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1番星はキラッキラッ

それから数日後。


 あれから私は手の震えが治らず仕事を休んでいた。


 ……って言いたかったんだけど、手の震えは次の日にはあっさりと治まりいつもと同じように仕事をしていた。ただこれからの事を考える為に休みを取る事も本気で考えた。でも、それをしたら今の自分を否定する事になる気がしてそれが嫌だった。否定した自分に残る物なんか何もないって分かってるから。


 今の私には亡くしたくないものが多すぎる。


 地位も名誉も私にならなきゃ手に入れられなかった。


 そうじゃなきゃ妹とも再会出来てないからだ。


 自分の未来に目を背けるしか今はできなかった。私であり続けるためにはそれしか。


 その判断がどんな代償を払うことになったとしても。


 もう俺にだけは戻れない。


 それに今日の仕事だけは休みたくなかった。私の一つの目標が叶いそうだったから。


 シーズン2が決定した私が主演のドラマ「レディーマジック」この第一話の撮影が今日行われるのだがそこに特別ゲストとして秋川朱音とついに共演する事になったからだ。


 秋川朱音といえば私の所属事務所の看板女優でもあり国民的トップスター。


 出演したドラマは大ヒット作ばかりで、彼女を起用した作品の撮影時はなにもトラブルなく予定通り進むって噂は業界では有名な話。私につく前までは進藤さんが秋川のマネジャーを担当していてたこともあり私にも多少は縁がある存在だ。


 私がこの世界に入ってから1番初めの目標が秋川を超えること。

 

 今の私がその秋川を越えているかは正直微妙なところ。自分で言うのだからこんなところくらいは自信をもって越えてるって胸を張りたいが、そうもいかなそうだ。


 勢いだけでいえば確実に私の方が有利だが、社会的知名度や業界内での評判を比べれば恐らく彼女の方が優位に立っているだろう。


 それだけ彼女には才能も実力も両方を併せ持つ凄い人だってことだ。


 こういう人が本当のスターって言うんだろうな。


 ハリボテの私じゃとても敵わない。


 でもそんな存在の彼女とようやく一緒に仕事が出来る。初めの目標こそ達成出来てないが彼女と場所にいれるようになっただけ良しとしよう。


 それに私も本当の天才を目の前にすれば諦めもつくかもしれないし。


 私が現場に到着してから数時間後。


 遂に秋川が現場に現れる。因みにこの時点で既に予定の時刻よりだいぶ押している。押すこと事態はこの世界ではよくある事。


 それに、多忙な秋川は他の現場を終えてからここに来ているのだから予定の時刻よりズレるのも仕方ない。なので前の仕事が伸びればこっちの時間は巻くしかない。秋川はもちろん、私にも次の予定や仕事があるからだ。


 だからここでは絶対に押す事はできない。


 キャストもスタッフも全員それは承知の上。でも、我々に残された時間は僅か30分しか残っていない。秋川の着替えやメイクの準備もしなければいけないし撮影するまでには色々と時間が掛かる。


 それに予定していた撮影時間は最低でも2時間は掛かる予定だった。それを30分で済ませるのはどう考えたって無理に決まってる。だから今日は私と共演する最初のシーンだけ撮って続きはまた後日って感じかな?


 私のスケジュールはドラマ用におさえてあるから何とかなると思うけど秋川のスケジュールは難しいだろうなぁ。


 進藤さんが担当してた頃は常に真っ黒で空いてる時間なんか殆ど無かったって言ってた。もしかしたら秋川の出演はまんまお蔵入りで別のキャストで撮る事の方が現実的かもな。


「秋川さん入られます」


「よろしくお願いします」


 スタッフ達に頭を下げながら現場に入ってくる秋川。


 あれ?現場に着いたのさっきだって言ってたよね。まだ5分しか経ってないのに完璧に準備が済んでいる。


 ヤバっ。まだ私、挨拶してないけどこの時間がないタイミングでするべきか?


 でも、後輩だし初対面だし一応簡単にでも挨拶は済ませた方がいい気もするし。

 

 あーーなんでこんな時に限って進藤さんはいなんだよー!


 進藤さんがいれば私の事紹介してくれたりして上手い事行きそうだって思ってたのな~。


 今日はたまたま体調を悪くして休むからって他のマネジャーとか付けずに1人で行ってこいって言うんだから無茶苦茶だよなぁ。でも無茶には慣れてるから別にいいんだけど……。


「ごめんなさい。私のせいで撮影遅れちゃって」

「え?」


 私は頭を抱えて必死に悩んでいて自分の事で精一杯だった。だから秋川が私の近くに来ていた事に気づけなかった。慌てて振り返ってみたらいきなり謝ってくるんだもんな。


 格上の人が格下のタレントに頭下げて謝ってるんだ。周りの目も考えたらこの絵面は色々とやばい気がする。


「あ、いやいや私は気にしてませんから。秋川さんがお忙しいのは私も知ってますし周りのスタッフの皆さんも分かってますから早く顔をあげてください。周りの皆さんの視線に耐えられなそうなんで……」

「本当にごめんね。前の仕事が終わった時点ではもう少し早く来れる予定だったんだけど車が渋滞にはまっちゃって……」


「だから大丈夫ですって。そんな事この世界ではよくある事だと思いますから。それより私の挨拶が遅れたほうがヤバいですし。こちらこそ本当に申し訳ありません。私、姫乃皐月と申します……」

「大丈夫。もちろん知ってるから。そっちこそ気にしないで。それに進藤さんからも話は聞いてるしね」


「話、ですか?」

「うん。あ、でも悪口とか変な事じゃないから安心してね。その話聞いて一度は会ってみたいって思ってたから今日こうやって会える事が出来て嬉しい」


「私もです。憧れの秋川さんとドラマをご一緒できるなんて夢みたいです!」

「本当に?」


「もちろん!本当ですよ」

「そう。これは本当なんだ?」


「はい?」

「いや、気にしないで。そんなことより早く撮影始めましょう」


「あ、はい。でも流石に今日中に全部終わらせるのは難しそうですね……」

「え?終わらせるつもりだけど」


「……いや、でも後20分もないですよ。リハーサルをやらなかったとしても難しいのでは?」

「大丈夫。台本は全部頭に入ってるし演技のイメージも完璧に出来てる。あと、これは自慢だけど私が出演したドラマの現場では一度も押したことがないんだから」


「本当ですか?……」

「本当よ!あ、前の仕事が押してたから疑ってるんでしょう?」


「そういうわけじゃないんですけどね……」

「さっきまでの仕事は他のドラマの番宣で出演したバラエティの収録だったから。だけど今回はドラマの撮影。それなら確実的に大丈夫。私の事を信じなさい。信じてればあなたにとって面白い体験が出来るかもしれないわよ?」


「は?面白い、体験ですか……」

「そう。始まってみれば分かると思うわ。あなたならね」


 その勢いのまま撮影が始まる。残された時間は僅か。本当にこの時間で全てが撮り切れるとはとても思えない。


 メイクや着替えは移動中に済ませてきたみたいだけどそれでも……。


 とにかく私はやるべき事をやるだけ。自分がミスさえしなければいいんだから。

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