魔王との縛りプレイ
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貴重なお時間に見合いますように……
私達は女性の案内のもと進んで行く。
恐らくこの人は皐月のお姉さんだな。少し前に結婚して2人の子供がいるって言ってたから間違い無い。それにしてもお姉さんのは話が通じる方で良かった。
母親の方は何を言っても同じ答えしか返って来なかったからね。この人が来なかったら父親に会う事は出来なかっただろう。
「姐さん」
樹が小声で私にひっそり話しかけてくる
「ん?」
「なんかこの家気味悪くないですか?ちょっと家の外観からは想像できない空気感が漂ってるんですけど…」
「うん。私も正直これ程とは思ってなかったからビックリしてる。まあ、彩華はとにかく何があっても私の話に合わせてればいいから安心して。いいわね?」
「はい。分かりました」
「あの……」
今度はお姉さんが私にひっそりと話してくる。
「あ、ハイ。なんでしょう?」
「あの、父親に会わせるお礼って言うとなんなんですけど…後でサインいただけませんか?2人とも」
「勿論。構いませんよ。私達ので良ければ。いいわよね、彩華」
「ええ。私も喜んでお書きしますよ。それに今なら写真もお付けします」
「えー!本当ですか!?それって姫乃さんとツーショットとかもアリですか?」
「特別ですよ。ただSNSとかにアップするのだけはご遠慮くださいね。できるだけ大事にはしたくないので」
「分かってますって。誰がこんな宝物を見知らぬ他人に見せますか。お約束します!」
そんなやり取りをしていると父親の部屋らしき前に着く。
「あの、もうお分かりかも知れませんが父はとても気難しい性格でして、話になるかどうかはなんとも…」
「大丈夫ですよ。そこら辺はこっちがなんとかするつもりですから」
「……期待してます。では、」
涼音が扉をノックするが返事は聞こえてこない。
「お父さん。私です。入りますよ」
それでも返事は無い。
「では、入りましょう」
「あの、返事無いみたいですけど大丈夫ですか?」
「あ、これが普通なんで気にしないでください」
涼音が扉を開けたので私達もそれにつられながら部屋に入る。部屋の中は豪華絢爛。知識がない私でも雰囲気で分かる程のブランド品や骨董品が沢山飾られている。部屋の雰囲気は正にラスボス部屋って感じだ。分かる人は分かると思う。とにかくおどろおどろしい空気感が漂っているのだ。そして部屋の奥には魔王が話しかけられるのをジッと目をつむり黙って待っている。
これは私から話しかけるべきなのか。お姉さんの方を見ても代わりに紹介してくれるような様子はない。話しかけようにも何から話し始めればいいのかよく分からないし、そもそも本当に話しかけていいのか?
話しかけた時点でいきなりゲームオーバーみたいなことはないよな。落ち着け。相手はラスボスみたいな格好をしてても一応私達と同じ大人なんだ。落ち着いてちゃんと話をすれば分かってくれるはずだ。
そんな事を考えながらもう一度お姉さんの方を向くと思わず目が合う。
すると何も言わず黙って頷く。
自信満々に頷かれてもって感じだが、やるしかない。とにかく最初は挨拶から。
姫乃皐月らしく好きにやればいい。
「初めまして。私、皐月さんと同じ事務所でモデルや女優をしている姫乃皐月と申します。隣にいるのは同じくモデルをしている樹です。まず、本日は突然アポも無く押しかけてしまい申し訳ございません。ただ、謝って早々ではあるのですが娘さんの事私に全てお任せいただけませんか?」
「姐さん…」
相手は既に娘が何をやっているかなんて知っているはずだ。だったら余計な事は言わずに本題に入った方が都合が良さそうだ。まさに先手必勝。それに、本人がいない今ならあっちも色々と話しやすそうだしね。
すると魔王は閉じていた目を開き、私の方をジッと見続ける。
なんだ?状態異常の魔法でもかけてくるのか?
一応まだ私はこんな冗談を思えるくらいなので内心余裕なのだろう。
でも、どうする。
このまま私が話し続けてもいいものか。てっきり私は直ぐ反応があると思ってたからここまで考えてなかったぞ。まるでその真っ直ぐな瞳は私を見透かそうとしている様だった。
そんな時間が過ぎるとようやくラスボスが口を開く。
「姫乃さんと言ったね」
「はい」
「悪いが私は芸能の世界には疎くてね、君の事もあまりよく分からないんだ。ただ聞くところによると今をときめく有名人なんだってね。知らなかった自分が恥ずかしいよ。本当にすまないね」
私を知らない?って事はあの写真を最初に見たのは父親じゃないのか?
「いいえ。私もまだまだですからお気になさらず」
「そんな事本当は思ってないだろう」
「それはお互い様ではないのですか?」
思わぬやり取りなのかお姉さんは動揺しているみたい。恐らく、この人に口答えをする人間はいないのだろう。仕事関係の人はもちろん、家族も含めて。それもあってばかりの奴がいきなり喧嘩を売ってそれを買ったんだ。驚くののも無理はない。
「久しぶりだよ。私にそんな事を言う奴は。たまにはそういうのも悪くない」
「それは良かったです。なら、こちらも遠慮は必要ありませんね」
「で、今日は何をしに来たのかね」
「先程も言った通り、娘さんの事でお話があります。」
「で、話はなんだ?」
うん?
「ですから娘さんの事で話があるんです。お分かりですよね?」
「君も分からない人だね」
「それはそちらでしょう」
「私はその事を話す気は無いって言ってるんだ。君は女優なんだってね?だったら私に合わせるべきなんじゃないか?ここでは私が主役だ。空気を読みなさい」
「それ、本当に仰ってます?」
「フンッ。君には私が冗談を言うように見えてるのか?」
「いいえ。とてもじゃないですが…」
「なら、話題を変えろ。それ以外なら何でも話を聞こうじゃないか。これでも私は君の事をを気に入ってるんだ」
「あら、それは光栄ですね」
「いきなりだが、君が望むなら我が社が取り扱っている全ての事業のCMを君に任せてもいいと思っている」
「え?」
思わず彩華が口を出してしまう。
彩華が驚くのも仕方がない。これが本当ならとんでもないレベルの仕事が大量に舞い込んで来るって事だ。契約金だって今までとは比べ物にはならない程の額になるだろうし、何よりこの仕事を全てこなせば私も芸能界で確固たる地位を築く事も夢じゃない。
普通ならこの話断る理由は無い。
だけど、
「初対面相手にそんな話は都合が良すぎる。それに私は娘さんの事で話があって来たんです。わざわざ休みを返上して自分の事を売りにきたわけじゃない」
ここでこれを呑んだら昔の目標は叶っても今の目標が叶えられなくなる。
「そうか。少しは面白い奴が現れたと思ったんだかな……それなら話は終わりだよ。早く出ていきなさい。生憎私には話さなきゃいけない相手が別にいるのでね」
「いいえ。私もその話に付き合わせていただきますよ。その為にせっかくの休みを使ってここまで来たんだ。私も簡単には帰れないんですよ」
私は食い下がる事なく必死に噛みつき続ける。こんなとこで離れる訳にはいかないんでね。
2人の沈黙が場を支配していて部屋の空気は澱み今に何が起こってもおかしくない。
すると扉をノックする音が聞こえる。




