ワタシの姿は漆に染まる
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貴重なお時間に見合いますように……
「貴方も分かってる通り私は今の芸能界に欠かせない国民的スター。自分で言うのはアレかもだけど、今後は今以上に稼げるようになるのは間違いないわ」
「だったら私には何を望むわけ?取り引きなんだからアナタにも何か目的があるんでしょう?」
「私が望む事は2つ。1つは今回の獲物からは手を引く事。もう1つは私の事を誰にも口外しないって事よ。それを守ってくれるならこれ以上何も求めない。私を放っておくだけで貴方が受け取るお金はみるみるうちに増えていくわけだし、その全てを貴方が自由に出来るんだから、こんなに魅力的な話はないんじゃないかしら?」
「そこまでしてアナタになんの得もないじゃない!何の為にそこまでするの?まさか、自分のマネジャーの親族を守る為だけが理由じゃないでしょうね?!」
「それだけあれば私には十分だからよ」
「十分って……笑わせないでよ!ただの知り合いの他人でしょうが!?そんな奴の為にそこまでしようとするなんて馬鹿げてる!!」
「かもね。それでも私はこの想いを変える気もないし辞めるつもりも無い。ただ、理由をそれ以外に求めろというのならこれはただの自己満足。まぁ、私がしている全ての行動がそれに当てはまるんだけど…私はその満足を得た時の快楽を味わいたいが為にやってだけなのかもしれないわね。理由なんか必要ないし、なんだっていいのよ。自分がしたい事なんだから」
「…世の中的に見たら私みたいな犯罪者は狂ってる部類に入る人間なんだろうけど、アンタも大概ね。イカれてる」
「俺を騙した詐欺師にだけは言われたくないね。で、どうするの?この取り引き受けるの?」
「そんなの決まってるでしょう?…こんな上手い話を断る奴は犯罪者としてまともじゃない」
「なら取り引き成立って事で。コレもお好きにどうぞ」
札束が詰まったトランクケースを閉じて、彼女に差し出す。
「1つ質問いい?」
「何?」
「私を詐欺師って知ってるのに本当に私のこと信じるつもり?私がアナタから金を奪えるだけ奪ったら裏切る可能性だってあるでしょう?アナタが私を追い詰められるだけの証拠は無いけど、私は持ってるんだから」
彼女が見せたスマホには先程の男から女に変わる一部始終が写っていた。
「こののネタを売る所に売れば想像以上の金額を出してくれる奴もいるだろうし。もしかして、その事までは考えてなかった?」
「せこい人ね…だけどそんな事しないでしょ。これだけの好条件でそんな事をする奴はそれこそまともじゃない。それに」
「それに?」
「それに貴方は私のファンだから。そんな事する筈が無い」
「フフッ……そうね。ファンだからか。…………間違いないかも」
そう言うと目の前で映像のデータを消す。
「アナタとはいい関係が築けそう。これから宜しく。あ、データのバックアップとかそんなつまらないマネはしてないから安心して」
「そんなの気にしてないわよ。でも、この取引にのってくれて助かりました…正直不安な点もあったから」
「あら、アナタが言ったんでしょう?この好条件にのらない奴はまともじゃないって。私はまともなんだから受けるに決まってるじゃない。でも、それだけが理由じゃないのも本当よ」
「何それ?」
「もしかして気づいてないの?……なら教えてあげる。それは、アナタが私と同じ詐欺師だからよ」
「は?」
「は?ってこっちのセリフよ。それ本当に言ってるわけ。それとも自覚がないの?違うわよね?」
「私は貴方とは違う。一緒にしないで」
「違わないわよ!騙し方や目的は違うけどやってる事は同じ。むしろ私よりアナタの方がよっぽどスケールの大きい事をやってるのよ?考えてもみなさい。女だと嘘をついて芸能界にデビューをして今では誰もが憧れる国民的大スターになってる。まさにそれって国民全員をターゲットにした詐欺じゃない!アナタが騙しているのは仕事関係の人だけじゃなくアナタの事を知っている全ての人をアナタは騙してるんだから!それのどこが私と違うのよ」
「違う……俺は…詐欺なんて……」
「もっと自信をもちなさいよ。こんなの未だかつて誰も成し遂げた事の無い偉業なんだから。凄い事よ。誰もマネなんか出来っこない。そもそも思いついてもそんな事行動には移さないわよ。悔しいけどこの私でもそんな馬鹿げた事は出来ない。でも尊敬もしてる。だから、私はアナタの取引に応じたの。それに同じ穴のムジナならたとえ詐欺師同士でも信じれる。アナタもそう思ったから私を信じたんでしょ?」
「違う!!……一緒にするなぁ!!」
図星をつかれた気がした私は酷く激昂する。アイツの言ってる事は間違ってない。そんなの分かってるし分かってた。なのにどうしてこんなに俺は動揺している?どうして私はこんなに感情的になってる?
「怒らないでよ。私はあなたのこと褒めてるんだから。とりあえず今日の所はこれで帰るわ。また連絡するわねダーリン♡。いや、今はハニーかしら?またね!」
そう言うと奴はここを後にする。
…おかしい。
アイツは帰ったんだぞ?
ここにはもういないんだぞ。
だからもう動揺だってしていないし落ち着いてる筈なのになんで、なんで手の震えが止まらない?……理由は分かってる。
なのに俺はそれを否定しようとしている。
最初は自分を騙した奴等のようにこっちも騙してやりたいっていう浅はかな気持ちが私を産んだ。
でもその気持ちは次第に晴れていって今ではそんな気持ちなんか微塵もない。だからこの行動は間違ってなかった。
そう思ってたのにそれがいつの間にか新しい目標を作りこれが生き甲斐になってしまった。
やってる事はアイツみたいな詐欺師と同じだというのに。
この事で苦しみ人や悲しむ人は私が売れれば売れる程増えていく。最初は分かってた。分かっててやってきた筈だ。こうなる事も覚悟だってしてた。
それを忘れる前までは。
今の私は一体何者なんだ?
彼女の発言が自分の確信をついた事は間違いない。
だから私は考えなければいけない。
考えたくはなかった私の終わりをどうするか。果たして無事に終われるのか。
いや終われるわけがない。
なにせ私は犯罪者と同じなんだから。




