タマシイの叫びに震えて
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貴重なお時間に見合いますように……
「お前、私に拾ってもらった恩を忘れたのか?ここまで育ててもらった恩を忘れたとは言わせないぞ!何の為にわざわざお前を拾ったと思ってるんだ。出来損ないの妹でも娘なら利用価値があると思ったから強引にでもこの家で引き取ることにしたというのに!」
「ちょっと、それってどういうことですか…」
「本来ならお前はどこの家にも引き取られる事はなかったんだ。お前の母親はお前を産む前に家を出て家族と呼べる繋がりなど何もなくなっていたからな。だから、アイツに娘がいた事も死ぬまで知らなかったし、何度も結婚を繰り返してたことだって何も知らなかった。そして死亡の連絡を聞いた時私は思ったんだ。出来損ないの娘でも私が育てればいくらでも使い道はあるってな。お前は私の理想通りに育ってくれただろう。生活環境だって妹の時と違って豪華な暮らしで何不自由無い生活をさせてきた筈だ。それの何が不満なんだ!感謝こそされど文句を言われる筋合いは何もない。今なら許してやらんこともない。それともお前は貰った恩を仇で返すというのか!!」
「黙れ」
俺は気がつくと奴の胸ぐらを掴んでいたし、俺の堪忍袋は既に限界を迎えていた。
「な、何をする!離せっ!お前、モデル風情が調子にのってると後悔するぞ」
「黙ってなさいって。いい加減にしないと小物なのがバレるだけよ。まぁ~~ピーチクパーチク言ってくれっちゃって。……出来損ないだ?あの人は出来損ないなんかじゃないし皐月はお前の欲望に忠実な駒じゃないんだよ!!」
「姐さん、落ち着いてください!」
私は彩華の声が聞こえて少しだけ冷静さを取り戻し、胸ぐらを突き放す。
「失礼。つい、クセで」
「もう~、姐さんったら。ビックリしましたよ。でも、ちょっと格好よかったですけどね」
「姫乃さん。もしかして母と知り合いだったりしますか?」
「え!?なんで、そう思ったの?……」
「さっきあの人って言ってたじゃないですか。それって知ってる人じゃないと出てこない言葉だなぁと思って」
ヤバッ。興奮してつい口を滑らせた。
「あ、それは、ただの言葉のあやってやつよ。だから気にしないで。興奮して色々言っちゃっただけだから。ね、お願い」
「…なるほど。そうですか。分かりました」
これでなんとか誤魔化せたかな?
「お前達、私にはむかってただで済むと思うなよ。私が本気になればお前達を業界から消す事だって不可能じゃないんだぞ。今ならまだ許してやる。私から貰った恩を返すチャンスをくれてやる。だから、黙って私に従えよ!」
「アンタさ……」
私が言いかけた瞬間、
「ねぇ、さっきから聞いてて思ってたんだけど、私達恩を返してもらうような事何もしてないんじゃない?」
え?
「涼音は黙っていなさい」
「だってお父さんも私もこの子に何ひとつ家族らしい事してきてないじゃん。何処かに行くにしても、何をするにしても皐月の居場所は無かったでしょ。いや、作らせなかったって言った方が正しいと思う。別に皐月の事が嫌いって訳じゃなかったけどなんとなく距離を置くように自然としてたから。そんな私達がこの子に返してもらうものなんて何もないよ」
「お姉ちゃん……」
「涼音、お前まで私に歯向かうのか」
「お父さんもいい加減この子を自由にしてあげなよ。私達家族が出来るのはもうこのくらいしか残ってないんだからさ…」
「うるさいッ!!黙れ!お前達は何も分かっていない!」
「分かってないのは父さんも一緒だろ」
後ろから声が聞こえ振り返るとそこには非常にスタイルのいい男が部屋に入って来た。
「お兄ちゃん!」
お兄さん。この人が。
まぁ~脚が長くてスラーっとした身体で正にモデル体型って感じの人だな。これがあの父親と同じ遺伝子を持っているとは真には信じられん。
「貴虎がなんでここにいる。仕事はどうした?今日は大事な会議があった筈だろ」
「そんなのとっくに終わらせてきましたよ。涼音から皐月が帰って来てるって聞いて慌てて帰って来たんです」
「……お前が口を挟む事じゃない。いいから仕事に戻れ」
「俺達は父さんに感謝してるよ。何不自由無い生活だって送らせてきてもらったし、現在の自分の生活も不満は無い。それも全部父さんのお陰だって分かってるから…でも今があるのは俺たちが父さんの為に自分の幸せを諦めたからだ!」
「何が言いたい?」
「だから父さんは何も分かってないって言ってるんだ。もう良い機会だから言っちゃうけど涼音にはなぁ!結婚する前から付き合ってた彼氏が他にいたんだ。なのに父さんのせいで仕方なく別れる事になって好きでも無い今の相手と結婚する道を選ぶ事になったんだよ!」
「バカ!それは言わない約束でしょうがバカ兄貴!!もういいのよ。そんなの終わった話なんだから」
「俺は今だに納得してないんだよ!お前には好きな相手と幸せになってもらいたかったから」
「だから、気にしてないって言ってるでしょ!今は今で私なりに子供達と幸せになってるから問題ないの。あとね、言っちゃっていいなら、兄貴だってお父さんの仕事なんて本当は継ぎたくなかったんでしょう!本当は俳優になりたかったんだから」
「バカ!そんなわけあるか!」
「何言ってんのよ。学生時代は内緒で演劇部に入って本気で目指してたくせに」
「だからそれを言うなって言ってるんだ。恥ずかしいでしょうが。いいんだよ、俺にはそんな才能より普通に仕事をしてた方がむいてるってわかったんだから」
なんかいきなりカミングアウト合戦みたいなのが始まったぞ。
「でも正直皐月が芸能界で働き出してるって話を聞いた時は少しだけ羨ましかったけどな」
「それは私も同じ。自分の為に正直に生きてるって感じが私には出来なかったからさ、本当に凄いと思った」
揉め出したと思ったら今は和やかムードの2人。そんな2人の空気を私達も何となく微笑ましく思っていたのだが1人はその空気がお気に召さないようで。
「お前達!!いい加減にしろ!!全員つべこべ言わずに俺に従っていればいいって言ってんだよ!」
父親の怒号は家中に響き渡った事だろう。再び部屋の空気は悪くなるかと思ったがそんな事は無かった。
寧ろ勢いがついたくらいで。
「「だから、アンタの駒になるのは私達、俺達だけでいいって言ってんだよ!いい加減気付きやがれバカ親父!!」」
2人の言葉を思わずハモられる事になった。2人の思いは同じだった。ハモった事が恥ずかしかったのか、それとも考えていたことが同じだったからなのか2人の顔は少しだけ赤くなっている様にも見えた。




