フェイクに塗れた晩餐会
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貴重なお時間に見合いますように……
今、私は偶然と必然その両方を体験している。
俺が私になる前、そうなるきっかけを作ったと言っても過言ではない人物と会っているのだから。
その名は浜岸希。
ま、今は違うと思うけど。俺の元婚約者であり俺の全財産殆どを奪ったその筋では有名な詐欺師だ。あの時はどんなに会いたくても会えなかったのにこのタイミングで会う事になるなんて…
正直今は会いたくなかったし、二度と会う事もないと思ってたからこんな事想像もしていなかった。現実は小説よりも奇なりとよく言うがどうやら本当みたいだ。
そうじゃなきゃこんな事起きるはずがない。
「どうしました?姫乃さん?」
声をかけられて思わず反応する。
「フェッ?!あ、はい?」
「いや、なんか私の顔見るなり驚かれたような表情をしてたので気になって」
「あーー。そうなんです。思わず驚いちゃったんですよ。貴方が驚くほど綺麗な方だからつい、スミマセン」
びっくりして変な声出ちゃったし表情の事誤魔化さないと。
「そんなぁー。綺麗だなんてとんでもないです。姫乃さんの方が私の何十倍も綺麗に決まってるじゃないですか~。でも、あの姫乃さんに褒めてもらえるなんて光栄ですし、正直めちゃくちゃ嬉しいです!」
「落ち着きなよ。和華。姫乃さんに会えたから嬉しいのは分かるけどちょっと静かにしないと。ほら、周りの人も見てるしさ、騒ぎになったらこうやって一緒にいられる時間も短くなっちゃうんだから」
「……そうだね。ありがとう、淳」
「彼女がごめんなさい。ちょっと興奮しちゃったみたいで」
「いいえ気にしてませんから」
他の事は色々と気になるけど。
「ご挨拶が遅れました。私、兄の進藤淳と申します。そして彼女が婚約者の橘和華さんです」
「1人で勝手に興奮しちゃったみたいでお恥ずかしいです」
メイクや髪型は俺の時とは違うがあの魔性な雰囲気はあいも変わらず健在みたいだ。
「あの、今日はお忙しい中来ていただいて本当にありがとうございます。今日は絶対に僕達にとって思い出深い日になる筈です」
「ほんと感謝してよね。姫乃のスケジュールをこの為になんとか調整した出来る妹を」
少し前から今日の夜が珍しく空いてるなと思ってたけど前から計画してたって事か。じゃああのお願いも最初から聞いてもらう事前提で話してたって事になる。やっぱり侮れない人だな。進藤さんは。
「分かってるって。だから、今日は奮発して普段は行かないような超高級レストランに来ているんだろう?」
「なら、何を頼んでもいいわよね?…おにいちゃん!」
いつもは聞いたこともない様な甘い声と怪しげな表情でお兄さんに尋ねる。
「げっ……いいけど、一応遠慮してくれると助かるかな。これから結婚式の費用とかで色々かかりそうだしさ、」
「すみません」
進藤は話の途中にもかかわらず何食わぬ顔でスタッフを呼ぶ。
「このフルコースを4つ。あと、このお店で1番高い料理に合うワインをください」
「おいって……」
進藤が頼んだのはメニューの中でも1番高いフルコースだった。しかもワインと一緒に。
「なに?文句でも?」
「いや、そうじゃないけどさ、もうちょっとなんとかならない?」
「別にいいじゃん。今日を思い出深い日にする為の私なりの配慮よ。それに、せっかく来てもらった姫乃に中途半端な物食べさせる訳には行かないでしょう?」
「それはそうだけどさ……」
「だってたまにの贅沢なんでしょう?だったら今日ぐらい奮発したってバチは当たらないわよ。和華さんだって今日ぐらい良いもの食べたいですよね~」
進藤の問いかけに対して言葉では無く微笑みで返す。
それを見て淳も踏ん切りがついたらしい。
「よし、分かったよ。今日は贅の極みとして思いっきり楽しむ事にしますか!」
タイミングよくワインが注がれ、私達は乾杯をし食事を楽しみ始めた。




