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マネージャーとマネジャー

閲覧感謝です!

貴重なお時間に見合いますように……

 俺が帰った後、社長室に一人の女性が入って来る。


 その女性の名は進藤 京香。


 進藤は、事務所No. 1女優 の秋川 朱音の専属マネジャーで彼女が新人の時から今に至るまで全てをサポートしてきた。しかも、社長とはただならぬ関係で今は社長の右腕として腕を奮っている。


「社長!!何故彼女をスカウトしたんですか?それに前金として一千万もの大金を渡すなんて異常です!あの一千万は新しい事業を始めるための大切な資金のはずでしたよね?」

「そうでもしなければ彼女に逃げられていた。新事業は一度中止にすればいいだろ。私が初めて声を掛けたあの場所には、既に他の事務所のスカウトが分かるだけでも十人はいたんだぞ。もちろん、全員狙いは彼女だ」


「そんな馬鹿な……?」

「嘘みたいな話だが事実だ。私もそれに気づいた時は驚いたよ」


「では、既に彼女は他の事務所にも声をかけられていたという事ですか?」

「いや、それはないな」


「??」

「彼女の常に出ている天才的なモデルオーラにやられて声をかけたくてもかけられなかったのさ。私だって久々に緊張したんだぞ。例えるならまさに高嶺の花だ。手に届く所にあるのにいくら手を伸ばしても何故か届かない。そんな感じさ。わかるかい?」


「…………正直例えはサッパリですけどまぁ、何となく?」

「それでもきっと時間の問題だっただろう。いつ、他のスカウトが彼女に声をかけてもおかしくなかった事には変わりないからな。。そうなってしまえば私でも彼女を落とすのは難しくなるだろう。だからどうしても一番最初に声を掛け、印象付ける必要があったのさ」


「…お言葉ですが!私には、彼女がそれだけの価値があるようにはどうしても思えません。見た目やスタイルもそれなりで実力もあると思います。でも、たったそれだけです。このままデビューさせてもたかが知れています。やはり、この契約解消するべきです!今ならまだ……」

「だったら君が、彼女をそれ以外をも併せ持つ一流にすればいいだけだ。今のままでは信用できないというのなら君が信用するに値するだけの人間に育てればいいだろう」

「そんな……いい加減な!!」


 彼女は社長の机に拳を叩きつけ必至に抗議する。



「まぁ、落ち着け。そんなに怒ったて仕方がないだろ。もうこの事は決まった事だ。異論は認めん」

「どういう事ですか?」


「君にはこれから姫乃の専属マネジャーとして側についてもらう」

「何を言っているんです?私には既に秋川がいます。それなのに無理に決まってるじゃないですか!」


「別に無理な話じゃない。君の代わりに他の人間が秋川のマネジャーをやればいいだけだ」

「他の人間に秋川のマネジャーが務まる訳がありません!!社長もその位分かってますよね?」


「確かに秋川はウチの事務所一の稼ぎ頭であり、一番の問題児でもある。そんな彼女をコントロール出来るのは君しかいないだろう」

「なら……!」


「それが一年前ならな」

「えっ……」


「彼女も変わったって事さ。きっと一流のスターとしての自覚が出てきたんだろう。昔よりも大分大人しくなったし演技に幅も出てきた。君もバカじゃない、本心ではそんな事分かってるんだろ?」

「それは…………………」


 図星だった。


 昔と違ってスキャンダラスなトラブルも起こさなくなったし、前なら嫌がっていた仕事も今では何も言わずに完璧にこなしている。

 それに以前なら監督やスポンサーなどの権力を持った人間には挨拶をしていたが、何故か他のスタッフを必要以上に毛嫌いして自分から挨拶は愚か、他のスタッフが挨拶をしても返す事は一切無かった。

 でも今は、現場の監督を始め周りのスタッフにも気を配り自分から会話もしている。


「君が彼女を変えたのさ。君が彼女に常に寄り添い全力でサポートしてきた結果が出たんだ。喜んでいい。おかげで今となっては自他ともに認める国民的大スターになったんだぞ。彼女は新たなステップに進んだんだ。もう、彼女に君は必要無い。そろそろ君も新たな道を選んでいい頃だとは思わないか?」

「……それでも私は……秋川の側にいたいんです。それは秋川も同じ気持ちのはずです。私達は二人三脚でここまで来たんですから」


「既に秋川は了承済だ」

「そんな…………嘘でしょ」


「秋川は君に感謝してたよ。今の私が在るのは進藤さんがいるからだって熱心に伝えてくれた。それに、「私を超えられる女優を育てられる人は貴方しかいない。楽しみにしてる。」ってな。彼女に新たに付けるマネジャーは私が信頼する一流の人間だ。だから安心してくれ」


 社長の言葉に声が出ない。


 これからの彼女に対しての安心感からなのか、それとも彼女が他の人間に取られる嫉妬や恨みからなのか、私には分からなかった。


「君が姫乃を一流に。そして、秋川を越えられるだけの怪物を君が造るんだ。君が育てた天才を君と姫乃が共に越えるんだ。それが出来るのは君達しかいない」

「私が…………私には、出来ません」

「君も姫乃に会えばきっとわかるさ。それだけの価値が彼女にはある」


 これだけ言われてもまだ私は納得出来ないでいた。その様子に社長はついに痺れを切らした。


「もし、君が彼女と会ってもまだ、認められないと思うのならその時は社長の座を君に譲ろう」

「え、えッーーーーー!」


 突然の一言に思わず咳き込む。


 嘘でしょ。


 社長を辞める。そんなこと本気で言ってるの?いやいや、いくらなんでも嘘に決まってる。


「社長、本気じゃないですよね?」

「もちろんマジだ。そもそも俺が社長でなきゃいけない理由なんて全くないんだからな」


 あっ、この人本気だ。


 社長が本気をマジと言った時は本当に何が起こるか分かったもんじゃない。今までもこの一言にどれだけ苦しめられた事か…………正直、思い出したくもない。


「私が認めなかったからって、何もそこまでする必要ありません。それに、この事務所には社長が必要ですから」

「心配してくれてありがとう。だけど問題無い。君は絶対に彼女の事を認めることになるからね」


「それって、脅しのつもりですか?」

「いや、そうじゃない。とにかく会ってみれば意味がわかるはずだ。それでもダメならいつでもこの席を渡す準備は既に出来てるって事だ」

「その言葉覚えていてくださいね!」


 社長は自信満々に頷き少しだけ笑う。


 私はその姿を脳裏に刻みその場を去った。



 ああは言ったもの、明日私は姫乃と会ってどうするのだろう?


 社長の座が欲しいが為に問答無用で認めない選択肢を取るのだろうか。

 それとも、社長が言うように彼女だけの魅力に気づき考えが変わるかも知れない。

 このまま考えが変わらなければ私は晴れて事務所の社長だ。別に今まで社長になりたくて仕事をしてきた訳じゃ無い。むしろ社長の右腕として側に入れる事に誇りを持っている。でもこのまま何もせず姫乃の事を認めるのも癪に触ってならない。だったら正直にその時の自分の気持ちに従うしかないじゃないか。


 全ては明日で決まるのだから。


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