度でも本当にしたら見返りが怖くてこっちからは頼めませんよ」

「信じるのも頼るのもアナタの好きにすればいいわ。これは強制じゃない。私はただこの気持ちを伝えたかっただけだから」


「あの…一つだけ聞きたい事が。いつ私の正体に気づいたんでしょうか?秋川さんに会うのは今日が初めてですし何がきっかけで気付いたのか気になって。今後の参考にする為にも」

「会ったのは今日が初めてだけど見るのは初めてじゃないもの。私が気づいたのはアナタを最初に見た瞬間。貴方がデビューいきなりで表紙に載ったあの雑誌を見てよ」


「え……アレでですか?本当ですか?自分で言うのも恥ずかしいですけどあんなに仕上がっている私は滅多に出てこないと思うんですけど…」

「でしょうね。あの写真は良かったし最高だった。普通はあの写真を見てまさか男が載ってるなんて思わないでしょうし気づきもしないから安心しなさい」


「ではなんで?」

「そんなの私が普通じゃないからに決まってるでしょ。わかりやすく言うなら私はスターだから。スターは変わってるのよ」


 それだけ言うと彼女は一足先に部屋を颯爽と出ていく。


 誰もいなくなったその部屋で私は深くため息をつく。上には上がいるってよく言うがその通りらしい。


 今まで疑惑を抱かれることすら無かった私を一瞬で見破ったのだから正に格上といったところ。


 格上がいたから逃げるのか。やってはいけない事をしてるから辞めるのか。でも本来ならその選択が正しいに決まってる。


 間違いだらけの選択をしてきた私がそんな選択肢に気づいても選べるわけがない。


 彼女が言ったみたいにもうやり切るしか道はないのだから。


 姫乃が生まれた時から私の行き先は既に決まっていたんだ。


 バレるまで終われない、バレたら終わりの地獄への片道切符。


 それに気づいたら迷いなんか自然となくなった。嘘つきだろうが詐欺師だろうが私は私であり続けるだけ。


 それがスターの生き様になると信じて。


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